エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない

秋月真鳥

文字の大きさ
上 下
208 / 528
七章 辺境伯領の特産品を

28.留守番にもレーニちゃんはお泊りする

しおりを挟む
 お茶会が終わってレーニちゃんが帰るときに、わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんと両親にお願いをしていった。

「わたくし、国王陛下の生誕の式典で、ディッペル公爵夫妻が王都にお出かけになっている間、ディッペル家に来たいのです」

 去年はわたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんがリリエンタール家にお邪魔した。
 今回はレーニちゃんがディッペル家にやってくる。

「わたくしからもお願いします。レーニ嬢のディッペル家訪問を許してあげてください」

 クリスタちゃんもレーニちゃんと一緒になって頼んでいる。

「わたちからもおねがいちまつ。レーニじょうといっちょにすごちたいの」

 ふーちゃんまで言い出すと両親は弱かった。

「リリエンタール侯爵にお手紙を書くので、少し待っていてもらえますか?」
「はい、お待ちしております」

 お客様を全員見送ってから、両親はリリエンタール侯爵に手紙を書いていた。
 帰りの馬車に乗るときにホルツマン伯爵夫妻とラルフ殿はひたすらわたくしたちに頭を下げていた。わたくしたちが両親に今回の件を報告しないように内心願っていたのだろう。
 もちろん、わたくしもクリスタちゃんも今回の件はしっかりと両親に報告しておくつもりだった。

 手紙を受け取ったレーニちゃんが馬車に乗って帰って行くのを、馬車が見えなくなるまで見送って、わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんと両親はお屋敷の中に戻った。
 外は空気が冷たく、雪が積もっていた。
 マフラーやコートの防寒具を脱いで、ストーブに当たると、わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんは両親に話し始めた。

「お茶会でホルツマン伯爵家のラルフ殿がレーニ嬢に声をかけて来たのです。お茶に誘ったのですが、レーニ嬢は嫌がっていました」
「そこにフランツが助けに来たのですが、ラルフ殿は敬語も使わずに、フランツを『なんだこのチビ』と侮辱したのです」
「わたち、『チビ』といわれまちた!」

 訴えかけるわたくしたちに両親がよく耳を傾けてくれている。

「フランツが名乗って、ディッペル家の息子と分かったのですが、その後も敬語を使わずに失礼な態度を取っていてとても腹が立ちました」
「わたくしたちがお茶をしているとホルツマン伯爵夫妻とラルフ殿で謝りに来たのですが、お姉様が勇敢にホルツマン伯爵夫妻とラルフ殿を責めていましたわ」
「わたち、ゆるちたくなかったけれど、さんさいだから、ゆるちまちた」
「フランツは立派でした」
「フランツは十二歳のラルフ殿よりもずっと礼儀正しかったですよ」

 報告を終えると両親が眉間に皺を寄せている。

「ホルツマン伯爵家には厳重に注意を促さないといけないな」
「元ノメンゼン子爵の妾の娘を引き取って育てているという噂も気になります」
「ホルツマン伯爵家のことに関しては、これから対処していこう。エリザベートにやり込められたのならば、もう手出しはしてこないと思うが」
「それでも、妾の娘の件は非常識と言ってもおかしくありません」

 両親の中でホルツマン伯爵家に嫌な感情が生まれた瞬間を見た気がした。

 お茶会であったことの報告が終わると、着替えて楽な格好になる。
 ふーちゃんはまだ元気だったが、まーちゃんはさすがに疲れたのか、着替えたらベッドで少し眠って休んでいた。

 両親のお誕生日が終われば国王陛下の生誕の式典がある。
 生誕の式典には子どもは出席できないので、わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんはお留守番である。
 お留守番をするわたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんには楽しみがあった。

「リリエンタール侯爵からお返事が来ているよ。レーニ嬢がお泊りをしてもいいということだ」
「レーニ嬢とまた楽しい日々を過ごせます」
「レーニ嬢がいれば留守番も寂しくないわ」
「レーニじょう、わたちにあいにきてくれる!」
「おにいたま、あいにくゆの?」
「レーニ嬢はみんなに会いに来るのですよ」
「マリアにも会いに来ますよ」

 レーニちゃんを独り占めしかねないふーちゃんに、わたくしもクリスタちゃんも笑って訂正していた。

 両親が王都に行くのと入れ違いに、レーニちゃんはディッペル家にやって来た。
 レーニちゃんとこんな風に過ごせるのは今年が最後かもしれない。
 来年からはわたくしは学園に入学して王都の学園の寮に入るし、何か用事がなければディッペル公爵領には帰って来れない。もちろん、夏休み、冬休み、春休みはあるのだが、レーニちゃんと予定が合うかどうかは分からなかった。

 再来年になれば、クリスタちゃんとレーニちゃんも学園に入学してくるので、毎日会うことができるようになるが、それでも、一年間先に学園に入学するわたくしは寂しくないわけではなかった。

「デニスも連れて来たかったのですが、デニスはまだお父様とお母様がいないとお泊りができないから」
「デニスくんは大きくなりましたか?」
「もうやんちゃですよ。そこが可愛いんですが」

 わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんは折り紙をしたり、雪の庭を歩いたりして楽しく過ごした。
 勉強の時間も、声楽とピアノのレッスンも変わりなく入っているので、そのときにはレーニちゃんも一緒に勉強をして、声楽もピアノも一緒にレッスンを受けた。

「クリスタちゃんは歌がとても上手なのですね」
「ありがとうございます。わたくし、まーちゃんがお歌が大好きで、たくさん歌って聞かせていたら、上手になっていました」
「クリスタちゃんの歌はまーちゃんへの愛情なのですね」

 ふーちゃんとまーちゃんの中では、わたくしとクリスタちゃんの役割が違うようで、クリスタちゃんは歌をお願いされて、わたくしは絵本をお願いされることが多かった。
 絵本を読むのはクリスタちゃんが小さい頃からしていたし、大好きなのでそれをふーちゃんもまーちゃんも感じ取っていたのだろう。

 ピアノのレッスンになるとわたくしはレーニちゃんのピアノを聞いて驚いてしまった。

「レーニちゃんはピアノがとても上手ですね」
「わたくし、小さな頃からピアノだけは大好きでしたの。二歳のときにはピアノの椅子によじ登って勝手に弾いていたと母が言っていました」
「レーニちゃん、素晴らしいわ。もっと弾いてください」
「わたくしが伴奏を弾くので、クリスタちゃんとエリザベートお姉様は歌ってください」

 ピアノの先生と変わらないくらいピアノが上手なレーニちゃんは、わたくしとクリスタちゃんのために伴奏を弾いてくれた。レーニちゃんのピアノに合わせてわたくしとクリスタちゃんは歌を歌った。

 声楽とピアノのレッスンが終わると、子ども部屋に顔を出す。
 ふーちゃんがレーニちゃんに飛び付いてくる。

「レーニじょう、わたちのおもちゃをかちてあげまつ」
「嬉しいですわ。何を貸してくれるのですか?」
「れっちゃでつ!」

 鉄で作られたリリエンタール侯爵からもらった大事な宝物の列車を一つ、ふーちゃんはレーニちゃんに貸していた。それがどれだけふーちゃんにとっては大事なものなのか、レーニちゃんにも伝わってくるのだろう。レーニちゃんは丁寧に列車を扱っている。

「これは母がフランツ様のために作らせたものですね」
「あい。リリエンタールこうちゃくから、いただきまちた。わたちのたらかものでつ!」
「宝物にしてくださっているのですね。母が作らせたものをふーちゃんが大事に使ってくださっていると知って、わたくしも嬉しいです」
「じゅっと、だいじにちまつ」

 リリエンタール侯爵領は製鉄が盛んで、列車の製造が行われているのだ。
 いつかはふーちゃんを列車の製造現場にも連れて行きたい。リリエンタール領に行くのならば、両親も反対しないだろうとわたくしは思っていた。

 夜はレーニちゃんの泊まっている客間でわたくしとクリスタちゃんも一緒に眠った。
 夫婦用のダブルベッドにわたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんでぎゅうぎゅうになって眠るのは窮屈だったが楽しかった。

「明日は何をしましょうか?」
「わたくし、レーニちゃんと雪兎と雪だるまを作りたいです」
「わたくし、クリスタちゃんとエリザベートお姉様と折り紙をしたいです」
「レーニちゃん、ふーちゃんとまーちゃんも一緒でもいいですか?」
「もちろん、喜んで」

 明日は早朝に雪遊びをした後で、勉強の時間を挟んで、午後は折り紙をすることになりそうだ。
 レーニちゃんがディッペル家に滞在するのも残り二日。
 二日間をわたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんはどう楽しみ尽くすかを考えていた。
しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

その転生幼女、取り扱い注意〜稀代の魔術師は魔王の娘になりました〜

みおな
ファンタジー
かつて、稀代の魔術師と呼ばれた魔女がいた。 魔王をも単独で滅ぼせるほどの力を持った彼女は、周囲に畏怖され、罠にかけて殺されてしまう。 目覚めたら、三歳の幼子に生まれ変わっていた? 国のため、民のために魔法を使っていた彼女は、今度の生は自分のために生きることを決意する。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

処理中です...