198 / 528
七章 辺境伯領の特産品を
18.ふーちゃんとまーちゃんに何冊でも絵本を
しおりを挟む
お茶会が終わると晩餐会まで少しの休憩が入る。
休憩の間にわたくしは部屋に戻って顔を洗って、髪の毛を結び直してもらっていた。
エクムント様も休憩時間の間に身だしなみを整えて来るようだった。
「えーおねえたま、だっこちて!」
「フランツ、寂しい思いをさせましたね」
少しの間でもふーちゃんに時間を割きたくて、わたくしは座ってふーちゃんを膝の上に抱き上げる。まーちゃんはクリスタちゃんに膝の上に抱き上げられていた。
「えほん、よんでほちーの」
「一冊だけ読みましょうね」
「ねぇね、えぽん、えぽん!」
甘えて来るふーちゃんとまーちゃんに一冊だけ絵本を読み聞かせる。ドレスを着たままだったが、ふーちゃんを膝の上に抱っこすることにわたくしは躊躇いはなかった。
絵本を一冊読んでから膝から降ろすと、ふーちゃんはまーちゃんと一緒に列車のおもちゃで遊び始めた。
「お姉様は今晩は遅くまで帰らないのですね」
「そうなりますね。わたくしも辺境伯の婚約者となったのですから、晩餐会までしっかりと参加してきます」
「あまり遅くならないことをお祈りしておきます」
クリスタちゃんは名残惜しそうにわたくしを送り出してくれた。
両親とわたくしで食堂に行くと、一番前のテーブルに招かれる。
エクムント様の隣りに座ると、わたくしはテーブルの上のナプキンを手に取った。
ナプキンが薔薇の形に折られている。
驚いてエクムント様をちらりと見ると、エクムント様は微笑んで小さく頷いていた。
わたくしの緊張が解けるようにナプキンを折っていてくれたのだろう。
エクムント様の気持ちが嬉しくて、わたくしは折られたナプキンを崩してしまうのが少しもったいなかった。膝の上にナプキンを置くと、料理が運ばれて来る。
カサンドラ様とエクムント様は葡萄酒をグラスに注がれていた。
わたくしはお酒が飲める年齢になっていないので、葡萄ジュースがグラスに注がれる。
「我が養子、エクムント・ヒンケルの誕生日を祝って、乾杯!」
「乾杯!」
カサンドラ様が立って乾杯の音頭を取ると、みんながグラスを持ち上げる。わたくしも葡萄ジュースの入ったグラスを持ち上げた。
冷たい葡萄ジュースは甘く瑞々しく美味しかった。
料理が運ばれてきてもなかなか落ち着いて食べることができない。
昼と同じく貴族たちが挨拶に来るのだ。
「エクムント様は乗馬がお上手と聞いています。うちの牧場の馬はよく走りますよ」
「エクムント様、うちの農場の葡萄は最高の葡萄酒が作れます」
「辺境伯領の紫の染料はとても珍しく、発色がいいのですよ」
自分たちの商品を辺境伯であるエクムント様に売り込んで、辺境伯領の特産品としたがっている貴族が多くいるようなのだ。
「牧場の馬は今度視察に行きましょう。葡萄酒は今度飲んでみましょう。紫の染料は工房をお訪ねします」
一つ一つに答えるエクムント様に、わたくしも食べている場合ではなくて一緒に頷いておく。
結局晩餐会もほとんど料理を食べられずに、お皿が下げられるのを悲しく見送るしかなかった。
パーティーの主催とはこのようなものなのだろう。
分かっているがお腹は空く。
夜も更けて晩餐会がお開きになった後でわたくしはお腹を空かせて、眠くて、ふらふらになりながらエクムント様に送られて部屋に帰った。
「エリザベート嬢、お休みなさい」
「エクムント様、お休みなさい」
「部屋に少しだけ準備をさせています。よろしければどうぞ」
「準備?」
何のことか分からないままエクムント様を見送ったが、部屋に入って着替えてソファを見ると、サンドイッチと小さなキッシュの軽食が置かれていた。わたくしがほとんど何も食べられていないのをエクムント様は分かっていて気にかけてくださっていたのだ。
ありがたくサンドイッチとキッシュを食べて、フルーツティーを飲む。寝る前なのでそんなに量はなかったが、お腹が減りすぎた状態で眠ることはなくなってわたくしは安心していた。
シャワーを浴びてパジャマに着替えて布団に入る。
蒸し暑く寝苦しい夜ではあったが、窓を開けると入ってくる風が唯一の救いだった。
翌朝、エクムント様とカサンドラ様に見送られて、わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんと両親は辺境伯領から帰った。
馬車に乗り込むときにエクムント様がわたくしの手を握ってくれた。
「次はディッペル家でお会いしましょう。ガブリエラも楽しみにしています」
「ガブリエラ嬢はもう少し辺境伯領にいるのですか?」
「はい。辺境伯領で市に行きたいと言っていました」
ガブリエラちゃんはもう少し辺境伯領に留まるようだ。馬車に乗り込むとエクムント様はずっと手を振り続けていた。
馬車で列車の駅まで行って、列車に乗り換えて、ディッペル公爵領の駅に着くと馬車にまた乗り換えて、ディッペル家のお屋敷に帰る。
帰り付くとわたくしは疲れ切って荷物を片付けると部屋でベッドに寝転んだ。
昨夜は晩餐会で夜遅くまで起きていたので、眠気が襲ってくる。
うとうとと眠りかけていると、ふーちゃんとまーちゃんが部屋に来ていた。
「えーおねえたま、あとんでー!」
「ねぇね、えぽん、えぽん!」
絵本を読んで欲しくなったふーちゃんとまーちゃんはわたくしの部屋まで来てしまったようだ。
「お疲れなのに申し訳ありません」
「フランツ様とマリア様をお止めすることができなくて」
ヘルマンさんとレギーナが申し訳なさそうに言っているが、わたくしは全然構わなかった。
「絵本を読んで欲しいのですね。今日は何冊でも読めますよ」
昨日は一冊だけで我慢させてしまったので、わたくしは今日はふーちゃんにもまーちゃんにもたくさん絵本を読んであげたかった。
子ども部屋に行くとクリスタちゃんも子ども部屋に来ていた。
「まーちゃんとふーちゃんがいないと思ったら、お姉様のところにいたのですね」
「絵本を読んで欲しいと言われました」
「お姉様は絵本を読むのがお上手だから。わたくし、小さな頃からお姉様に絵本を読んでもらうのが大好きだったのですよ」
そういえばクリスタちゃんにも小さな頃からわたくしは絵本を読んであげていた。クリスタちゃんの一番のお気に入りの絵本は灰被りの物語だった。
ふーちゃんの一番のお気に入りは列車の絵本で、まーちゃんはまだお気に入りがなくて何でもいい様子だった。
わたくしがふーちゃんを膝に乗せて、クリスタちゃんがまーちゃんを膝に乗せて絵本を読み出すと、クリスタちゃんも聞いている気配がする。クリスタちゃんもまだまだ絵本を読んで欲しい年頃なのだ。
列車の絵本を読み終わると、ふーちゃんとまーちゃんが本棚から新しく絵本を持ってくる。何冊も積み上げられた絵本を、わたくしは一冊ずつ読んでいった。
全部読み終わるとふーちゃんとまーちゃんは満足して列車のおもちゃで遊び始めた。
「わたち、レールちいてあげう」
「にぃに、あいがちょ」
話しているまーちゃんにクリスタちゃんが近付く。
「にぃにではなく、お兄様と呼びましょう」
「おにいたま?」
「わたくしとお姉様のことは、お姉様と呼ぶのです」
「おねえたま!」
「自分のことはわたくしと言うのですよ」
「わたくち!」
二歳になったのでまーちゃんにも厳しく教えているクリスタちゃんに、まーちゃんは可愛く復唱していた。
「わたくち、おにいたま、おねえたま」
「とても上手です。まーちゃん、素晴らしいです」
「わたくち、すばらち!」
褒められて胸を張るまーちゃんに、ふーちゃんが教える。
「えーおねえたまと、くーおねえたまよ」
「えーおねえたま! くーおねえたま!」
「まーたん、じょーじゅ!」
「わたくち、じょーじゅ!」
ふーちゃんにも褒められてまーちゃんは黒いお目目を煌めかせていた。
休憩の間にわたくしは部屋に戻って顔を洗って、髪の毛を結び直してもらっていた。
エクムント様も休憩時間の間に身だしなみを整えて来るようだった。
「えーおねえたま、だっこちて!」
「フランツ、寂しい思いをさせましたね」
少しの間でもふーちゃんに時間を割きたくて、わたくしは座ってふーちゃんを膝の上に抱き上げる。まーちゃんはクリスタちゃんに膝の上に抱き上げられていた。
「えほん、よんでほちーの」
「一冊だけ読みましょうね」
「ねぇね、えぽん、えぽん!」
甘えて来るふーちゃんとまーちゃんに一冊だけ絵本を読み聞かせる。ドレスを着たままだったが、ふーちゃんを膝の上に抱っこすることにわたくしは躊躇いはなかった。
絵本を一冊読んでから膝から降ろすと、ふーちゃんはまーちゃんと一緒に列車のおもちゃで遊び始めた。
「お姉様は今晩は遅くまで帰らないのですね」
「そうなりますね。わたくしも辺境伯の婚約者となったのですから、晩餐会までしっかりと参加してきます」
「あまり遅くならないことをお祈りしておきます」
クリスタちゃんは名残惜しそうにわたくしを送り出してくれた。
両親とわたくしで食堂に行くと、一番前のテーブルに招かれる。
エクムント様の隣りに座ると、わたくしはテーブルの上のナプキンを手に取った。
ナプキンが薔薇の形に折られている。
驚いてエクムント様をちらりと見ると、エクムント様は微笑んで小さく頷いていた。
わたくしの緊張が解けるようにナプキンを折っていてくれたのだろう。
エクムント様の気持ちが嬉しくて、わたくしは折られたナプキンを崩してしまうのが少しもったいなかった。膝の上にナプキンを置くと、料理が運ばれて来る。
カサンドラ様とエクムント様は葡萄酒をグラスに注がれていた。
わたくしはお酒が飲める年齢になっていないので、葡萄ジュースがグラスに注がれる。
「我が養子、エクムント・ヒンケルの誕生日を祝って、乾杯!」
「乾杯!」
カサンドラ様が立って乾杯の音頭を取ると、みんながグラスを持ち上げる。わたくしも葡萄ジュースの入ったグラスを持ち上げた。
冷たい葡萄ジュースは甘く瑞々しく美味しかった。
料理が運ばれてきてもなかなか落ち着いて食べることができない。
昼と同じく貴族たちが挨拶に来るのだ。
「エクムント様は乗馬がお上手と聞いています。うちの牧場の馬はよく走りますよ」
「エクムント様、うちの農場の葡萄は最高の葡萄酒が作れます」
「辺境伯領の紫の染料はとても珍しく、発色がいいのですよ」
自分たちの商品を辺境伯であるエクムント様に売り込んで、辺境伯領の特産品としたがっている貴族が多くいるようなのだ。
「牧場の馬は今度視察に行きましょう。葡萄酒は今度飲んでみましょう。紫の染料は工房をお訪ねします」
一つ一つに答えるエクムント様に、わたくしも食べている場合ではなくて一緒に頷いておく。
結局晩餐会もほとんど料理を食べられずに、お皿が下げられるのを悲しく見送るしかなかった。
パーティーの主催とはこのようなものなのだろう。
分かっているがお腹は空く。
夜も更けて晩餐会がお開きになった後でわたくしはお腹を空かせて、眠くて、ふらふらになりながらエクムント様に送られて部屋に帰った。
「エリザベート嬢、お休みなさい」
「エクムント様、お休みなさい」
「部屋に少しだけ準備をさせています。よろしければどうぞ」
「準備?」
何のことか分からないままエクムント様を見送ったが、部屋に入って着替えてソファを見ると、サンドイッチと小さなキッシュの軽食が置かれていた。わたくしがほとんど何も食べられていないのをエクムント様は分かっていて気にかけてくださっていたのだ。
ありがたくサンドイッチとキッシュを食べて、フルーツティーを飲む。寝る前なのでそんなに量はなかったが、お腹が減りすぎた状態で眠ることはなくなってわたくしは安心していた。
シャワーを浴びてパジャマに着替えて布団に入る。
蒸し暑く寝苦しい夜ではあったが、窓を開けると入ってくる風が唯一の救いだった。
翌朝、エクムント様とカサンドラ様に見送られて、わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんと両親は辺境伯領から帰った。
馬車に乗り込むときにエクムント様がわたくしの手を握ってくれた。
「次はディッペル家でお会いしましょう。ガブリエラも楽しみにしています」
「ガブリエラ嬢はもう少し辺境伯領にいるのですか?」
「はい。辺境伯領で市に行きたいと言っていました」
ガブリエラちゃんはもう少し辺境伯領に留まるようだ。馬車に乗り込むとエクムント様はずっと手を振り続けていた。
馬車で列車の駅まで行って、列車に乗り換えて、ディッペル公爵領の駅に着くと馬車にまた乗り換えて、ディッペル家のお屋敷に帰る。
帰り付くとわたくしは疲れ切って荷物を片付けると部屋でベッドに寝転んだ。
昨夜は晩餐会で夜遅くまで起きていたので、眠気が襲ってくる。
うとうとと眠りかけていると、ふーちゃんとまーちゃんが部屋に来ていた。
「えーおねえたま、あとんでー!」
「ねぇね、えぽん、えぽん!」
絵本を読んで欲しくなったふーちゃんとまーちゃんはわたくしの部屋まで来てしまったようだ。
「お疲れなのに申し訳ありません」
「フランツ様とマリア様をお止めすることができなくて」
ヘルマンさんとレギーナが申し訳なさそうに言っているが、わたくしは全然構わなかった。
「絵本を読んで欲しいのですね。今日は何冊でも読めますよ」
昨日は一冊だけで我慢させてしまったので、わたくしは今日はふーちゃんにもまーちゃんにもたくさん絵本を読んであげたかった。
子ども部屋に行くとクリスタちゃんも子ども部屋に来ていた。
「まーちゃんとふーちゃんがいないと思ったら、お姉様のところにいたのですね」
「絵本を読んで欲しいと言われました」
「お姉様は絵本を読むのがお上手だから。わたくし、小さな頃からお姉様に絵本を読んでもらうのが大好きだったのですよ」
そういえばクリスタちゃんにも小さな頃からわたくしは絵本を読んであげていた。クリスタちゃんの一番のお気に入りの絵本は灰被りの物語だった。
ふーちゃんの一番のお気に入りは列車の絵本で、まーちゃんはまだお気に入りがなくて何でもいい様子だった。
わたくしがふーちゃんを膝に乗せて、クリスタちゃんがまーちゃんを膝に乗せて絵本を読み出すと、クリスタちゃんも聞いている気配がする。クリスタちゃんもまだまだ絵本を読んで欲しい年頃なのだ。
列車の絵本を読み終わると、ふーちゃんとまーちゃんが本棚から新しく絵本を持ってくる。何冊も積み上げられた絵本を、わたくしは一冊ずつ読んでいった。
全部読み終わるとふーちゃんとまーちゃんは満足して列車のおもちゃで遊び始めた。
「わたち、レールちいてあげう」
「にぃに、あいがちょ」
話しているまーちゃんにクリスタちゃんが近付く。
「にぃにではなく、お兄様と呼びましょう」
「おにいたま?」
「わたくしとお姉様のことは、お姉様と呼ぶのです」
「おねえたま!」
「自分のことはわたくしと言うのですよ」
「わたくち!」
二歳になったのでまーちゃんにも厳しく教えているクリスタちゃんに、まーちゃんは可愛く復唱していた。
「わたくち、おにいたま、おねえたま」
「とても上手です。まーちゃん、素晴らしいです」
「わたくち、すばらち!」
褒められて胸を張るまーちゃんに、ふーちゃんが教える。
「えーおねえたまと、くーおねえたまよ」
「えーおねえたま! くーおねえたま!」
「まーたん、じょーじゅ!」
「わたくち、じょーじゅ!」
ふーちゃんにも褒められてまーちゃんは黒いお目目を煌めかせていた。
22
お気に入りに追加
1,689
あなたにおすすめの小説
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる