エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない

秋月真鳥

文字の大きさ
上 下
162 / 528
六章 ハインリヒ殿下たちとの交流

12.ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とノエル殿下の夏休み

しおりを挟む
 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とノエル殿下がディッペル家にやってくる。
 メイドや使用人総出でディッペル家はぴかぴかに磨き上げられていた。
 子ども部屋の絨毯は洗濯されて干されてふかふかになったし、廊下や手すりは磨き上げられている。
 特に銀食器や銀のカトラリーは念入りに磨かれていた。
 銀食器や銀のカトラリーはすぐに錆がつくのだ。銀製品がどれだけ綺麗に整っているかで、その家の品格が決まると言っても過言ではない。

 わたくしとクリスタちゃんも自分の部屋をマルレーンとデボラと一緒に片付けていた。
 大事なものはクローゼットの中に入れて、机の上は拭いて、花を飾って、絨毯も汚れを取っておく。

 厨房ではハインリヒ殿下とノルベルト殿下とノエル殿下にお出しする料理を考えて材料を揃えているし、食堂もテーブルや椅子を全部出してブラシで擦って綺麗に磨かれていた。

「お姉様、詩集を机の上に置いておきたいのですが、立てておけないでしょうか?」
「ブックエンドが必要ですね」
「ブックエンド?」

 机の上に詩集を立てておきたいというクリスタちゃんのために、わたくしは両親にブックエンドを買ってもらった。
 詩集やお気に入りの本は机の上に立てておくことができる。
 大理石でできた兎の形と猫の形のブックエンドをもらったときには、流石公爵家は違うものだと感心してしまった。
 クリスタちゃんが兎の形のブックエンドを選んだので、わたくしは猫の形のブックエンドを置いて机の上に詩集や刺繍の本を立てておいた。

「ノエル殿下にわたくしの部屋を見ていただけるでしょうか?」
「子ども部屋もぜひ見て欲しいですよね」

 ノエル殿下のことを気にするクリスタちゃんに、わたくしも子ども部屋を見て欲しいと思っていた。

 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とノエル殿下が来られるときには、暑い時期なので飲み物も厨房では悩んでいたようだ。

「レモネードはどうでしょう? ハインリヒ殿下は紅茶が苦手だったときに蜂蜜レモン水を飲んでいました」
「マリアお嬢様がまだお小さいので、蜂蜜を出すのは危険だと言われているのですよ」
「それならばフルーツティーがいいですわ。辺境伯領で飲んだけれど、とても美味しかったのです」

 クリスタちゃんが提案して、飲み物は冷たいフルーツティーが出されることになった。

 氷を使えるのも公爵家だからだ。
 氷を作る技術がまだ発達していないので、氷は遠くの山から切り出して溶けないうちに運んでくるのだ。冷蔵庫もその氷で維持されているので、生ものはあまり保存ができないのが現実だった。

 地下から汲み上げた水は冷たいので、食材を冷やしておくときなどには地下水が使われていた。

 前世でわたくしの生きていた時代と全く違うのだと思うのだが、それに違和感を覚えていないあたり、わたくしは前世の記憶が朧気にあるだけで、エリザベート・ディッペルの要素が強いのだろう。

「お父様、お母様、国王陛下の別荘では氷柱を立てて、涼をとっていましたね」
「ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とノエル殿下が来られるのに合わせて氷柱を注文しよう」
「涼しく快適に過ごして欲しいですからね」

 わたくしが言えば両親は氷柱を注文してくれた。

「ノエル殿下の泊まるお部屋にお花を飾りませんか?」
「いいですね。白いトルコキキョウはどうでしょう?」
「いいと思います」

 クリスタちゃんの発案に、わたくしがトルコキキョウを提案すれば、クリスタちゃんも賛成してくれる。

「ハインリヒ殿下とノルベルト殿下のお部屋には蘭の花を飾りたいですわ」
「お父様とお母様、白いトルコキキョウと蘭の花を仕入れてくださいませんか?」

 わたくしもクリスタちゃんも子どもだけでは花屋に行けないので両親にお願いすると、両親は頷いて請け負ってくれた。

「警備もこれまで以上にしっかりとしなければいけない」
「警備の兵が庭に在中するので、ハシビロコウのコレットとオウムのシリルはサンルームに入っていてもらいましょう」

 両親の言葉で、カミーユがオウムのシリルの檻をサンルームに戻して、ハシビロコウのコレットをクロードが魚でおびき寄せてサンルームに入れていた。

 準備が整うと、後はハインリヒ殿下とノルベルト殿下とノエル殿下を待つだけになる。

 一泊する準備をしてハインリヒ殿下とノルベルト殿下とノエル殿下はディッペル家にやってきた。
 馬車を降りたハインリヒ殿下が一番に言ったのは、ハシビロコウのコレットのことだった。

「違法に買われていた珍しい鳥を保護したと聞いています。その鳥を見たいのですが」
「ハシビロコウですね。サンルームに入れてあります」
「見せてもらえますか?」

 興味津々のハインリヒ殿下に、わたくしとクリスタちゃんはハインリヒ殿下とノルベルト殿下とノエル殿下をサンルームにお招きした。
 サンルームの中では噴水の近くにハシビロコウのコレットがいて悠々と歩いている。

「大きい!?」
「僕たちよりも背が高いのではないですか!?」
「あんなに大きくて飛べるのですか?」

 驚いているハインリヒ殿下とノルベルト殿下とノエル殿下に、クロードが近付いてきた。
 わたくしはハインリヒ殿下とノルベルト殿下とノエル殿下にクロードを紹介する。

「この子はクロードです。ハシビロコウの飼育係です。隣国の言葉で質問すれば、ハシビロコウのことを教えてくれると思いますよ」
「わたくしの国の言葉を喋るのですね」
「そうなのです、ノエル殿下」

 褐色の肌に黒髪黒い目のクロードはプラチナブロンドに青い目に白い肌のノエル殿下とは全く違うが、住んでいた地域が隣国の言葉を使う地域だったので、隣国の言葉を喋る。

『この鳥の名前はなんというのですか?』
『鳥の種類はハシビロコウです。名前はコレットで、雌です』
『この鳥は飛べますか?』
『野生の状態ならば飛べるのですが、コレットは悪いやつに逃げないように羽根を切られてしまっていて飛ぶことができません。それで野生に返せないので、ディッペル公爵が保護してくださったのです』
『コレットは何を食べるのですか?』
『ハイギョやティラピアなどを食べるのですが、ここでは普通に手に入る生魚を食べさせています』

 ノエル殿下も、ハインリヒ殿下も、ノルベルト殿下も、口々に聞きたいことを聞いているが、クロードは落ち着いて答えられていた。

『ありがとう、クロード。もういいですよ』
『失礼いたしました』

 クロードに感謝を述べてハシビロコウのコレットの世話に戻るように言えば、クロードは頭を下げて戻って行った。

「実は、オウムも飼っているのです。可愛いのですよ」
「そうなのですか、クリスタ嬢」
「見てくださいますか?」
「もちろん見せてください」

 クリスタちゃんがオウムのシリルのことを口にすると、ハインリヒ殿下が興味を持った。ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とノエル殿下でオウムのシリルの檻に近付く。
 シリルはカミーユに如雨露で水浴びをさせてもらっていた。

「真っ白なオウムなのですね」
「とても可愛いです」
「意外と大きいですね」

 口々に感想を言うノエル殿下とハインリヒ殿下とノルベルト殿下。カミーユが如雨露の水を止めて頭を下げているのに、クリスタちゃんが言う。

「オウムの世話係のカミーユです。隣国の言葉でオウムのことを聞いたら教えてくれますよ」

 視線がカミーユに集まってカミーユは緊張している。

『このオウムは雄ですか、雌ですか?』
『雄です。名前はシリルです』
『オウムは何を食べるのですか?』
『ドライフルーツやナッツやヒマワリの種や種類や野菜などです』
『このオウムは飛べますか?』
『オウムはストレスを受けると毛引きといって、自分で毛を抜いてしまいます。シリルはコレットのことが好きなのですが、それが叶わなくて毛引きをしているので、羽が揃っていなくて、少ししか飛べません』

 オウムはストレスを受けると羽根を抜いてしまうのか。
 わたくしは知らないことをカミーユから教えてもらった。
 ノエル殿下も、ハインリヒ殿下も、ノルベルト殿下も、カミーユからオウムのシリルのことを教えてもらって満足した様子だった。
しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

処理中です...