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五章 妹の誕生と辺境伯領
26.四枚セットのハンカチ
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両親が帰ってくると、一番に飛び付いて行ったのはふーちゃんである。
両親の足に抱き付いてしっかりとしがみ付く。
「まっまー! ぱっぱー!」
「ただいま帰りましたよ、フランツ」
「寂しい思いをさせたようだね」
父がふーちゃんを抱き上げると、ふーちゃんはわたくしとクリスタちゃんを指差す。
「えーねぇね、くーねぇね、いっと」
「エリザベートとクリスタが一緒にいてくれたのか」
「わたくしたち、勉強を子ども部屋でしたのです」
「フランツとマリアが寂しくないようにしました」
わたくしとクリスタちゃんで言えば、父はわたくしとクリスタちゃんに微笑みかける。
「偉いお姉さんだったね。ありがとう」
まーちゃんも母に抱っこされてきゃっきゃと笑っていた。
表情豊かになっているまーちゃんはとても可愛い。母はまーちゃんにお乳をあげていた。
「マリアと離れている間、胸が張って仕方がありませんでした。マリアもお乳が飲みたかったのですね」
「んくー!」
一生懸命お乳を飲んでいるまーちゃんは母が不在の間ミルクだけで不満だったようだ。たっぷり飲むと満足して眠ってしまった。
両親が戻って来てわたくしもクリスタちゃんも日常に戻ることができた。
お土産を買うような暇はなかったようだが、両親が帰って来てくれたことがわたくしたちにとっては何よりも嬉しいことだった。
エクムント様も無事に帰って来てくれた。
エクムント様は辺境伯の跡継ぎとして立派に式典に参加したようなのだ。
そんなエクムント様の姿を見たかったとわたくしは少しだけ残念に思っていた。
「エクムント様はどのような格好で出席されたのですか?」
「今回はカサンドラ様と同じ、辺境伯領の海軍の軍服でした」
「我が家で着ている白い軍服とは少し違って、新鮮だったよ」
両親に話を聞くとわたくしはますますエクムント様の新しい軍服が見たくなってしまう。
エクムント様が辺境伯領に行くまでもう一年を切ってしまった。少しでもわたくしは思い出を作りたかった。
「エクムント様にネックレスのお礼をしたいのですが、何がいいと思いますか?」
クリスタちゃんに聞けば、クリスタちゃんは目を輝かせている。
「お姉様は刺繍がとても上手になったから、刺繍の入った小物を差し上げたらいいと思うわ」
「エクムント様は喜んでくれるでしょうか」
「お姉様はお礼だと言うけれど、本当はエクムント様に自分のあげたものを持っていて欲しいのでしょう? わたくし、分かりますわ」
図星だった。
わたくしはエクムント様にわたくしのあげたものを持っていて欲しいのだ。
わたくしが上げたものを持っていればエクムント様はそれを使うたびにわたくしを思い出してくださるのではないか。そう思ってしまうのだ。
「ハンカチがいいと思います。ハンカチはいつでも持ち歩くものでしょう?」
お手洗いに行ったときや、外から帰ったときにわたくしやクリスタちゃんやふーちゃんは手を洗う。そのときにハンカチは必須だからクリスタちゃんは思い付いたのだろう。
エクムント様も紳士だから常にハンカチは持ち歩いているはずだ。
「季節の花を刺繍したハンカチをひとセット贈ったら、エクムント様は使ってくださるでしょうか」
「きっと大事に使ってくださると思います」
一枚ではわたくしの気持ちが足りないし、一枚では選択している間に他のハンカチを使うこともあるので、春夏秋冬の季節四つ分、四枚セットにする計画を立てると、クリスタちゃんは賛成してくれた。
その日に刺繍の先生が来てくれたので、わたくしは刺繍の先生に相談していた。
「エクムント様がわたくしのお誕生日にネックレスをくださったのです。お礼にわたくし、春夏秋冬の四つの季節の花を刺繍した四枚セットのハンカチを贈りたいと思っています」
「目標があるのはいいことですね。プレゼントしたいと思うと刺繍の針も丁寧になりますし、難しい図案にも挑戦しようという意欲に繋がります。とてもいいことだと思います。ハンカチはこちらで用意するので、図案を選びましょう」
「クリスタも一緒に選んでくれますか?」
「わたくしもハインリヒ殿下にプレゼントするために作ってみたいのです」
「それでは、一緒に選びましょう」
クリスタちゃんと図案を選ぶ。
わたくしは春は春薔薇、夏は向日葵、秋はススキ、冬は椿にしたのだが、クリスタちゃんは春はタンポポ、夏は朝顔、秋は秋桜、冬はアネモネにしていた。
刺繍の先生が用意してくれたハンカチを刺繍枠にピンと布を張って入れて刺しゅうを施していく。
鮮やかな春薔薇、黄色い向日葵、黄土色のススキ、真っ赤な椿と刺していくと刺繍が上達するような気がする。エクムント様に差し上げるものだと思っているので、自然と針が丁寧になるのも、刺繍の先生の言う通りだった。
クリスタちゃんも真剣に刺繍を施している。
刺繍が出来上がると、クリスタちゃんがハンカチを畳んで綺麗な紙を持ってきた。
「これで包みましょう、お姉様」
「クリスタの大事な紙を使わせてもらっていいのですか?」
「たくさんあるもの、気にしないで、お姉様。綺麗な紙で包んだ方が、プレゼントが素晴らしく見えるわ」
ラッピングの重要性を解くクリスタちゃんに、わたくしもその通りだと思う。綺麗な紙でラッピングするとわたくしが刺繍したハンカチが何倍にも上等なものに感じられた。
騎士の休憩室にいるエクムント様を訪ねていくと、廊下まで出て来てくれた。
わたくしは綺麗な紙に包まれたハンカチをエクムント様に渡す。
「これ、ネックレスのお礼……というよりも、わたくしがエクムント様に使って欲しいだけなのです」
「中身を見てもいいですか?」
「はい、見てください」
エクムント様は綺麗な紙を破らないように剥がして、中に入っている四枚セットのハンカチを見た。一枚ずつ刺繍を指でなぞり、確かめるように見ている。
「とても綺麗なハンカチです。大事に使わせていただきます。ですが」
ですが、と言われてわたくしの心臓が跳ねる。何かエクムント様の気に入らないことをしてしまっただろうか。
「私の誕生日プレゼントのお礼のつもりでもあったのです、あのネックレスは。またお礼をもらってしまったら、何かお礼をしないといけませんね」
「気にしないでください。本当に、わたくしがエクムント様のおそばに置いて欲しかっただけなのです」
「これだけ見事なものをいただいたらお礼をしないわけにはいきません。エリザベート嬢、何か欲しいものはありますか?」
エクムント様の問いかけにわたくしは困ってしまった。公爵家の長女であるわたくしは生活に必要なものは両親が揃えてくれるし、パーティー用のドレスや靴も両親が揃えてくれる。
勉強に必要なものも両親が全て揃えてくれていた。
「乗馬の練習のときに人参を三本にしていただけますか?」
「そんなことでいいのですか?」
「エラには息子のヤンがいますし、夫のジルもいます。わたくしとクリスタとフランツの一人ずつで人参が上げられたらいいとずっと思っていたのです」
どうしてもお礼をしたいというエクムント様にわたくしがお願いすると、笑われてしまった。
「エリザベート嬢は欲がないですね。分かりました。春に乗馬の練習が再開されたら、人参は三本用意しましょう」
これでエクムント様も気が済むし、わたくしもずっと気になっていたことを言うことができた。
春になれば乗馬の練習が再開される。
そのときには、わたくしとクリスタちゃんが分けて上げなくてもふーちゃんは人参を一本ポニーに上げることができるし、エラとジルとヤンも三匹で一本の人参を分け合わなくても一匹に一本ずつ食べることができる。
エクムント様は約束したことは破らないのでわたくしは安心していた。
それ以後、エクムント様がハンカチを使っているのを見るときには、わたくしの刺繍したハンカチであることをわたくしは願っていた。
両親の足に抱き付いてしっかりとしがみ付く。
「まっまー! ぱっぱー!」
「ただいま帰りましたよ、フランツ」
「寂しい思いをさせたようだね」
父がふーちゃんを抱き上げると、ふーちゃんはわたくしとクリスタちゃんを指差す。
「えーねぇね、くーねぇね、いっと」
「エリザベートとクリスタが一緒にいてくれたのか」
「わたくしたち、勉強を子ども部屋でしたのです」
「フランツとマリアが寂しくないようにしました」
わたくしとクリスタちゃんで言えば、父はわたくしとクリスタちゃんに微笑みかける。
「偉いお姉さんだったね。ありがとう」
まーちゃんも母に抱っこされてきゃっきゃと笑っていた。
表情豊かになっているまーちゃんはとても可愛い。母はまーちゃんにお乳をあげていた。
「マリアと離れている間、胸が張って仕方がありませんでした。マリアもお乳が飲みたかったのですね」
「んくー!」
一生懸命お乳を飲んでいるまーちゃんは母が不在の間ミルクだけで不満だったようだ。たっぷり飲むと満足して眠ってしまった。
両親が戻って来てわたくしもクリスタちゃんも日常に戻ることができた。
お土産を買うような暇はなかったようだが、両親が帰って来てくれたことがわたくしたちにとっては何よりも嬉しいことだった。
エクムント様も無事に帰って来てくれた。
エクムント様は辺境伯の跡継ぎとして立派に式典に参加したようなのだ。
そんなエクムント様の姿を見たかったとわたくしは少しだけ残念に思っていた。
「エクムント様はどのような格好で出席されたのですか?」
「今回はカサンドラ様と同じ、辺境伯領の海軍の軍服でした」
「我が家で着ている白い軍服とは少し違って、新鮮だったよ」
両親に話を聞くとわたくしはますますエクムント様の新しい軍服が見たくなってしまう。
エクムント様が辺境伯領に行くまでもう一年を切ってしまった。少しでもわたくしは思い出を作りたかった。
「エクムント様にネックレスのお礼をしたいのですが、何がいいと思いますか?」
クリスタちゃんに聞けば、クリスタちゃんは目を輝かせている。
「お姉様は刺繍がとても上手になったから、刺繍の入った小物を差し上げたらいいと思うわ」
「エクムント様は喜んでくれるでしょうか」
「お姉様はお礼だと言うけれど、本当はエクムント様に自分のあげたものを持っていて欲しいのでしょう? わたくし、分かりますわ」
図星だった。
わたくしはエクムント様にわたくしのあげたものを持っていて欲しいのだ。
わたくしが上げたものを持っていればエクムント様はそれを使うたびにわたくしを思い出してくださるのではないか。そう思ってしまうのだ。
「ハンカチがいいと思います。ハンカチはいつでも持ち歩くものでしょう?」
お手洗いに行ったときや、外から帰ったときにわたくしやクリスタちゃんやふーちゃんは手を洗う。そのときにハンカチは必須だからクリスタちゃんは思い付いたのだろう。
エクムント様も紳士だから常にハンカチは持ち歩いているはずだ。
「季節の花を刺繍したハンカチをひとセット贈ったら、エクムント様は使ってくださるでしょうか」
「きっと大事に使ってくださると思います」
一枚ではわたくしの気持ちが足りないし、一枚では選択している間に他のハンカチを使うこともあるので、春夏秋冬の季節四つ分、四枚セットにする計画を立てると、クリスタちゃんは賛成してくれた。
その日に刺繍の先生が来てくれたので、わたくしは刺繍の先生に相談していた。
「エクムント様がわたくしのお誕生日にネックレスをくださったのです。お礼にわたくし、春夏秋冬の四つの季節の花を刺繍した四枚セットのハンカチを贈りたいと思っています」
「目標があるのはいいことですね。プレゼントしたいと思うと刺繍の針も丁寧になりますし、難しい図案にも挑戦しようという意欲に繋がります。とてもいいことだと思います。ハンカチはこちらで用意するので、図案を選びましょう」
「クリスタも一緒に選んでくれますか?」
「わたくしもハインリヒ殿下にプレゼントするために作ってみたいのです」
「それでは、一緒に選びましょう」
クリスタちゃんと図案を選ぶ。
わたくしは春は春薔薇、夏は向日葵、秋はススキ、冬は椿にしたのだが、クリスタちゃんは春はタンポポ、夏は朝顔、秋は秋桜、冬はアネモネにしていた。
刺繍の先生が用意してくれたハンカチを刺繍枠にピンと布を張って入れて刺しゅうを施していく。
鮮やかな春薔薇、黄色い向日葵、黄土色のススキ、真っ赤な椿と刺していくと刺繍が上達するような気がする。エクムント様に差し上げるものだと思っているので、自然と針が丁寧になるのも、刺繍の先生の言う通りだった。
クリスタちゃんも真剣に刺繍を施している。
刺繍が出来上がると、クリスタちゃんがハンカチを畳んで綺麗な紙を持ってきた。
「これで包みましょう、お姉様」
「クリスタの大事な紙を使わせてもらっていいのですか?」
「たくさんあるもの、気にしないで、お姉様。綺麗な紙で包んだ方が、プレゼントが素晴らしく見えるわ」
ラッピングの重要性を解くクリスタちゃんに、わたくしもその通りだと思う。綺麗な紙でラッピングするとわたくしが刺繍したハンカチが何倍にも上等なものに感じられた。
騎士の休憩室にいるエクムント様を訪ねていくと、廊下まで出て来てくれた。
わたくしは綺麗な紙に包まれたハンカチをエクムント様に渡す。
「これ、ネックレスのお礼……というよりも、わたくしがエクムント様に使って欲しいだけなのです」
「中身を見てもいいですか?」
「はい、見てください」
エクムント様は綺麗な紙を破らないように剥がして、中に入っている四枚セットのハンカチを見た。一枚ずつ刺繍を指でなぞり、確かめるように見ている。
「とても綺麗なハンカチです。大事に使わせていただきます。ですが」
ですが、と言われてわたくしの心臓が跳ねる。何かエクムント様の気に入らないことをしてしまっただろうか。
「私の誕生日プレゼントのお礼のつもりでもあったのです、あのネックレスは。またお礼をもらってしまったら、何かお礼をしないといけませんね」
「気にしないでください。本当に、わたくしがエクムント様のおそばに置いて欲しかっただけなのです」
「これだけ見事なものをいただいたらお礼をしないわけにはいきません。エリザベート嬢、何か欲しいものはありますか?」
エクムント様の問いかけにわたくしは困ってしまった。公爵家の長女であるわたくしは生活に必要なものは両親が揃えてくれるし、パーティー用のドレスや靴も両親が揃えてくれる。
勉強に必要なものも両親が全て揃えてくれていた。
「乗馬の練習のときに人参を三本にしていただけますか?」
「そんなことでいいのですか?」
「エラには息子のヤンがいますし、夫のジルもいます。わたくしとクリスタとフランツの一人ずつで人参が上げられたらいいとずっと思っていたのです」
どうしてもお礼をしたいというエクムント様にわたくしがお願いすると、笑われてしまった。
「エリザベート嬢は欲がないですね。分かりました。春に乗馬の練習が再開されたら、人参は三本用意しましょう」
これでエクムント様も気が済むし、わたくしもずっと気になっていたことを言うことができた。
春になれば乗馬の練習が再開される。
そのときには、わたくしとクリスタちゃんが分けて上げなくてもふーちゃんは人参を一本ポニーに上げることができるし、エラとジルとヤンも三匹で一本の人参を分け合わなくても一匹に一本ずつ食べることができる。
エクムント様は約束したことは破らないのでわたくしは安心していた。
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