123 / 394
五章 妹の誕生と辺境伯領
3.乗馬の訓練再開
しおりを挟む
乗馬の訓練が再開された。
わたくしとクリスタちゃんとエクムント様は、他の護衛も連れて牧場に行く。牧場にはふーちゃんも一緒に来ていた。ふーちゃんはクリスタちゃんと手を繋いで、ヘルマンさんに言い聞かされている。
「フランツ様、帽子を脱いではいけませんよ。暑くて熱射病になってしまいます」
「うー……」
防止に手を当てているが、脱ぐのを堪えているふーちゃんはヘルマンさんの言っていることが分かっているようだ。
わたくしとクリスタちゃんの乗馬の日に合わせてふーちゃんは牧場にお散歩に行くようにしたのだ。
牧場の馬のいる柵の外からふーちゃんは見学するだけだが、馬の方が寄って来てくれて手を叩いて大興奮している。
「んまー! んまー!」
「フランツ様は馬がお好きですね」
ヘルマンさんが微笑んでいるのに、エクムント様がわたくしとクリスタちゃんに聞いてきた。
「少しの間だけフランツ様にお時間を差し上げてもいいですか?」
「もちろんいいですわ」
「ふーちゃんも馬に乗れるの?」
興味津々のクリスタちゃんに、エクムント様はサラブレッドに鞍を付けて鐙を付けて、ふーちゃんを抱っこしてサラブレッドに跨った。ゆっくりと歩き出したサラブレッドの上で抱っこされているふーちゃんが目を輝かせている。
「うおぉ! んま! んまー!」
「早く走らせることはできませんが、馬ですよ」
「うぁ! んま! んま!」
喜んでいるふーちゃんを抱っこしたままエクムント様は牧場を二周して戻って来た。
馬に乗れたふーちゃんはヘルマンさんの元に戻っても、柵にしがみ付いて牧場の中の馬を見ていた。
クリスタちゃんの番が来るとクリスタちゃんは久しぶりなのでエクムント様に手綱を引いてもらって牧場を回っていた。乗馬用の服も最初は大きかったのに、もう小さくなって買い替えなければいけなくなっていた。
クリスタちゃんの番が終わるとわたくしの番になる。
わたくしは手綱を取らせてもらって牧場を二周したが、ポニーに乗る感覚は忘れていなかった。
乗り終わると厩舎に行ってエラの世話をする。
毛並みにブラシをかけて、ご褒美の人参を食べさせようとすると、クリスタちゃんが提案してくる。
「人参はふーちゃんの前で食べさせてあげませんか?」
「そうですね。それがいいでしょう」
「ヤンも外に出て来られるかしら」
エラと一緒にヤンも連れて出て、柵のところで人参を上げる。わたくしが人参を折ってふーちゃんに渡していると、クリスタちゃんも同じことを考えたようで人参を折ってふーちゃんに渡していた。
ふーちゃんは両手に持った人参を不思議そうに見ていたが、わたくしとクリスタちゃんがエラに上げるのを見て真似をしてエラに上げていた。
ヤンはエラが人参を食べている間、エラのお腹の下に入ってお乳を飲んでいた。
「うー! うー! んまー!」
柵から手を伸ばしてヤンに触りたがるふーちゃんにヘルマンさんがそれを止める。
「手を噛まれてしまうかもしれませんからね。撫でるのはエラだけにしましょう」
「んまー!」
不満そうだったが、エラの顔を撫でさせてもらってふーちゃんは機嫌を直していた。
お屋敷にみんなで歩いて帰ると、少し遅い昼食の時間になっていた。ふーちゃんはお腹を空かせて手を舐めている。
手を洗って着替えてから食堂に用意された昼食を食べに行くと、父がわたくしとクリスタちゃんとふーちゃんと母に行った。
「私は明日から王都に行ってくる。テレーゼはくれぐれも無理をしないように」
「はい、分かっています」
「できれば赤ちゃんが生まれてくるのは私が帰って来てからにして欲しいものだな」
「それはお約束できませんわ」
父は母のことが心配で本当は行きたくないのだけれど、これも仕事なのだから仕方がない。
母は父を安心させるように笑っていた。
昼食を食べるとふーちゃんは着替えて眠ってしまう。
わたくしとクリスタちゃんは両親に牧場での出来事を聞いてもらっていた。
「エクムント様がフランツを抱っこして牧場を馬で走ってくれたのです」
「お姉様、走ったのではないわ。歩いたのよ」
「そうでした。危ないので歩いたのでした」
話を聞いて両親は目を細めている。
「フランツは喜んだだろうね。乗り物が大好きだから」
「フランツも牧場に行くのが楽しめたのですね。次回からもエクムント殿にお願いしましょう」
話はそれだけでは終わらない。
「わたくし、フランツに人参を分けて上げたのです」
「わたくしも分けて上げました」
「フランツはエラに人参を上げて喜んでいました」
「エラは優しいからフランツを噛んだりしなかったのよ」
口々に喋るわたくしとクリスタちゃんの言葉を両親は穏やかに聞いてくれる。両親とこんな時間を持てたのは久しぶりかもしれない。
「あ、蹴りました」
母が大きなお腹に手を置いて呟く。
蹴ったという言葉にわたくしとクリスタちゃんがソファから立ち上がって母のお腹に近寄った。
「どこを蹴りましたか?」
「お腹の中で赤ちゃんがお母様を蹴るのですか?」
「蹴るのですよ。エリザベート、クリスタ、わたくしのお腹に手を置いてみてください」
母の大きなお腹に手を置いていると、赤ちゃんの胎動が伝わって来そうな気がしてわたくしはドキドキしていた。
しばらく静かに待っていると、母のお腹に衝撃が走る。中から蹴られたのだとはっきり分かった。
「本当に蹴りましたね」
「お母様、わたくしのお手手を赤ちゃんが蹴りましたよ」
「とても元気な赤ちゃんで、早く出たいと蹴るのですよ」
「お母様は痛くないですか?」
「痛くはないですが、衝撃があるので、寝ているときに蹴られると目が覚めてしまいますね」
「それは大変! お母様、眠れていますか?」
「お父様が気遣ってくださるので休めていますよ」
それから母は赤ちゃんに関することを教えてくれた。
「これだけお腹が大きくなると仰向けには寝ていられないのですよ。お腹が重くて。横向きにいつも寝ています」
「赤ちゃんがお母様を圧迫しているの?」
「パウリーネ先生の仰ることには、内臓も赤ちゃんに押し上げられて圧迫されているので、あまり胃に物が入らなかったり、お手洗いに頻繁に行きたくなったりするのですよ」
「赤ちゃんを産むって大変なことなのね」
「大変ですが楽しみでもあります。わたくしはエリザベートしか子どもは持てないと思っていたのが、クリスタが養子に来てくれて、フランツが生まれて、もう一人子どもがお腹にいる。これは本当に幸せなことです」
赤ちゃんが生まれればディッペル家の子どもは四人になる。
赤ちゃんが弟でも妹でも無事に産まれて来てくれればそれでいいと思っているが、無事に産まれてきたらわたくしは四人兄弟になるのだ。
この国の医療技術は高くないので、子どもは若いうちに生めるだけ産むというのが主流になっているが、それでも四人は多い方である。そのうち三人は母が実際に生んだ子どもになるのだから、わたくしはすごいと思ってしまう。
お産は大変なことだと聞いているが母はそれを三回も経験することになるのだ。
「あなた、男の子だったときの名前は決めましたか?」
「顔を見てから決めようと思っているんだ。私に似るか、テレーゼに似るか、それともエリザベートのような子どもが生まれてくるかもしれない」
わたくしは顔立ちは母に似ているが、紫色の光沢のある黒髪と銀色の光沢のある黒い目は初代国王陛下と同じだ。両親もわたくしがこんな色彩を持って生まれて来たときには驚いたことだろう。
ふーちゃんは母に似て金髪に水色の目だが、顔立ちは父に似ている。
クリスタちゃんはマリア叔母様に似て金髪に水色の目で、垂れ目で顔立ちもマリア叔母様に似ている。
生まれてくる弟か妹が父に似ているのか、母に似ているのか、それともわたくしのような王族の色彩を持って生まれるのか、それは分からない。
どうであれ、無事に産まれてくることをわたくしは願っていた。
わたくしとクリスタちゃんとエクムント様は、他の護衛も連れて牧場に行く。牧場にはふーちゃんも一緒に来ていた。ふーちゃんはクリスタちゃんと手を繋いで、ヘルマンさんに言い聞かされている。
「フランツ様、帽子を脱いではいけませんよ。暑くて熱射病になってしまいます」
「うー……」
防止に手を当てているが、脱ぐのを堪えているふーちゃんはヘルマンさんの言っていることが分かっているようだ。
わたくしとクリスタちゃんの乗馬の日に合わせてふーちゃんは牧場にお散歩に行くようにしたのだ。
牧場の馬のいる柵の外からふーちゃんは見学するだけだが、馬の方が寄って来てくれて手を叩いて大興奮している。
「んまー! んまー!」
「フランツ様は馬がお好きですね」
ヘルマンさんが微笑んでいるのに、エクムント様がわたくしとクリスタちゃんに聞いてきた。
「少しの間だけフランツ様にお時間を差し上げてもいいですか?」
「もちろんいいですわ」
「ふーちゃんも馬に乗れるの?」
興味津々のクリスタちゃんに、エクムント様はサラブレッドに鞍を付けて鐙を付けて、ふーちゃんを抱っこしてサラブレッドに跨った。ゆっくりと歩き出したサラブレッドの上で抱っこされているふーちゃんが目を輝かせている。
「うおぉ! んま! んまー!」
「早く走らせることはできませんが、馬ですよ」
「うぁ! んま! んま!」
喜んでいるふーちゃんを抱っこしたままエクムント様は牧場を二周して戻って来た。
馬に乗れたふーちゃんはヘルマンさんの元に戻っても、柵にしがみ付いて牧場の中の馬を見ていた。
クリスタちゃんの番が来るとクリスタちゃんは久しぶりなのでエクムント様に手綱を引いてもらって牧場を回っていた。乗馬用の服も最初は大きかったのに、もう小さくなって買い替えなければいけなくなっていた。
クリスタちゃんの番が終わるとわたくしの番になる。
わたくしは手綱を取らせてもらって牧場を二周したが、ポニーに乗る感覚は忘れていなかった。
乗り終わると厩舎に行ってエラの世話をする。
毛並みにブラシをかけて、ご褒美の人参を食べさせようとすると、クリスタちゃんが提案してくる。
「人参はふーちゃんの前で食べさせてあげませんか?」
「そうですね。それがいいでしょう」
「ヤンも外に出て来られるかしら」
エラと一緒にヤンも連れて出て、柵のところで人参を上げる。わたくしが人参を折ってふーちゃんに渡していると、クリスタちゃんも同じことを考えたようで人参を折ってふーちゃんに渡していた。
ふーちゃんは両手に持った人参を不思議そうに見ていたが、わたくしとクリスタちゃんがエラに上げるのを見て真似をしてエラに上げていた。
ヤンはエラが人参を食べている間、エラのお腹の下に入ってお乳を飲んでいた。
「うー! うー! んまー!」
柵から手を伸ばしてヤンに触りたがるふーちゃんにヘルマンさんがそれを止める。
「手を噛まれてしまうかもしれませんからね。撫でるのはエラだけにしましょう」
「んまー!」
不満そうだったが、エラの顔を撫でさせてもらってふーちゃんは機嫌を直していた。
お屋敷にみんなで歩いて帰ると、少し遅い昼食の時間になっていた。ふーちゃんはお腹を空かせて手を舐めている。
手を洗って着替えてから食堂に用意された昼食を食べに行くと、父がわたくしとクリスタちゃんとふーちゃんと母に行った。
「私は明日から王都に行ってくる。テレーゼはくれぐれも無理をしないように」
「はい、分かっています」
「できれば赤ちゃんが生まれてくるのは私が帰って来てからにして欲しいものだな」
「それはお約束できませんわ」
父は母のことが心配で本当は行きたくないのだけれど、これも仕事なのだから仕方がない。
母は父を安心させるように笑っていた。
昼食を食べるとふーちゃんは着替えて眠ってしまう。
わたくしとクリスタちゃんは両親に牧場での出来事を聞いてもらっていた。
「エクムント様がフランツを抱っこして牧場を馬で走ってくれたのです」
「お姉様、走ったのではないわ。歩いたのよ」
「そうでした。危ないので歩いたのでした」
話を聞いて両親は目を細めている。
「フランツは喜んだだろうね。乗り物が大好きだから」
「フランツも牧場に行くのが楽しめたのですね。次回からもエクムント殿にお願いしましょう」
話はそれだけでは終わらない。
「わたくし、フランツに人参を分けて上げたのです」
「わたくしも分けて上げました」
「フランツはエラに人参を上げて喜んでいました」
「エラは優しいからフランツを噛んだりしなかったのよ」
口々に喋るわたくしとクリスタちゃんの言葉を両親は穏やかに聞いてくれる。両親とこんな時間を持てたのは久しぶりかもしれない。
「あ、蹴りました」
母が大きなお腹に手を置いて呟く。
蹴ったという言葉にわたくしとクリスタちゃんがソファから立ち上がって母のお腹に近寄った。
「どこを蹴りましたか?」
「お腹の中で赤ちゃんがお母様を蹴るのですか?」
「蹴るのですよ。エリザベート、クリスタ、わたくしのお腹に手を置いてみてください」
母の大きなお腹に手を置いていると、赤ちゃんの胎動が伝わって来そうな気がしてわたくしはドキドキしていた。
しばらく静かに待っていると、母のお腹に衝撃が走る。中から蹴られたのだとはっきり分かった。
「本当に蹴りましたね」
「お母様、わたくしのお手手を赤ちゃんが蹴りましたよ」
「とても元気な赤ちゃんで、早く出たいと蹴るのですよ」
「お母様は痛くないですか?」
「痛くはないですが、衝撃があるので、寝ているときに蹴られると目が覚めてしまいますね」
「それは大変! お母様、眠れていますか?」
「お父様が気遣ってくださるので休めていますよ」
それから母は赤ちゃんに関することを教えてくれた。
「これだけお腹が大きくなると仰向けには寝ていられないのですよ。お腹が重くて。横向きにいつも寝ています」
「赤ちゃんがお母様を圧迫しているの?」
「パウリーネ先生の仰ることには、内臓も赤ちゃんに押し上げられて圧迫されているので、あまり胃に物が入らなかったり、お手洗いに頻繁に行きたくなったりするのですよ」
「赤ちゃんを産むって大変なことなのね」
「大変ですが楽しみでもあります。わたくしはエリザベートしか子どもは持てないと思っていたのが、クリスタが養子に来てくれて、フランツが生まれて、もう一人子どもがお腹にいる。これは本当に幸せなことです」
赤ちゃんが生まれればディッペル家の子どもは四人になる。
赤ちゃんが弟でも妹でも無事に産まれて来てくれればそれでいいと思っているが、無事に産まれてきたらわたくしは四人兄弟になるのだ。
この国の医療技術は高くないので、子どもは若いうちに生めるだけ産むというのが主流になっているが、それでも四人は多い方である。そのうち三人は母が実際に生んだ子どもになるのだから、わたくしはすごいと思ってしまう。
お産は大変なことだと聞いているが母はそれを三回も経験することになるのだ。
「あなた、男の子だったときの名前は決めましたか?」
「顔を見てから決めようと思っているんだ。私に似るか、テレーゼに似るか、それともエリザベートのような子どもが生まれてくるかもしれない」
わたくしは顔立ちは母に似ているが、紫色の光沢のある黒髪と銀色の光沢のある黒い目は初代国王陛下と同じだ。両親もわたくしがこんな色彩を持って生まれて来たときには驚いたことだろう。
ふーちゃんは母に似て金髪に水色の目だが、顔立ちは父に似ている。
クリスタちゃんはマリア叔母様に似て金髪に水色の目で、垂れ目で顔立ちもマリア叔母様に似ている。
生まれてくる弟か妹が父に似ているのか、母に似ているのか、それともわたくしのような王族の色彩を持って生まれるのか、それは分からない。
どうであれ、無事に産まれてくることをわたくしは願っていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,663
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる