エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない

秋月真鳥

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四章 婚約式

26.詩で分かり合う二人

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 列車に乗って王都まで行って、馬車で王宮まで行った。
 その日の夜の晩餐会にはわたくしとクリスタちゃんは出なかったが、ふーちゃんも一緒なので少しも退屈ではなかった。
 テラスに雪が積もっていたのでふーちゃんとテラスに出て雪で遊ぶ。ふーちゃんのことはヘルマンさんが抱っこしてくれていたが、テラスに積もっている雪を触らせてもらって、冷たさに水色のお目目を丸くして、驚いているのが可愛かった。

 わたくしとクリスタちゃんが参加できたのは翌日のお茶会からだった。
 お茶会のためにドレスを着て、髪をマルレーンにハーフアップに纏めてもらう。本当は全部上げて欲しかったのだが、この年齢ではそれはおかしいので、ハーフアップで我慢する。
 もう少し大きくなったら髪を上げてエクムント様の隣りに立つのだ。
 その日をわたくしは楽しみにしていた。

 クリスタちゃんはデボラに前髪を編み込みにしてもらって、後ろも一本の三つ編みにしてもらっていた。

「レーニ嬢とも会えるかしら」
「リリエンタール侯爵も招かれているでしょうけれど、レーニ嬢が来るかは分からないわ」

 レーニちゃんはクリスタちゃんと同じ年なのだ。リリエンタール侯爵の判断によっては留守番ということもあり得る。

「行ってきますね、フランツ」
「いい子で待っていてくださいね」

 ふーちゃんに挨拶をしてわたくしとクリスタちゃんは部屋を出た。廊下ではエクムント様が待っていてくれる。エクムント様に手を差し出されてわたくしはエクムント様の白い手袋を付けた大きな手に手を重ねた。
 エクムント様は長身で手足も大きいので、わたくしがとても小さいように思えてしまう。母は長身な方だが、それでもエクムント様の胸くらいしか身長がない。母に似ているならばわたくしもそれくらいしか背は伸びないだろう。

 踵の低い靴が妙に子どもっぽく感じられて、わたくしはエクムント様の隣りに並ぶのが恥ずかしい気分になった。それでも髪に付けているダリアの造花の髪飾りを思えば胸を張って大広間にいける。

 大広間では国王陛下が王妃殿下を椅子に座らせて隣りに立っていた。王妃殿下は大きくなってきたお腹を押さえて、優しく微笑んでいる。

「エリザベート嬢、クリスタ嬢、父上のお誕生日に来てくださってありがとうございます。父上と母上が仲睦まじくて、私は本当に嬉しいんです。父上、母上のために座る場所を用意させろって命じたんですよ」

 早口になっているハインリヒ殿下はそれだけ嬉しかったのだろう。黒い目がきらきらと輝いている。

「ハインリヒ、父上がご挨拶をするよ」
「あ、うるさかったですね。ごめんなさい」

 興奮しているハインリヒ殿下をノルベルト殿下が諫めている。

 国王陛下が会場に集まった貴族や王族に挨拶をする。

「この度は私の誕生日に来てくれてありがとう。王妃も懐妊しており、私は今最高に幸せだ。この幸せを崩さぬよう、国をしっかりと治めていきたいと思っている」
「元気なお子を産んで、国王陛下をお支えします」
「ありがとう、王妃よ」

 愛情がそこにあるのかは分からない。
 けれど国王陛下と王妃殿下は国を支えるパートナーとして手を結んだようだった。それがハインリヒ殿下には両親が和解したように見えて嬉しいのだろう。

「エリザベート様、クリスタ様、お久しぶりです。お会いしたかったです」
「レーニ嬢、いらっしゃったのですね」
「はい、今回の国王陛下のご生誕の式典はノルベルト殿下の婚約者の王女殿下が来られると聞いて、わたくしもご挨拶するように言われて来ました。隣国の言葉は難しくてまだ上手く話せないのですが……」
「わたくしもとても難しくて苦労しました」

 手を取り合っているレーニちゃんとクリスタちゃんが可愛い。レーニちゃんは髪の毛を一つの三つ編みにしていて、前髪も編み込んでいた。
 三つ編みを気に入っているというのは本当のようだ。

「僕の婚約者にエリザベート嬢とクリスタ嬢とレーニ嬢をご紹介させてください」
「お願いいたします、ノルベルト殿下」
「とても楽しみにしてきましたの」
「ご挨拶、ちゃんとできるでしょうか」

 不安そうなレーニちゃんをクリスタちゃんが「大丈夫ですよ」と背中を押している。
 ノルベルト殿下に連れて来られてわたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんは隣国の王女殿下の前に出た。他の方から挨拶をされていた王女殿下は、ノルベルト殿下の顔を見るとぱっと花の咲き乱れるような華やかな笑顔になる。

「ノルベルト殿下、お待ちしておりました。一緒にお茶を致しましょう」
「よろこんで、ノエル殿下。ノエル殿下に紹介したいひとたちがいるのです」
「まぁ、可愛らしい女の子たちですわ」

 王女殿下は流暢にこの国の言葉を喋れている。さすがは隣国の王女殿下というだけはある。しっかりと教育されているのだろう。

『お初にお目にかかります、エリザベート・ディッペルと申します。王女殿下、ようこそ我が国にいらっしゃいました』
『エリザベートの妹のクリスタで御座います。お目にかかれて光栄です』

 わたくしもクリスタちゃんも練習したご挨拶を完璧に言うことができた。

「わたくしの国の言葉でご挨拶をいただくなんて、嬉しいですわ。ありがとうございます。ですが、わたくしは幼い頃からこの国に嫁ぐであろうことが決まっておりましたので、この国の言葉を母国語と同じように習得しております。お気になさらず、この国の言葉で話しかけてください」

 王女殿下の言葉にわたくしとクリスタちゃんは胸を撫で下ろす。なぜなら上手く喋れなくてレーニちゃんが半泣きの顔になっていたのだ。

「初めまして、わたくし、レーニ・リリエンタールと申します。王女殿下にご挨拶できてとても光栄です。隣国の言葉でないことをお許しください」
「気にしないでくださいと今言いましたよ。エリザベート嬢、クリスタ嬢、レーニ嬢、わたくしはノエル・リヴィエ。次の春からこの国の学園に留学してきます。エリザベート嬢もクリスタ嬢もレーニ嬢も学園には入学するのでしょう?」
「わたくしは三年後に学園に入学します」
「わたくしは四年後です」
「わたくしも四年後です」
「学園には六年間留学します。同時期に学園にいることもあるでしょう。そのときにはよろしくお願いしますね」

 ノエル殿下の言葉にわたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんは深く頭を下げる。
 この国の学期は春から始まるようなので、春生まれのクリスタちゃんはわたくしと一年半離れているが、学年は一つしか違わないのだ。

「僕も二年後には学園に入学します」
「お待ちしております、ノルベルト殿下」
「早く一緒に学園に通いたいですね」
「この国でノルベルト殿下のおそばにいられるだけでもわたくしは幸せですよ」

 二歳ノエル殿下の方がノルベルト殿下よりも年上なのだが、それを感じさせない可愛さであるし、ノエル殿下はどこかノルベルト殿下と雰囲気が似ていた。
 髪がノエル殿下が薄いプラチナブロンドで、ノルベルト殿下が銀色だからかもしれない。

「わたくし、王女殿下の書かれた詩に感動しましたの」
「あの詩を分かって下さるのですか、クリスタ嬢!? 国では兄上や姉上に馬鹿にされていました」
「馬鹿にするなんて! あの詩は素晴らしいものでした。わたくしもあんな詩が書けるようになりたいのです」
「クリスタ嬢、わたくしと一緒に詩の勉強をしましょう」

 詩に関してはわたくしは全然分からないのだが、クリスタちゃんとノエル殿下は分かり合ってしまったようだ。手を取り合っている。

「わたくしのことは気軽にノエルと呼んでくださいませね」
「はい、ノエル殿下」
「クリスタ嬢のような方がこの国にいて本当に嬉しいです。仲良くしましょうね」

 ノエル殿下とクリスタ嬢の関係が良好なのはいけないことではないので、わたくしはそっと見守っておくことにした。

「恋の妖精さん、わたくしも出会いたいですわ」
「クリスタ嬢も恋をしているのですか?」
「それは……」

 年相応の女の子のように話しているノエル殿下とクリスタ嬢にわたくしとハインリヒ殿下が顔を見合わせ、ノルベルト殿下が満面の笑顔だったのは言うまでもない。
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