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四章 婚約式
10.リリエンタール侯爵の結婚式
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リリエンタール侯爵の結婚式はリリエンタール侯爵のお屋敷の庭で開かれた。
結婚式が始まるまでに激しい雨が降っていたが、結婚式が始まる時間にはそれもすっかりと上がって、青空が見えていた。
ドレスで雨粒に濡れた庭に出ると、雨の後の爽やかな風のおかげで暑さがかなり和らいでいた。
リリエンタール侯爵は黄色と青が絶妙に混ざった華やかなドレスを着ていて、レーニちゃんが白いドレスで三つ編みにして髪を白い薔薇の造花で留めていて、天使のようだった。
クリスタちゃんも三つ編みにしているが、クリスタちゃんは三つ編みの根元にオールドローズの薔薇の髪飾りを付けている。わたくしはハーフアップにして空色の薔薇の造花を付けた。
薄い青から濃い青へのグラデーションになっているドレスは形はシンプルだが、裾に銀色の星の刺繍が入っていてとても可愛い。クリスタちゃんのピンクから赤へのグラデーションのドレスも裾に苺の模様が入っていてとても可愛かった。
花嫁さんよりも目立ってはいけないのだが、貴族としての格式を重んじれば、簡易なドレスでは参加できない。公爵家の娘として相応しい格好をしなければいけなかった。
両親はいつもよりもシックなドレスとスーツで、落ち着いた様子で仲睦まじく、二つの意味でとてもお似合いだ。
雨が上がると大急ぎでテーブルや椅子が用意されて、椅子に座ってわたくしたちは前に立つリリエンタール侯爵とレーニちゃん、それに新しいレーニちゃんのお父様を見詰める。
「わたくしと結婚するにあたって、お願いがあります。レーニはリリエンタール家の大事な跡取り娘です。前の夫はレーニに興味を示さないどころか、冷たく当たっていました。わたくしと結婚するということは、レーニの幸せを一番に考えるということです。わたくしを大事にするのと同じく、レーニを大事にできないのであれば、わたくしはあなたと結婚できません」
一人の娘の母親として堂々と宣言したリリエンタール侯爵に、レーニちゃんの新しいお父様は片手でリリエンタール侯爵の白い手袋を付けた手を握り、もう片方の手で恭しくレーニちゃんの手を取った。
「神の御前で誓いましょう。レーニ嬢を……いえ、私の子どもとなるのだから、レーニと呼ばせてもらいます。レーニを、誰よりも大事にして、リリエンタール家を継ぐ立派な淑女に育てるお手伝いをします」
「レーニのよき父親となってください」
「もちろんです」
誠実そうな新しいお父様に、レーニちゃんは目を潤ませていた。
結婚の誓いを済ませて、ガーデンパーティーが始まる。
立食形式のパーティーだったが、わたくしはクリスタちゃんと一緒に座って食事をとることに決めた。
「エクムント様、一緒に食べましょう」
「お誘いありがとうございます。喜んでご一緒します」
エクムント様に声をかけると快い返事が戻ってくる。
取り皿にケーキや軽食を取って、給仕にミルクティーを頼んで、わたくしは庭の椅子に座った。
リリエンタール家の使用人さんが気を付けて準備してくださっているので、テーブルも椅子もどこも濡れていなかった。
椅子に座って食べ始めると、クリスタちゃんがもりもりと食べているのが分かる。わたくしも上品に食べていると、レーニちゃんがこちらに駆けて来た。
「わたくしもご一緒していいですか?」
「ぜひどうぞ。よろしいですよね、エクムント様」
「もちろんです」
レーニちゃんが加わって、四人で食事をする。仲良く食事をしている席に、リリエンタール侯爵とレーニちゃんのお父様が顔を出してくださった。
「本日はわたくしたちの結婚式に参列してくだあってありがとうございます」
「結婚式なんて初めてなので、お招きいただいて嬉しいです」
「お招きいただきありがとうございます。素晴らしいお式でした」
挨拶をするリリエンタール侯爵に、クリスタちゃんとわたくしも挨拶をする。
「エリザベート様とクリスタ様はレーニと仲がいいのですね。これからも仲良くしてくださると嬉しいです」
「エリザベート様とクリスタ様は、わたくしのお部屋に遊びに来て下さったのです。お父様にも後でわたくしのお人形を見せて差し上げます。わたくしと同じ、赤毛なのですよ」
「レーニの髪の色は珍しいですからね。お人形がなくて、特別に注文して作ってもらったのです」
「お母様、あのお人形はわたくしの宝物です」
輝く笑顔で答えているレーニちゃんに、わたくしはレーニちゃんの未来は明るいのではないかと思っていた。
結婚式が終わって、披露宴の晩餐会には、わたくしとクリスタちゃんは出席しないことになっていた。レーニちゃんは出席するのだが、晩餐会までは少し時間があった。
「エリザベート様、クリスタ様、花冠の作り方を教えますわ」
「嬉しい! お母様、お父様、行ってきていいですか?」
「わたくしも行きたいです」
客間に顔を出したレーニちゃんは白いドレスからワンピースに着替えていた。晩餐会までの間は自由にしていいと言われたのだろう。
「行ってらっしゃい、エリザベート、クリスタ」
「レーニ嬢が時間までに戻れるようにするのだよ」
両親に言われてわたくしとクリスタちゃんは頷いてレーニちゃんと庭に出て行った。
庭のシロツメクサの生えているところに行くと、レーニちゃんがシロツメクサの摘み方を教えてくれる。
「葉っぱは取らずに、花だけを茎を長めに摘んでください」
言われた通りに摘んでいくと、摘んだ先からレーニちゃんは編んでいく。見よう見まねで編んでいくと、小さい花冠くらいならばすぐに作れそうだった。
「見て、花冠ができたわ」
「その花冠は小さすぎますね。ふーちゃん用かしら?」
「ふーちゃんにあげると、お口に入れちゃうからダメよ」
クリスタちゃんの作った小さな花冠では頭の上に乗せることができない。もう一度編み直すクリスタちゃんに笑いながら、わたくしも花冠を完成させた。
楽しく遊んでから部屋に帰ると、レーニちゃんは急いで部屋に着替えに戻っていた。自由時間ギリギリになってしまったようだ。
できた花冠をわたくしとクリスタちゃんはまず母に見せた。
「お母様、できましたわ」
「わたくし、小さい花冠を作ってしまって、やり直したの」
「小さい花冠は腕輪にすればいいではないですか」
「あ、それは素敵! さすがお母様だわ」
小さい花冠は腕輪にすることにして大きな花冠を頭に乗せて、ヘルマンさんに縦抱っこされているふーちゃんに見せに行く。ふーちゃんは花冠に興味津々で、触りたがっていたが、ヘルマンさんがそっとそれを止めていた。
花冠も出来上がって満足していると、両親は晩餐会に出かけて行った。
「エリザベートとクリスタは先に寝ていて構わないからね」
「デボラとマルレーンとヘルマンさんと一緒に過ごしてくださいね」
晩餐会に参加する両親をわたくしとクリスタちゃんで見送った。
花冠はすぐに萎れてしまいそうだったけれど、花冠の作り方はしっかりと覚えたので、今後シロツメクサを見付けたら花冠を作ることができる。同じような方法で、茎の長い花ならば花冠にできるのではないだろうか。
他の花でも花冠を作ることにわたくしは興味を持っていた。
前世の記憶があるとはいえ、わたくしは八歳。今世の体に前世の記憶が朧気に着いただけで、わたくしは八歳の自分の方が強い気がしていた。
「お姉様、ブルーサルビアで花冠が作れないかしら?」
「お屋敷に帰ったら庭師さんに聞いてみましょう」
ブルーサルビアの花はエクムント様にお誕生日に上げた思い出の花である。それで花冠が作れたらどれだけ綺麗だろう。考えるだけでうっとりしてくる。
部屋で夕食を食べて、ふーちゃんはヘルマンさんにミルクを飲ませてもらって、わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんは順番にお風呂に入って寝る準備をしてベッドに入った。
明日にはお屋敷に帰るのだが、この二日間はレーニちゃんともたくさん遊べてとても楽しかった。
ディッペル公爵領とリリエンタール侯爵領は少し距離があるが、馬車で行けばそれほど時間はかからない。
レーニちゃんと遊ぶためにまたリリエンタール侯爵家に遊びに来たい。
最初はクリスタちゃんに絡んでくる嫌な女の子だと思っていたレーニちゃんも、最低な元父親のことがあって荒れていただけで、今は素敵な可愛い仲良しの女の子だと思える。
もっとレーニちゃんと親しくなりたい。
わたくしは初めてできた友達に胸を躍らせていた。
結婚式が始まるまでに激しい雨が降っていたが、結婚式が始まる時間にはそれもすっかりと上がって、青空が見えていた。
ドレスで雨粒に濡れた庭に出ると、雨の後の爽やかな風のおかげで暑さがかなり和らいでいた。
リリエンタール侯爵は黄色と青が絶妙に混ざった華やかなドレスを着ていて、レーニちゃんが白いドレスで三つ編みにして髪を白い薔薇の造花で留めていて、天使のようだった。
クリスタちゃんも三つ編みにしているが、クリスタちゃんは三つ編みの根元にオールドローズの薔薇の髪飾りを付けている。わたくしはハーフアップにして空色の薔薇の造花を付けた。
薄い青から濃い青へのグラデーションになっているドレスは形はシンプルだが、裾に銀色の星の刺繍が入っていてとても可愛い。クリスタちゃんのピンクから赤へのグラデーションのドレスも裾に苺の模様が入っていてとても可愛かった。
花嫁さんよりも目立ってはいけないのだが、貴族としての格式を重んじれば、簡易なドレスでは参加できない。公爵家の娘として相応しい格好をしなければいけなかった。
両親はいつもよりもシックなドレスとスーツで、落ち着いた様子で仲睦まじく、二つの意味でとてもお似合いだ。
雨が上がると大急ぎでテーブルや椅子が用意されて、椅子に座ってわたくしたちは前に立つリリエンタール侯爵とレーニちゃん、それに新しいレーニちゃんのお父様を見詰める。
「わたくしと結婚するにあたって、お願いがあります。レーニはリリエンタール家の大事な跡取り娘です。前の夫はレーニに興味を示さないどころか、冷たく当たっていました。わたくしと結婚するということは、レーニの幸せを一番に考えるということです。わたくしを大事にするのと同じく、レーニを大事にできないのであれば、わたくしはあなたと結婚できません」
一人の娘の母親として堂々と宣言したリリエンタール侯爵に、レーニちゃんの新しいお父様は片手でリリエンタール侯爵の白い手袋を付けた手を握り、もう片方の手で恭しくレーニちゃんの手を取った。
「神の御前で誓いましょう。レーニ嬢を……いえ、私の子どもとなるのだから、レーニと呼ばせてもらいます。レーニを、誰よりも大事にして、リリエンタール家を継ぐ立派な淑女に育てるお手伝いをします」
「レーニのよき父親となってください」
「もちろんです」
誠実そうな新しいお父様に、レーニちゃんは目を潤ませていた。
結婚の誓いを済ませて、ガーデンパーティーが始まる。
立食形式のパーティーだったが、わたくしはクリスタちゃんと一緒に座って食事をとることに決めた。
「エクムント様、一緒に食べましょう」
「お誘いありがとうございます。喜んでご一緒します」
エクムント様に声をかけると快い返事が戻ってくる。
取り皿にケーキや軽食を取って、給仕にミルクティーを頼んで、わたくしは庭の椅子に座った。
リリエンタール家の使用人さんが気を付けて準備してくださっているので、テーブルも椅子もどこも濡れていなかった。
椅子に座って食べ始めると、クリスタちゃんがもりもりと食べているのが分かる。わたくしも上品に食べていると、レーニちゃんがこちらに駆けて来た。
「わたくしもご一緒していいですか?」
「ぜひどうぞ。よろしいですよね、エクムント様」
「もちろんです」
レーニちゃんが加わって、四人で食事をする。仲良く食事をしている席に、リリエンタール侯爵とレーニちゃんのお父様が顔を出してくださった。
「本日はわたくしたちの結婚式に参列してくだあってありがとうございます」
「結婚式なんて初めてなので、お招きいただいて嬉しいです」
「お招きいただきありがとうございます。素晴らしいお式でした」
挨拶をするリリエンタール侯爵に、クリスタちゃんとわたくしも挨拶をする。
「エリザベート様とクリスタ様はレーニと仲がいいのですね。これからも仲良くしてくださると嬉しいです」
「エリザベート様とクリスタ様は、わたくしのお部屋に遊びに来て下さったのです。お父様にも後でわたくしのお人形を見せて差し上げます。わたくしと同じ、赤毛なのですよ」
「レーニの髪の色は珍しいですからね。お人形がなくて、特別に注文して作ってもらったのです」
「お母様、あのお人形はわたくしの宝物です」
輝く笑顔で答えているレーニちゃんに、わたくしはレーニちゃんの未来は明るいのではないかと思っていた。
結婚式が終わって、披露宴の晩餐会には、わたくしとクリスタちゃんは出席しないことになっていた。レーニちゃんは出席するのだが、晩餐会までは少し時間があった。
「エリザベート様、クリスタ様、花冠の作り方を教えますわ」
「嬉しい! お母様、お父様、行ってきていいですか?」
「わたくしも行きたいです」
客間に顔を出したレーニちゃんは白いドレスからワンピースに着替えていた。晩餐会までの間は自由にしていいと言われたのだろう。
「行ってらっしゃい、エリザベート、クリスタ」
「レーニ嬢が時間までに戻れるようにするのだよ」
両親に言われてわたくしとクリスタちゃんは頷いてレーニちゃんと庭に出て行った。
庭のシロツメクサの生えているところに行くと、レーニちゃんがシロツメクサの摘み方を教えてくれる。
「葉っぱは取らずに、花だけを茎を長めに摘んでください」
言われた通りに摘んでいくと、摘んだ先からレーニちゃんは編んでいく。見よう見まねで編んでいくと、小さい花冠くらいならばすぐに作れそうだった。
「見て、花冠ができたわ」
「その花冠は小さすぎますね。ふーちゃん用かしら?」
「ふーちゃんにあげると、お口に入れちゃうからダメよ」
クリスタちゃんの作った小さな花冠では頭の上に乗せることができない。もう一度編み直すクリスタちゃんに笑いながら、わたくしも花冠を完成させた。
楽しく遊んでから部屋に帰ると、レーニちゃんは急いで部屋に着替えに戻っていた。自由時間ギリギリになってしまったようだ。
できた花冠をわたくしとクリスタちゃんはまず母に見せた。
「お母様、できましたわ」
「わたくし、小さい花冠を作ってしまって、やり直したの」
「小さい花冠は腕輪にすればいいではないですか」
「あ、それは素敵! さすがお母様だわ」
小さい花冠は腕輪にすることにして大きな花冠を頭に乗せて、ヘルマンさんに縦抱っこされているふーちゃんに見せに行く。ふーちゃんは花冠に興味津々で、触りたがっていたが、ヘルマンさんがそっとそれを止めていた。
花冠も出来上がって満足していると、両親は晩餐会に出かけて行った。
「エリザベートとクリスタは先に寝ていて構わないからね」
「デボラとマルレーンとヘルマンさんと一緒に過ごしてくださいね」
晩餐会に参加する両親をわたくしとクリスタちゃんで見送った。
花冠はすぐに萎れてしまいそうだったけれど、花冠の作り方はしっかりと覚えたので、今後シロツメクサを見付けたら花冠を作ることができる。同じような方法で、茎の長い花ならば花冠にできるのではないだろうか。
他の花でも花冠を作ることにわたくしは興味を持っていた。
前世の記憶があるとはいえ、わたくしは八歳。今世の体に前世の記憶が朧気に着いただけで、わたくしは八歳の自分の方が強い気がしていた。
「お姉様、ブルーサルビアで花冠が作れないかしら?」
「お屋敷に帰ったら庭師さんに聞いてみましょう」
ブルーサルビアの花はエクムント様にお誕生日に上げた思い出の花である。それで花冠が作れたらどれだけ綺麗だろう。考えるだけでうっとりしてくる。
部屋で夕食を食べて、ふーちゃんはヘルマンさんにミルクを飲ませてもらって、わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんは順番にお風呂に入って寝る準備をしてベッドに入った。
明日にはお屋敷に帰るのだが、この二日間はレーニちゃんともたくさん遊べてとても楽しかった。
ディッペル公爵領とリリエンタール侯爵領は少し距離があるが、馬車で行けばそれほど時間はかからない。
レーニちゃんと遊ぶためにまたリリエンタール侯爵家に遊びに来たい。
最初はクリスタちゃんに絡んでくる嫌な女の子だと思っていたレーニちゃんも、最低な元父親のことがあって荒れていただけで、今は素敵な可愛い仲良しの女の子だと思える。
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