エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない

秋月真鳥

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三章 バーデン家の企みを暴く

7.決戦はお茶会で

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 バーデン家に行かせた使いからは知らせが入っていた。
 最近バーデン家が馬車を新調したこと。廃棄された馬車は業者が買い取って行ったが、業者に手を回して調べさせると入口の取っ手がなく、そこにはもぎ取られた取っ手がぴったりとはまったということだった。

 これでバーデン家はディッペル家への侵略行為に関して言い訳ができなくなる。

 その他にも伯父上が持って来てくれた元ノメンゼン子爵とバーデン公爵家とのやり取りの手紙もある。
 ノメンゼン子爵家を伯爵家に陞爵させるなどという約束をしているということは、バーデン家が王家を乗っ取ろうとしている証に違いない。

 それ以外にもバーデン家のメイドに金を握らせて聞き込みをしたところ、バーデン家はクリスタちゃんの部屋を準備していたという話まであった。
 クリスタちゃんの部屋を準備していた時期がちょうどわたくしがクリスタちゃんを保護する直前だった。手紙の日付もクリスタちゃんが保護される前のものである。
 わたくしがクリスタちゃんの保護を両親に訴えていなければ、クリスタちゃんはバーデン家に教育を頼むという形で、ノメンゼン家から追い出されていたことになる。

 虐待した挙句に追い出すだなんて元ノメンゼン子爵と妾と娘は許せないのは当然だが、それを持ち掛けたバーデン家が企んでいたことも許されるものではない。

 わたくしはバーデン家に相応しい断罪の場を考えていた。

 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下のお誕生日の式典とお茶会で、わたくしもクリスタちゃんも、両親と一緒に王都に行かなければいけない。
 その場所こそバーデン家の断罪に相応しいのではないかとわたくしは思っていた。

「お父様、お母様、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下のお誕生日のお茶会で、バーデン家の企みを全て明らかにしましょう」
「そうだな。バーデン家のしていたことを考えれば、公衆の面前で暴かれるのが相応しい」
「お茶会には国王陛下も王妃殿下も出席なさいますからね」

 国王陛下も王妃殿下も出席するお茶会の席でバーデン家の企みが暴かれる。
 そうなればバーデン家ももう逃げられはしないだろう。
 相応の罰を受けることとなる。

 去年と同じく王宮に行くためにわたくしとクリスタちゃんは準備をして、トランクに荷物を詰める。わたくしは今年は自分で服を畳んで荷物を詰めることができた。クリスタちゃんは服は畳めなかったが、靴下や下着は自分で畳んでトランクに詰めていた。

「お姉様、髪飾りはどうしますか?」
「わたくしはリボンを付けようと思っています。クリスタちゃんはハインリヒ殿下からいただいた牡丹の髪飾りかリボンの造花を付けるといいのでは?」
「お姉様とお揃いにしたかったけれど、仕方がないわね。ハインリヒ殿下のお誕生日だもの。喜ばせて差し上げなくては」

 わたくしはリボンを、クリスタちゃんはリボンの造花の髪飾りを荷物に詰めていた。
 わたくしとクリスタちゃん、二人分の荷物でトランクはいっぱいになった。
 デボラとマルレーンも出かける支度をしている。二人とも王宮に行くので綺麗なメイド服を用意していた。

「デボラ、お茶会のときにはわたくしの髪を三つ編みにしてくださいね」
「はい、クリスタお嬢様。前髪も編み込みにしましょうかね」
「お願い」

 クリスタちゃんは髪を三つ編みに編んでもらって、前髪も編み込みにしてもらうのをとても気に入っている。

「デボラは本当に三つ編みが上手なのよ」
「わたくしには妹がいて、妹の髪を毎日編んでいましたからね」
「わたくし、デボラの三つ編み大好き。いつもありがとう」

 褒められてデボラも嬉しそうにしている。まだ十代なのに働きに出て、家族と引き離されているデボラだが、クリスタちゃんのことは本当に愛情をかけて世話をしてくれていた。
 マルレーンも十代の頃からわたくしの乳母に等しい世話係になったが、わたくしにたくさんの愛情をかけて育ててくれている。
 デボラもマルレーンもわたくしとクリスタちゃんにはいなくてはならない大人だった。

 王宮にはエクムント様もついてくる。
 両親とデボラとマルレーンとエクムント様に守られていれば、わたくしは安心だと思っていた。

 王都までは馬車と列車を乗り継いでいく。
 列車は一時間に満たないくらいで王都に着くので、駅に行くまでと、駅から王宮までを合わせても全ての行程で一時間半かからない。
 列車ではクリスタちゃんは母の膝の上に座らせてもらって、わたくしは一人で窓際に座った。列車が揺れると席から落ちそうになるし、窓の外もうんと体を伸ばさなければ見えないのだが、わたくしももう七歳なので父の膝に乗るのは恥ずかしかったのだ。

 列車は時々酷く揺れるので、両親に促されてデボラもマルレーンも席に座っていた。
 エクムント様は断って個室席の前の廊下で護衛に立っていた。

 王都に着くと王宮まで馬車で移動する。
 王宮に着いて荷物を降ろすと、両親は式典に出席する用意を始めていた。

「エリザベート、クリスタ、デボラとマルレーン、エクムントと一緒に過ごしなさい」
「今夜は遅くなりそうなので、先に寝ていて構いませんからね」
「デボラ、マルレーン、エクムント、エリザベートとクリスタを頼んだよ」

 デボラとマルレーンとエクムント様に声をかけて両親は足早に出かけて行った。わたくしはクリスタちゃんの顔を見る。
 クリスタちゃんは水色の目を好奇心できらきらと輝かせて、部屋を見渡していた。

「お姉様、部屋の探検をしましょう」
「去年もしましたね」
「去年のことなんて忘れてしまったわ」

 手を差し出すクリスタちゃんと手を繋いでわたくしは部屋の中を探検する。
 ソファセットのある部屋と、寝室の二部屋に分かれていて、テラスに出ることもできた。
 窓は開けられていて、涼しい風が入って来ている。

「見て、お姉様。噴水があるわ」
「去年の部屋からは見えませんでしたね」
「やっぱり探検をしてよかったわね」
「そうですね」

 王宮の庭には噴水があるだなんて知らなかった。わたくしはテラスから噴水を見下ろしてその涼しげな様子を楽しんだ。

 部屋に戻ると移動の間も蒸し暑かったのでわたくしとクリスタちゃんは汗をかいていた。

「デボラ、マルレーン、お風呂に入りたいです」
「わたくしもお風呂に入りたいわ」
「クリスタちゃん、お先にどうぞ」
「ありがとう、お姉様」

 デボラとマルレーンにお風呂の用意をしてもらって体を流す。熱くないぬるいお湯が気持ちいい。
 その日は部屋で夕食を取ってゆっくり休んだ。

 二日目がハインリヒ殿下とノルベルト殿下のお誕生日のお茶会だった。
 朝起きると、両親がわたくしとクリスタちゃんに教えてくれた。

「昨日の式典で国王陛下はハインリヒ殿下を皇太子にすると宣言なさったよ」
「ノルベルト殿下は将来大公として異国の姫君と婚約するという話でした」

 ノルベルト殿下は異国の姫君と婚約することが決まった。まだどの姫君かは決まっていないのだろうが、ノルベルト殿下はそれを了承したのだろう。
 わたくしを婚約者にと言っていたノルベルト殿下はもういない。そう思うと少し寂しいような、安堵するような気持が入り混じる。

 こうして誰もが大人になっていくのだろう。

 お茶会が始まる。
 これはわたくしにとっては決戦でもあった。

 バーデン家の企みを暴いて白日の下に晒すのだ。

 クリスタちゃんはオールドローズのドレスを着て、リボンの造花の髪飾りを付けて着飾っている。わたくしも空色のドレスとリボンを付けて戦闘準備を整えた。

「お母様、お父様、準備はよろしいですか?」
「準備万端だよ。国王陛下にもこのことはお話してある」
「行きましょう、エリザベート」

 わたくしの問いかけに心強い返事が返ってくる。
 わたくしはクリスタちゃんの手を引いてお茶会の席に意気揚々と出かけたのだった。
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