双子のカルテット

秋月真鳥

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後日談

朱色の小夜曲

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 18歳も年の差があるのだから、大人の薫の過去に嫉妬しても仕方がない。自分でも昔はアルファを何股もかけて、のし上がるために利用していたと隠さず正直に話してくれるし、日本に移住した22歳からは全く遊びの相手も作らなかったというのだから、出会ってからの薫は全部真朱のものだったと言って過言ではない。
 それでもやはり、昔の相手からもらった如何わしい下着があったりすると、その相手に気持ちが残っているのではないかという疑念が頭をよぎる。僅かでも薫の気持ちが自分以外に向くのは許せない真朱の気持ちを汲んで、薫はもらったものを全て処分して、真朱のために下着まで注文してくれた。
 その下着が朝食後に届いたのを薫が受け取っている場面に出くわして、真朱は中学校のカバンを落としそうになってしまった。週末で明日が休み、しかも月に一度の三味線の稽古も何もない日だから期待しない方がおかしい。
 リボンのかかった箱は二つで、気の付く薫は青藍のために響の分も注文していた。箱を持っている薫を見つめる真朱の顔が見る見る赤くなるのが面白かったのか、くすりと笑った薫が耳元で囁いた。

「今日一日、これを着て、真朱さんのことで頭をいっぱいにしておきますね。夕食が終わったら、お風呂に入って、私の部屋に来てくださいね?」

 期待を高めるような甘い声に、真朱は腰が砕けそうになっていた。ふわふわとした赤茶色の髪の毛を耳にかけて、はむりと薫が真朱の耳朶に噛み付く。

「お待ちしています。行ってらっしゃい、真朱さん」
「ふぁ、ふぁい! 行ってきます!」

 他者を拒むように、仕事場では薫はきっちりとシャツのボタンを一番上まで留めて、ネクタイを締めて、暑い日でもベストを着て、涼しい日にはジャケットまで着て、鉄壁の守りである。その下に、今日は真朱が選んだ下着を着てくれる。表面からは全く分からないが、一日中真朱の選んだ際どい下着を身に着けて、真朱のことでいっぱいになってくれる。
 そんなことを言われて興奮しないわけがない。
 玄関を出たところで、腰が砕けてずるずると座り込んだ真朱に、遅れて出てきた青藍が「げっ!」と妙な声を出す。

「お前、ティッシュ持ち歩いてへんのか? 鼻血、出とるで?」
「ふぇ!? ほんまや!」

 慌てて毎朝響が用意してくれるティッシュをポケットから出して、真朱は鼻血を拭いた。

「急に暑くなったからか? 逆上せたんか?」

 どうやら真朱は鼻血が出やすい体質のようで、薫と濃厚に接触するとどうしても出てしまう。すぐに止まるのであまり問題はないが、青藍は小さい頃から泣き虫で、双子だったせいで発育不良だった弟の真朱を心配してくれる。
 背も青藍より高くなったが、認識は真朱は変わらず痩せっぽちの弟のままなのかもしれない。

「冷たいもん飲んでから行くか?」
「こういう体質みたいやから、大丈夫や」

 一度拭いてしまえば止まるので、真朱は鼻血の付いたティッシュをポケットにしまって中学に向かって歩き出した。別に仲が悪いわけではない。兄弟仲はつい先月まで同じ部屋で生活できていたくらいいい方だが、この年になってまでわざわざ一緒に通学するわけではない。二人とも三味線の教室に通っている関係で部活には入っていないが、登校は自由にしていた。成績も青藍の方が良いが、高校も一番近い公立を狙っているので、受かれば同じ高校に進むだろう。
 双子の兄のことを考えていると少しだけ落ち着いてくるが、やはり、授業中も薫の囁きが頭をよぎる。涼しい顔をしてお店で接客している薫の頭の中は、今夜のイイコトでいっぱいで、誰にも気付かれず真朱に抱かれるための下着を身に着けている。

「やばっ、勃ちそう……」

 授業中に想像してしまって、股間が猛って真朱はもじもじと膝を擦り合わせた。夕方に家に戻ると、夕食の準備をしている薫から、ふわりとシャンプーの香りがする。

「暑くて汗をかいたので、お先にお風呂に入りましたよ」

 その意味が分からないほど、真朱は鈍くなかった。
 部屋着の下に、あの下着を着なおして、薫は真朱がいつ行ってもいいように準備をしてくれているのだ。薫と青藍の部屋の引っ越しや、三味線の稽古で忙しく、まだ真朱は初めてのとき以来、薫と軽くしか触れあっていない。何もしないでいると溜まるので、体に触らせてくれたり、真朱の中心に触れて抜いてくれたり、舐めてくれたりするのだが、薫の身体を知ってしまった後では、最後までしたい。その願いが今夜こそ叶いそうで、真朱の期待も股間も膨らむのは仕方のないことだった。

「薫さん、お風呂に入ってって言うてたわ」

 夕食後にいそいそとお風呂に入って、体中を磨き上げている間も、薫に触れられると考えるだけで中心がいきり立って仕方がない。それでも、薫とするのだったら絶対に我慢しようと、前屈みで部屋をノックした真朱を、薫は両腕を広げて部屋に招き入れてくれた。
 カツカツと硬い音がすると足元を見れば、鮮やかな青のハイヒールが履かれている。

「そ、それ……」
「ストッキングのレースが綺麗に見えるでしょう?」

 スラックスの裾を捲った薫に、跪いて真朱はその脚に頬ずりをしていた。

「駄目ですよ。見ててください」
「へ? 触ったらあかんの?」
「えぇ、私が脱ぐのを見ててください」

 軽々と抱き上げられて、ベッドの上に投げ落とされた真朱は、シャツのボタンを外して、袖を抜き、スラックスのジッパーを降ろして一枚一枚脱いでいく薫に釘付けになっていた。
 この年なのでもちろんストリップクラブなど行ったことはないし、一生行くことはないだろうが、一生そんな経験をしなくても良いくらい真朱のためだけに開かれたストリップショーは色っぽかった。
 ネモフィラと蝶のデザインの下着とブラジャーとガーターベルトとストッキング姿になった薫が、ヒールの音を響かせて真朱に近付いてくる。ベッドに上がる前にハイヒールを脱ごうとしたのを、真朱は止めてしまった。

「そ、そのまま。履いたまま、シたいれす」
「鼻血が出ていますよ、真朱さん」

 優しくティッシュで拭われて、真朱はこくこくと頷きながら、床の上に降りた。紐のようになっている下着の後ろが食い込む双丘を僅かに突き出すようにして、薫が壁に手を突く。

避妊具ゴムはデスクの上です」

 促されて薫の作業机の上を見たら、バナナのようなものが描かれている筒状の物体が置いてあった。不思議そうにそれを持ち上げると、薫が色っぽく笑って指を筒状にする。

「サイズが分かりやすいデザインなんだそうですよ」
「あ、これ、アレか!」

 蓋を開けると中にゴムが入っていて、真朱はパジャマのズボンと下着を脱いでいそいそと避妊具を付けた。

「真朱さんの立派だから、サイズが合わないときついかなと思いまして」
「これを握って、真朱くんの真朱くんを想像して、買ってきてくれたんか……」
「一日中私の頭をいっぱいにして、下着を着せるようなプレイをさせたのも、特定の誰かを考えて避妊具を買うようなことをさせたのも、真朱さんが初めてですからね」

 責任取ってくださいね。
 濃厚なフェロモンを纏って振り向いた薫の表情は欲望に蕩けていて、体をねじって振り返るその唇に真朱は吸い付く。拙いキスも、主導権は薫に持っていかれて、貪るように口腔を犯されるのが気持ちよくてたまらない。
 ぐにぐにと双丘を揉んでいるととろりとその狭間から、透明な液体が薫の太ももを伝ってストッキングを濡らす。

「準備、してくれてたんか?」
「できるだけ早く真朱さんを食べてしまいたくて」

 おいでなさい。
 招かれるままに真朱は避妊具を付けた切っ先を、薫の後孔に押し当てて下から突き上げる。うねるような内壁に持っていかれないように耐えていると、真朱の手に手を添えて、薫が胸に導く。

「こちらは可愛がってくださらないんですか?」
「し、しましゅ!」

 ブラジャーから手を差し込んで胸の尖りをこねると、薫が中を締め付けながら腰を捩って、快感に身を委ねる。

「とっても、上手ですよ。真朱さん、気持ちいい」
「おれ、も……もう、ダメや、出てまう!」
「んっ」

 振り返った薫に唇を塞がれて、真朱は絶頂の悲鳴を飲み込まれながら達していた。へたりと床の上に座り込んだ真朱の腰に跨って、薫が避妊具を外して結んで投げ捨て、新しいものを被せる。

「明日はお休みでしょう。もっと真朱さんを味合わせてくださいよ」
「ぞ、ぞんぶんに」

 ずぶずぶと飲み込まれながら、真朱は完全に薫に溺れ切っていた。
 床の掃除は面倒だったし、下着の下洗いも抱き合って怠い身体に楽だったとは言えないが、満足してベッドに倒れ込んだ真朱を、薫が抱き締める。

「ところで、私、愛してると言ってもらっていないんですけど」

 下着と行為に夢中になって、真朱は愛の言葉の一つも囁いていないことを指摘されて、眠い目を擦って必死に薫の胸に縋り付いた。

「好きや。めちゃくちゃ、好きや。愛してる」
「私もですよ、真朱さん」

 また、イイコトしましょうね。
 イケない大人の囁きに、次は何をするのだろうと期待を膨らませる真朱だった。
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