双子のカルテット

秋月真鳥

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二重奏 (デュオ)

朱色の二重奏 (デュエット) 2

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 抱き上げられたまま、階段を上がって廊下を渡り、薫の部屋に獲物を捕らえた肉食獣のように真朱は持ち帰られる。隣りの響の部屋から漏れ聞こえてくる、如何わしい声も、これから起きることを予期させるようで、興奮する材料でしかない。
 シーツの上に下ろされた真朱は、手際よく薫に裸にされてしまった。口付けながら自らも服を脱いでいく薫の胸を、真朱が我慢できずに手を伸ばして触ると、唇を離した薫が舌なめずりをする。

「ここ、どうしたいですか?」
「す、吸っても、ええ?」

 淡い色の胸の尖りを示す薫に、上目遣いにおねだりをすれば、「どうぞ」と胸に頭を抱き締められる。弾力のある柔らかな胸の筋肉に歯を立てて、胸の尖りを吸えば、薫の放つフェロモンが濃くなって、感じているのが分かった。

「可愛い……真朱さん、可愛いですね」
「んっ……」

 胸を吸うのに夢中になっている真朱のつむじに愛おしそうにキスをして、薫がスラックスと下着を脱ぎ捨てた。体格に見合った大きさの中心が、勃ち上がっているのに、真朱が安堵していると、胸から引き剥がされてベッドの上に倒される。
 抵抗なくシーツの上に横になった真朱の股座に、薫が顔を寄せた。

「大きくなりましたねぇ」
「そ、そんなとこに、話しかけんといてぇ。真朱くんは、こっちやで?」
「だって、立派なんですもの」

 ふっと悪戯に息を吹きかけられて、真朱はびくびくと腰を跳ねさせた。先端に滲んだ雫を、薫が唇を寄せて吸い取る。先端を舌で突かれ、くびれをなぞるように舐められて、真朱は泣きそうになってしまった。

「あかん、出てまうぅ! やぁや! 薫さんとなんもせんうちに、俺だけイくやなんて」

 涙声を上げる真朱に、薫が笑いながら真朱の顔を跨ぐように体勢を変えた。その位置からだと薫の白く形よく盛り上がった双丘が顔の目の前に見える。そこに片手を添えて、薫はくぱりと後孔を晒した。

「発情期で濡れてますけど、しばらく使ってないから、すぐには入らないんです。解してくださいますか?」
「ふぁ、ふぁい」

 あまりに隠微な光景に鼻血を垂らしながら、それすらも最早気にはならず、真朱は濡れる薫の奥に指を這わせた。指を差し込めば、吸いつくように締め付けられる。

「ひっ!? ひゃん!?」
「んっ、上手ですよ?」

 ぴちゃぴちゃと音を立てて美味しそうに真朱の中心を舐めながら、後孔では真朱の指を咥え込む薫のあまりの色気に、真朱は達しそうになっていた。

「ふぇ……あかんっ! もう、出る! 出てまうっ!」
「駄目ですよ」

 泣き出した真朱に奥から指を抜かせて、薫が顔が見えるように体勢を変えて、真朱の根元を指で作った輪で締め付けて達せないようにしたまま、細い腰に跨る。

「い、いたいぃ! ふぇ……かおるしゃん、きついよぉ!」
「真朱さん、イイコトを教えてあげますね」
「な、なに?」

 指で根元を堰き止められる痛みと、薫の中で達したいのに入れさせてもらえないつらさで、ぐしゃぐしゃの泣き顔になって、鼻血まで垂らしている真朱の耳元で、薫が囁く。

「私、生でするの、許したことないんですよ」

 アルファがオメガを番にする条件として、必要なのは二つ。自らの精液をオメガの胎に注ぐことと、うなじに噛み付くこと。

「しょれって……あぁぁっ!?」

 囁きの意味を問う前に薫が後孔に真朱の切っ先を宛がい、ずぶずぶと中に飲み込んでしまう。それと同時に指を外されて、真朱はあっけなく薫の中で白濁を散らしていた。

「で、でてもた……」
「真朱さんは侮られがちですけど、私は、あなたが誰よりも周囲を見ていて、賢いことを知っています」

 私が言ったことの意味は、説明しなくとも分かるでしょう?
 その問いかけに答えるように、達したばかりの身体を必死に起こして、鼻血も洟も涙もそのままのぐしゃぐしゃの顔で、真朱は薫のうなじに歯を立てた。
 血がにじまない程度、それでもくっきりと痕が残るくらいに強く。

「これで、真朱さんは私のもの、私は真朱さんのもの、ですけど……」
「ふぁ、ふぁい?」
「もうちょっと、続けても良いですよね?」
「や、やさしぃしてぇ?」

 十年以上禁欲生活を続けたのだから、しっかりと満たされたい。薫の願いを叶えることに真朱は何の文句もなく、濃厚なフェロモンに包まれて、ドロドロに溶かされるように自分の腰の上で腰を振る薫の中に、達してはまた引き戻され、たっぷりと白濁を注ぎ続けた。
 隣りの部屋が静かになっているのは、行為に疲れて力尽きているのだろう。その隙に薫は腰が抜けっぱなしの真朱をシーツで包んでバスルームまで運んで、シャワーで綺麗に洗い流して、バスタブに浸からせてくれた。快楽の余韻でふわふわと眠いような、怠いような、幸せな感覚に浸っている真朱を、体を流した薫がバスタオルで拭いて、パジャマも着せて薫の部屋に連れ帰ってくれた。
 シーツを替えたベッドに横になると、疲れで眠気が襲ってくる。

「薫さん、俺で良かったん?」

 ぽつりと零れた確認するような言葉に、薫が真朱を胸に抱き寄せてくれた。清潔なパジャマの洗剤の香りだけではない、薫の独特の甘い香りを、真朱は胸に吸い込む。

「予感はあったんです。私、『上位オメガ』だから、自分から誘わないと本能的に分かるのか、アルファは怖がって寄ってこないんですよ」

 響も同じく『上位オメガ』で、しかも自覚がないため誘うようなことは一切しなかったから、アルファが寄ってこなかった。寄ってきたのは財産目当ての従兄くらいで、それも薫が手ひどく退けた。

「青藍さんは真朱さんがベータかオメガと思っていたみたいですけど、私は一目で真朱さんがアルファだと分かりました」

 きっと、この子も本能的に『上位オメガ』である薫を恐れて、響にだけ懐くだろう。青藍と真朱、二人の子どもを響は無意識に威嚇するようなことはない。逆に受け入れていい方向に向かうかもしれない。

「青藍さんに関しては、ある意味、私の計算通りだったんですよ」

 年の差など関係ない。
 本当に響を愛して求めてくれる相手がいてくれればと、薫はずっと願っていた。双子のうち片方がアルファだと思われる青藍と真朱を引き取ったのも、響は全く下心はなかったが、薫に関してはある程度の期待と計算があったのだ。
 けれど、薫に抱っこされに来た真朱は、全てが薫の計算外だった。

「アルファなのに、真朱さんは私しか見てなかった。真朱さんの目がいつか他の相手に行くのかとずっと観察してても、一度もよそ見もしませんでしたね」

 真朱の気持ちに気付いていて、そのうちそれが親や家族に対するものに変わるかと見守っていたが、真朱は物凄く怖がりなのに襲われれば潔く二階の窓から飛び降りてしまうくらい、薫のことしか想っていなかった。

「だってぇ、俺には薫さんしかおらへんもん。運命やって一目で分かった」

 しかも、抑えているフェロモンすらも感じ取る真朱は、本人の言う通りに運命だったのだろうと薫も認めざるを得なくなった。

「運命なら、私のものにしてしまってもいいかなって思ったんです」

 もう放しませんよ、一生私のです。
 強く抱き締められて、寝落ちそうになりながら、真朱はへにょりと笑う。

「俺のセリフやで」

 そのまま寝てしまった真朱を抱き締めて、薫も深い眠りに落ちて行った。
 翌日、薫と響の双子が、お互いのうなじの噛み痕に気付いて、響は沈痛な面持ちで額に手をやり、薫は青藍にこれ見よがしに目配せするのを見て、真朱は一生尻に敷かれる予感がしたが、それこそ自分の望んでいた幸せなような気がして、青藍とサムズアップをしてお互いの恋の成就を祝ったのだった。
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