あなたへの道

秋月真鳥

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二章 成長する勇者と聖女

20.青慈と紫音の誕生日と入学式

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 青慈と紫音のお誕生日には、朱雀は青慈の両親のお墓にお参りに行った。行く途中で花を摘んだ青慈と紫音がお墓に供えている。

「青慈はこれで6歳になります。学校にもうすぐ入学します」

 学校に入学すると言っても、春から学校は始まるので、青慈は恐らく学年で一番遅い生まれの子どもになってしまうだろう。紫音は根拠はないが大丈夫だと思い込んでいるが、青慈は繊細なところもあるので、朱雀は心配でならなかった。

「おれ、あずきちゃんにおしえてもらったから、がっこうでちゃんとやっていけるとおもう! あんしんして!」
「あずきちゃんと、ゆうちゃん、あそびにこないかな?」
「ゆうちゃんも、3さいになってるのかな?」

 お墓に話しかけながらも、青慈は紫音とも話していた。紫音はくりくりとしたお目目で小豆と雄黄の訪問を心待ちにしているようだ。

「お誕生日に小豆ちゃんと雄黄くんも来て欲しいのかな?」
「え? いいの?」
「学校も休みの時期だからいいんじゃないかな」

 二人のお誕生日を他の相手と祝うなんてことは考えたことがなかったが、紫音と青慈が望んでいるのならば、朱雀は小豆と雄黄を呼ぶこともやぶさかではなかった。
 そのまま麓の街まで降りて行って、雑貨屋に顔を出すと、小豆と雄黄が店主の母親の足元でごねていた。

「遊びに行きたいよ、お母さん!」
「おとと、いちたいー!」
「だから、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの家に行ってなさいって言ったでしょう?」
「もう飽きたもん」
「あちたもん」

 外に行きたいと言う小豆と雄黄は、店の戸が開いた気配に振り替える。

「朱雀さん! 藍さん! 青慈くん、紫音ちゃん!」
「せーくん、しおたん!」

 助けが来たとばかりに雑貨屋の店主の母親はホッと息を吐いていた。

「今日は青慈と紫音のお誕生日なんです。小豆ちゃんと雄黄くんにもお祝いしてもらってもいいですか?」
「遊びに連れて行けなくて困っていたのよ。私は店番があるでしょう? お願いできたら助かるわ」
「行きましょうか、小豆ちゃん、雄黄くん」

 青慈のお願いに快く雑貨屋の店主の母親は返事をしてくれて、藍の差し出した手に雄黄が抱っこされる。青慈や紫音は3歳になる前から山道を歩いて登り降りしていたが、それが普通ではないことに朱雀も気付いていた。勇者と聖女の青慈と紫音に体力があっただけで、普通の3歳前の子どもは山道を登り降りできたりしない。
 抱っこされた雄黄と、荷物を準備した小豆と、朱雀は山の家に戻った。小豆と青慈、雄黄と紫音が遊んでいる間に、お昼ご飯とケーキを作る。ケーキは麓の街の青果店で買った苺を乗せたものだった。
 出来上がったケーキは氷室に入れて、お昼ご飯の肉まんを蒸す。熱々の肉まんをお腹いっぱい食べた雄黄と紫音は眠ってしまって、その間青慈は小豆と遊んでいた。

「これ、スイカねこのすずちゃん。スイカねこはがっこうにつれていける?」
「学校に西瓜猫は連れて行っちゃダメよ」
「だいこんは?」
「大根は……そのがま口に入れてたら大丈夫なんじゃないかしら」

 学校への入学に期待している青慈は小豆に学校のことを聞いていた。小豆は青慈の疑問に答えてくれる。

「おれ、がまぐちしかもってないけど、おおきいカバンがいるかな?」
「そのがま口に教本も帳面も入るでしょう? それなら、いらないと思うわよ」
「そっか。よかった」

 小豆が持っているような大きな鞄が学校には必要かと聞かれて、がま口に学校の道具が入るならばいらないと小豆は答えている。朱雀もそれを聞いて自分が学校用の鞄を青慈に用意していなかったことに気付いたが、いらないようならば安心だと胸を撫で下ろしていた。
 お昼寝から紫音と雄黄が起きてきて、朱雀は苺の飾られたケーキを氷室から取り出して着た。ケーキを見て小豆と雄黄の目が輝く。

「すごーい! こんな豪華なお菓子、みたことない!」
「おいちとう!」
「けーきっていうんだよ。おたんじょうびとか、とくべつなひにしかたべられないんだ」
「とってもおいしいのよ」

 青慈と紫音の説明に、雄黄の口から涎が垂れる。
 ケーキを切ってそれぞれの皿に乗せて、お茶を淹れると、雄黄は顔から突っ込むようにしてケーキを食べている。小豆は上品に匙で食べているが、食べる速度がすごいのは美味しいからだろう。
 青慈も紫音も吸い込むようにしてケーキを食べていた。
 食べ終わった青慈は自分で口の周りを拭いているが、拭き残しがあったので朱雀が仕上げに拭いてあげた。学校に通うようになっても、クリームはお弁当に入れないだろうから、ここまで口の周りが汚れることもないだろう。
 紫音と雄黄は、藍に口の周りを拭かれていた。
 お誕生日のケーキを食べてお祝いをすると、小豆と雄黄を麓の街まで送って行く。
 家に帰った朱雀はしみじみとした気分になっていた。
 大黒熊に両親の亡骸を食べられている青慈を見付けてからもう六年。長く生きる朱雀にとっては一瞬の出来事だったけれど、青慈の成長の一つも忘れたくないような大事な日々だった。これからの時間も飛び去るように一瞬で過ぎていくのだろう。それが分かっていても、朱雀は一日一日を大事に青慈と紫音と過ごしたかった。
 青慈と紫音の誕生日が過ぎて、青慈が学校に入学する日が来た。綺麗な立て襟で紐で前を留める上衣を着せて、動きやすいズボンを穿かせた青慈は、深靴を履いて学校に行く気満々だった。

「今日だけはその靴でいいけど、明日からは普通の靴を履いていくんだよ」
「これじゃダメなの?」
「それは一応、勇者の武器だからね」

 鉄骨の仕込まれた深靴を学校に履いて行かせるのは心配で、入学式のある今日だけは特別だが、他の日には履かない約束を青慈と朱雀はした。
 入学式には朱雀と藍と紫音が出席した。杏と緑も行きたがっていたが、薬屋の店番があるので来ることはできなかった。
 先生に呼ばれて、元気よく駆けていく青慈は、朱雀の手を離れたようで少し寂しい。
 これから青慈は学校という小さな社会に出て、世界を広げていく。学校を卒業したら、朱雀の元を離れて働き出すかもしれない。学校に通う期間は六年間。朱雀がこれまで青慈を育てて来た年月と同じだけだ。

「青慈くん」
「はい!」

 名前を呼ばれて青慈が元気よく返事をしている。生まれが春で遅いので、他の新入生よりも青慈は背も低く身体も細かった。それでも、青慈が逞しく学校でやって行けるだろうと朱雀は期待している。
 入学式を終えた青慈は朱雀と藍の元に返されて、一緒に山道を登って家まで帰った。庭を囲う門を潜ると、青慈は真っすぐに杏と緑の店の方に駆けていく。

「あんずさん、みどりさん、おれ、がっこうににゅうがくしたよ!」
「おめでとう、青慈!」
「もう立派な生徒さんね」
「ありがとう!」

 祝福されて嬉しそうな青慈に、紫音が眉根を寄せている。

「わたちはなんで、がっこうににゅうがくできないの?」
「紫音はまだ4歳よ。学校に入学できるのは、6歳になってから」
「せーがにゅうがくできるのに、わたちができないのはおかしい!」
「おかしくないのよ。学校に入学できる年齢は決まっているの」
「わたちもにゅうがくしたいー!」

 駄々を捏ねる紫音にどれだけ言っても聞かないのは分かっている。
 それでも学校に行けない事実は変わらないのだ。

「毎朝、青慈を送って行くときに、紫音も行こう」
「がっこう、いけるの?」
「送って行くだけだよ。お迎えにも行こう」
「わたちも、がっこう、いきたいー!」

 どうしても学校に行きたい紫音を説得するのは無理だった。そのうちに脱走して学校に行っているのではないかと心配になるが、朱雀はそれをどうしようもできなかった。

 時は過ぎる。
 飛び去るように。
 そこからの十年が妖精種の朱雀にとっては一瞬で過ぎ去ってしまうのを、止めることはできなかった。
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