末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

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最終章 王子と令嬢の結婚

25.爺やに相談と、僕の卒業式

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「爺や。爺やにしか聞けないんだ。お願いだ、教えて欲しい」

 ロヴィーサ嬢のお誕生会の夜、僕は爺やを部屋に呼んでいた。
 僕にとっては爺やは育ててくれた乳母代わりだし、一番信頼のおける相手だった。

「エドヴァルド殿下、私に何をお聞きになりたいのですか?」
「男女のことだ。僕はロヴィーサ嬢と夫婦になれる自信がない」
「エドヴァルド殿下はロヴィーサ嬢とこんなにも仲良くされているではないですか。自信を持ってください」
「仲良くはできているけれど、夫婦の営みができるかどうか、悩んでいるんだ」

 率直に言葉にした僕に爺やは難しい顔で顎を撫でていたが、ゆっくりと僕に近寄って声を潜めて話しかけてきた。

「エドヴァルド殿下もロヴィーサ様も初めて。失敗することもあるでしょう」
「やっぱり、失敗するんだな。僕はロヴィーサ嬢の夫になれないかもしれない」
「悲観なさらないでください。失敗してもいいのです。お互いに愛があれば、何度でもやり直しはできます」
「ロヴィーサ嬢を傷付けたり、苦しめたりしないだろうか?」

 そういう行為で女性が痛がったり、苦しんだりすることもあると父上は言っていた。僕はロヴィーサ嬢をそんな目に遭わせたくなかった。

「初めは痛かったり苦しかったりすることもあるかもしれません。回数を重ねるうちに慣れてくると聞いております」
「やはり、痛いのか……」
「痛みも、苦しみも、愛があれば乗り越えられるものだと思います」
「僕は臆病になりすぎているのかもしれない。ロヴィーサ嬢に嫌われたくないんだ」

 痛みや苦しみをロヴィーサ嬢に与えてしまえば、ロヴィーサ嬢は僕のことが嫌いになるかもしれない。僕と一緒に暮らすのが嫌になるかもしれない。
 それを考えるだけで僕は暗澹とした気分になる。

「エドヴァルド殿下、ロヴィーサ様にお願いをしてみたらどうですか?」
「何をお願いすればいい?」
「鬼の力の指輪を外さずにいてくれるようにと」

 爺やの考えは名案に思えた。

「鬼の力の指輪があれば、ロヴィーサ嬢は僕に嫌なことをされたら、すぐに突き飛ばしてでも逃げることができる。抵抗ができるようにするんだね」
「そうです。エドヴァルド殿下はお優しいので暴走することはないとは思いますが、初めてのときは緊張して訳が分からなくなるかもしれません。そういうときには、吹っ飛ばしていいと伝えておけば、エドヴァルド殿下も安心ではないですか」
「そうだな。ロヴィーサ嬢の意思がはっきりと分かれば、僕も安心してロヴィーサ嬢と結ばれることができる。ロヴィーサ嬢が嫌なことが少しでもあれば、僕を吹っ飛ばしてもらえばいいんだからな」

 大抵そういう場面では女性の方が力が弱いので、男性の僕が暴走してしまうと止めようがない。しかし、ロヴィーサ嬢には鬼の力の指輪があった。鬼の力の指輪があれば、僕など簡単に吹っ飛ばせる。
 ロヴィーサ嬢の意思を尊重できるならば、僕は吹っ飛ばされても全く構わなかった。

「爺やに相談してよかったよ。ありがとう」
「エドヴァルド殿下のお役に立てたならば幸いです。それにしても、エドヴァルド殿下の口からそのような話が出るようになるとは」

 しみじみとしている爺やに僕はじっと爺やの目を見詰めた。僕をずっと見守り続けてくれて、これからも僕のそばにいてくれる爺やの優しい眼差し。

「爺や、いつもありがとう。これからもよろしくね」
「エドヴァルド殿下にお仕えすることが私の幸せです」

 胸に手を当てて、爺やは深々とお辞儀をした。

 卒業の前の最後の試験で、研究課程への進学が決まる。
 アルマスもヘンリッキも僕も、全員満点で学年一位だった。ずっと好成績を修められたのはロヴィーサ嬢のおかげでもあるし、競い合ったアルマスとヘンリッキのおかげでもあった。

「高等学校の勉強もこれで終わりか。これからは別々になっちゃうね」
「成績を競い合うのもこれで最後だな」
「最後の成績が全員満点で本当によかったです」

 アルマスはマンドラゴラ研究のために薬学と農学を学んで、ヘンリッキはハーヤネン家の当主になるために政治学と社会学を学んで、僕は魔窟の研究と歴史学を学ぶことになる。
 分野が完全に別々になるので、もうアルマスとヘンリッキと成績を競い合うこともない。
 少し寂しかったけれど、研究課程の校舎は同じなので、お弁当は一緒に食べられそうだった。

「研究課程に入学してもよろしくね」
「こちらこそよろしく、エドヴァルド殿下、ヘンリッキ」
「一緒にお弁当を食べて、お弁当のおかずを交換しましょうね」

 高等学校を卒業しても、僕とアルマスとヘンリッキの友情は変わらない。

 高等学校の最後の成績を父上とエリアス兄上とエルランド兄上とロヴィーサ嬢に伝えると、みんな僕を褒めてくれた。

「こんなに成績のいい生徒は高等学校始まって以来じゃないのか」
「エドは本当に勉強を頑張っていたからね」
「素晴らしい成績での卒業に私も立ち会いたいな」
「エド殿下、努力が実りましたね」

 父上もエリアス兄上もエルランド兄上もロヴィーサ嬢も手放しで褒めてくれるので僕はとても誇らしかった。

「卒業式には私も行くぞ」
「父上、行かれるのですか!?」
「私も行きます!」
「エルランドも!? 行けないのは私だけか」

 エリアス兄上は国王陛下という地位があるので高等学校の卒業式には出られないが、僕は父上とエルランド兄上が来てくれるということに驚いていた。

「いいのですか、父上、エルランド兄上? エルランド兄上はご自分の研究課程の卒業式もあるのでは?」
「私は誰の入学式にも、卒業式にも行くことができなかった。国王という役職があったからだ。自由になったのだから、エドの卒業式にも、エルランドの卒業式にも行くぞ! 文句は言わせない!」
「父上、私の卒業式にも来て下さるのですか? エド、私の卒業式は日程がずれているから、問題ないのだよ」

 完全に僕の卒業式に来てくれる気でいる父上とエルランド兄上に、僕は照れ臭かったけれど、嬉しくて堪らなかった。

 高等学校の卒業式の日には、講堂の一番後ろに父上とエルランド兄上とロヴィーサ嬢が立っていた。
 卒業生代表の挨拶は、ずっと学年一位を保ち続けたアルマスだった。

「高等学校に入学してから六年、私たちはたくさんの方々に支えられて卒業までの道のりを歩んできました。私たちに真摯に向き合ってくださった先生方、共に学んだ仲間たち、そして、私たちを見守って下さった保護者の皆様、本当にありがとうございました」

 アルマスの挨拶が終わると、一人ずつ壇上に呼ばれて、卒業証書を受け取る。

「アルマス・バックリーン」
「はい!」

 これも成績順なので、アルマスが一番だった。

「エドヴァルド・ナーラライネン」
「はい!」

 続いて僕が二番目に呼ばれる。これはヘンリッキと成績が変わらないが、王子として忖度された結果かもしれない。

「ヘンリッキ・ハーヤネン」
「はい!」

 ヘンリッキも呼ばれて、卒業証書を受け取っていた。
 卒業証書を受け取った後には、校長先生からのお祝いの言葉があって、卒業式は終わった。
 卒業式が終わると僕は父上とエルランド兄上とロヴィーサ嬢のところに駆けて行った。父上が僕を抱き締める。
 抱き締められて、僕は自分が父上よりも大きくなっていることに気付いた。

「エド、とても立派だったよ。卒業おめでとう」
「ありがとうございます、父上」
「エド、私が泣けてきた」
「エルランド兄上ったら」
「高等学校に入学できると思っていなかったエドがこんなに立派になって、卒業式に臨めるなんて。これもロヴィーサ嬢のおかげです。ありがとうございます」

 僕が高等学校に遅れて入学したのはロヴィーサ嬢と出会ってからだった。ロヴィーサ嬢が安定的にモンスターを供給してくれるので、僕は体調が落ち着いて、高等学校に入学することができたのだ。

「ロヴィーサ嬢、ありがとうございました」
「エド殿下とてもご立派でした。わたくし、こんな婚約者を持って誇らしいです」

 見上げて来るロヴィーサ嬢の華奢な体を抱き締めたい。
 その気持ちはあったが、父上とエルランド兄上の視線を感じて、僕はぐっと我慢したのだった。
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