末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

文字の大きさ
157 / 180
最終章 王子と令嬢の結婚

7.エリアス兄上のお誕生日と子豚の丸焼き

しおりを挟む
 エリアス兄上のお誕生日が王城で開催される。
 この国の国王陛下のお誕生日なのだから、盛大に祝われることは確かだ。
 その件に関して、ユリウス義兄上がロヴィーサ嬢に相談に来ていた。

「私はロヴィーサ様のようにマグロの解体ショーでエリアスを祝うことはできないのですが、何かできないか考えているのです」
「ユリウス殿下は国王陛下をお祝いしたいのですね」
「エリアスのために私ができることがないでしょうか?」

 真剣に相談してくるユリウス義兄上に、ロヴィーサ嬢はクラース殿を離れの棟から呼んだ。呼ばれてきたクラース殿はユリウス義兄上を見て姿勢を正す。

「王配殿下いらっしゃいませ。今回は何かレシピをお探しですか?」
「そうなのです。エリアスのお誕生日に私ができるレシピを探しています。エリアスはマグロの解体ショーをとても羨ましがっていました。マグロの解体ショーではミエト家と被ってしまうので、それ以外のもので、エリアスを喜ばせたいのです」
「分かりました。私にお任せください」

 居間のテーブルの上にクラース殿が手を翳すと、光が魔方陣を描き、その中央に紙の束が現れる。どの国の言葉で書かれているか分からないその紙の束を、クラース殿は手に取って読んでいく。

「クラース殿はその文字を読めるのですか?」
「私が召喚したレシピに関してだけは、私はどんな言語も読めるのです」

 なんて素晴らしい能力なのだろうと僕が感激していると、クラース殿が読み上げる。

「子豚の丸焼き」
「え!? 子豚を丸焼きにするのですか?」
「そうです。皮はそのままで、内臓を出して、お腹にハーブを詰めて丸焼きにするのです」

 初めて聞いた料理にユリウス義兄上も興味津々である。
 クラース殿はレシピを読み上げる。

「皮はパリパリして、肉はふっくらと柔らかく焼き上げるのがコツだそうです」
「そんなことが私にできるでしょうか?」
「ロヴィーサも私も手伝います。やってみましょう」
「はい。エリアスに許可を取ってみます」

 その日はユリウス義兄上はクラース殿から細かい説明を受けて帰って行った。
 エリアス兄上のお誕生日当日、早朝からユリウス義兄上とクラース殿とロヴィーサ嬢は庭に子豚の丸焼き器を組み立てていた。炭の上に棒を組み立てて、ハンドルをつけて、子豚が炭の上で回りながら焼けるようにしているのだ。
 炭に火をつけてユリウス義兄上がハンドルを回す。角度を変えながら全部の肉に火が通るようにユリウス義兄上は子豚の丸焼きを作っていく。
 焼き上がった子豚は巨大な皿に乗せられて会場に運ばれた。

 ユリウス義兄上は式典に参加するために急いで戻って着替えている。
 僕とロヴィーサ嬢とクラース殿も着替えて大広間に入った。

 大広間では子豚の焼けたいい香りがハーブの匂いに混じって広がっている。貴族たちの視線も大広間の中央に据えられたテーブルに置かれた子豚の丸焼きに向いている。

「この度は私の誕生日に来てくれて感謝する。これからもユリウスと共に国を治めていきたいと思っている。今回の誕生日には、ユリウスが特製のご馳走を作ってくれた。それも楽しんでいって欲しい」

 エリアス兄上が挨拶をして、ユリウス義兄上が壇上から降りてエプロンをつけて子豚の丸焼きを切り分ける。皮もパリパリに焼けていて、ものすごく美味しそうだ。
 切り分けられた最初のひと切れを味わうのはエリアス兄上だった。

「これは美味しいな。ユリウス、ありがとう」
「エリアスに喜んでもらえて嬉しいです。皆様もどうぞ」

 僕は王族なので早くに順番が来る。受け取った皿の上には皮の付いた肉が乗っていた。近くのテーブルには塩コショウやスパイスなどが置いてあって、自由に味付けしていいことになっている。
 僕は塩コショウで味付けをして子豚の丸焼きを食べた。
 パリパリの皮にジューシーな肉。口の中に肉汁が溢れる。

「とても美味しいです。ロヴィーサ嬢も食べましょう」
「わたくしは、少しスパイスをかけましょうか」

 ロヴィーサ嬢はカレーに似た香りのスパイスをかけて食べている。笑顔だけでロヴィーサ嬢が美味しいと思っているのはよく分かった。
 エルランド兄上も父上も、セシーリア嬢もダミアーン伯父上も、みんな美味しそうに子豚の丸焼きを食べている。
 子豚とは言ってもモンスターなのでかなりの大きさがある。貴族たちに肉は行き渡りそうだった。

「これはクラース様とロヴィーサ様が手伝って作ったのですか?」
「王配殿下がほとんどされましたわ」
「本当に美味しい。一匹丸ごと焼いてしまうなんてすごいレシピを見付けたものですね」
「他にも子牛の丸焼きや、鶏の丸焼きもありますよ」
「まぁ、それは興味ありますわ。クラース様、ぜひ教えてください」

 セシーリア嬢はロヴィーサ嬢にもクラース殿にも目を輝かせて話しかけていた。エリアス兄上のお誕生日のすぐ後にはエルランド兄上のお誕生日がある。セシーリア嬢はそのときに美味しい料理を作りたいのだろう。

「鶏の丸焼きには、ハーブやお米を入れて、崩しながら一緒に食べるのが美味しいのですよ」
「お米を入れるのですか?」
「そうです。お腹に入れたお米が鶏の脂を吸って旨味が凝縮されるのです」

 クラース殿の説明を聞いていると、僕も涎が出てきそうになる。
 食べてみたいと思わせるクラース殿の説明は、レシピ召喚ができる魔族らしいものだった。

「エルランド殿下のお誕生日に、ぜひ鶏の丸焼きを作りたいですわ」
「鶏の丸焼きならばオーブンでできますね。一羽が小さいので、何羽分も作らないと会場の全員には行き渡らないでしょうが」
「何羽でもわたくし、焼きます! エルランド殿下のためですからね!」

 セシーリア嬢はクラース殿と話してやる気になっていた。

 エリアス兄上のお誕生日にはアルマスとヘンリッキも招かれていた。

「アルマス、このスパイスをかけると美味しいよ」
「あぁ、それは俺も気になってたんだ」
「私の分を一口食べてみるか?」
「ありがとう」

 寄り添いながら子豚の丸焼きを食べている二人に声をかけるのは躊躇われたが、親友なのだから妙に遠慮する方が失礼だと近寄った。
 僕とロヴィーサ嬢が近寄ってくると、アルマスが表情を明るくする。

「マンドラゴラ舞踏団のお披露目が決まりました」
「どこでお披露目をするのですか?」
「エルランド殿下のお誕生日会でダンスを依頼されたのです」

 まさかのエルランド兄上がアルマスにマンドラゴラ舞踏団がお誕生日会で踊ってくれるように頼んでいた。エルランド兄上もアルマスのお誕生日のマンドラゴラのダンスの噂を聞いて羨ましく思っていたのだろうか。

「エルランド殿下のお誕生日は賑やかになりそうですね」
「マンドラゴラたちには頑張らせますよ。練習の成果を出さないと!」
「ニンジンのバレエだけなのですか?」
「今はそうですが、そのうち、大根のラインダンス、蕪のフラダンスも披露します」

 アルマスは人参マンドラゴラのバレエだけでなく、大根マンドラゴラのラインダンスと蕪マンドラゴラのフラダンスも考えていた。
 マンドラゴラの話を振るとまたアルマスが興奮しそうなので、この程度で留めておく。

「わたくし、公爵家の当主で、研究課程にも遅れて入学したでしょう?」

 エリアス兄上のお誕生日のパーティーが終わってから、ロヴィーサ嬢がぽつりと呟いた。

「僕も高等学校には遅れて入学しました」
「わたくし、ずっと親しい友人がいませんでしたの」
「僕もアルマスが話しかけてくれるまで、王子で魔族の僕に誰も近寄って来ませんでした」
「エド殿下にはアルマス様がいてよかったと思います。わたくしは、今、セシーリア様と言う親友を得られて、とても幸せなのです」
「ロヴィーサ嬢はセシーリア嬢と仲がいいですよね」
「はい、わたくし、セシーリア様がこの国に嫁いで来られるのを楽しみにしているのですよ」

 ロヴィーサ嬢は公爵家の当主として、気安く接する友人はいなかった。僕もアルマスとヘンリッキがいなければ、友人などできなかっただろう。
 身分というのはどうしても親しくしてもらえる相手を選んでしまうのだ。

 セシーリア嬢は魔族の国の宰相家の令嬢で、ロヴィーサ嬢とも身分もつりあう。お互いにこの国の王族の婚約者で、とてもいい関係を築いている。

「セシーリア嬢がいてよかったですね」
「はい」

 僕が言えばロヴィーサ嬢はにっこりと微笑んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~

水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。 彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。 失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった! しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!? 絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。 一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

処理中です...