末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

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五章 十六歳の性教育

10.エルランド兄上のお誕生会の料理作り

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 エリアス兄上のお誕生日会には、ダミアーン伯父上もセシーリア嬢も来てくれた。
 国中の貴族から祝われて、エリアス兄上は順番に挨拶に来る貴族たちの相手をしている。エリアス兄上の隣りにはいつもユリウス義兄上がいて、微笑んでエリアス兄上と一緒に挨拶をしている。

 会場の料理を食べる気にならない僕に、セシーリア嬢がエルランド兄上から少し離れてやってきた。目的は僕の隣りに立つロヴィーサ嬢のようだ。

「エドヴァルド殿下、ロヴィーサ様、少しよろしいでしょうか?」
「わたくしは構いませんよ。エドヴァルド殿下は?」
「私も構いません。お話を聞きましょう」

 相談事のあるセシーリア嬢にロヴィーサ嬢と僕が応じると、セシーリア嬢は口元を隠して小声でロヴィーサ嬢にお願いしている。

「エルランド殿下のお誕生日で、わたくし、料理を作りたいのです。ロヴィーサ様は何度も王家のパーティーで料理を作っていると聞きます。一緒に作ってはいただけませんか?」
「その件に関しては、まず国王陛下の許可を得ましょう。王城の厨房は国王陛下の許可なしには使えません。それから、メニューを相談しましょうね」
「それでは、許可が下りれば一緒に作ってくださるのですか?」
「はい、喜んで作ります」

 ロヴィーサ嬢の答えにセシーリア嬢が感激している。
 こんな風に即答できるのもロヴィーサ嬢の気持ちのいいところだと僕は思っていた。

「私もお手伝いします」
「エドヴァルド殿下もお手伝いしてくださるのですか?」
「ロヴィーサ嬢が料理を作るときは、私はお手伝いしているのですよ」

 ロヴィーサ嬢のように器用にはできないが、僕も少しならば料理ができる。理想はロヴィーサ嬢のようにできることなのだが、ロヴィーサ嬢はレベルが高すぎてとても追い付けない。
 素材からしてロヴィーサ嬢は最高の新鮮なものを調達してくるのだ。勝てるわけがない。

「セシーリア様はお魚は好きですか?」
「はい。魚も肉も野菜も、好き嫌いはありません」
「エドヴァルド殿下がお魚が好きなのです。わたくし、お魚のレシピをたくさん覚えてしまって」
「そうなのですか。エルランド殿下は何がお好きでしょう? エルランド殿下の好きな料理を作りたいです」

 乙女同士で話し合っている様子はとても可愛い。
 セシーリア嬢は母上の方が年が近いようなお方だが、恋をするとこんなにも可愛くなってしまうのだろう。魔族ということもあって、ロヴィーサ嬢と変わらない年齢に見える。

「女性同士で盛り上がっているようですね。私とエドは別の場所にいた方がいいでしょうか」
「エルランド殿下、そんなことを仰らないでください」
「セシーリア様はエルランド殿下のお誕生日の相談に来られていたのです」
「エルランド殿下は食べ物で何がお好きですか?」

 冗談めかしてエルランド兄上がセシーリア嬢とロヴィーサ嬢に声をかけると、逆に質問されてしまう。問われてエルランド兄上は考えていた。

「私は好き嫌いを考えたことがありませんね。どの食べ物も、私が食べなければ廃棄されるもの、だから嫌いなものを作らないように気を付けていた気がします」
「わたくしもそうです。貴族の食べるものは、誰かの手によって作られた食材。大事にせねばという気持ちが強くて、好き嫌いなど考えたことがありませんでした」
「私たち似ているのですね」
「そのようですね、エルランド殿下」

 エルランド兄上もセシーリア嬢も、好き嫌いというものを作ってはいけない環境に生きてきた。好きなものや嫌いなものを作ってしまうと、それによって厨房が影響されてしまう。
 出されたものをもったいなくないように全部食べることがエルランド兄上とセシーリア嬢の頭にあったようだ。

「僕はロヴィーサ嬢と出会うまで食べるものを選んでいられませんでしたからね。ロヴィーサ嬢と出会って、食べるものが豊富になって、好きなものができた気がします」
「エドヴァルド殿下は王城を離れてから好きな食べ物ができたので、それでいいと思うのです。作るのはわたくしですから」
「ロヴィーサ嬢に迷惑をかけていませんか?」
「全然。エドヴァルド殿下に作るのは楽しいです」

 僕を全肯定してくれるロヴィーサ嬢に、僕は幸せな気分になってくる。
 エルランド兄上とセシーリア嬢も仲良く二人で手を取り合って踊っている。
 僕もロヴィーサ嬢に手を差し出した。

「踊ってくださいますか?」
「はい」

 ロヴィーサ嬢の手が僕の手に重なる。
 ワルツのリズムで踊り始めて、僕はロヴィーサ嬢の細い腰に手を添える。艶やかな黒髪から甘い香りがして、胸が高鳴る。
 父上の性教育を受けてからロヴィーサ嬢を妙に意識してしまっていた時期もあったけれど、僕とロヴィーサ嬢の関係は元に戻りつつあった。

 つまりは、キスはまだできない。

 キスをしたいと思っているのだが、なかなかそこまで到達しないのだ。
 いい雰囲気になったときには、こんな風に大勢の貴族の中に囲まれているし、二人きりになろうとしても爺やが僕の後ろに常に控えている。
 わざわざ爺やに「下がって」と言ってから雰囲気づくりをしようとしても、その時点でムードは完全に壊れてしまっていた。

 ロヴィーサ嬢の艶々のほの赤い唇、甘い香りのする豪奢な黒髪、海のように深い青い目、透き通るように白い肌。
 触れたいと願っているのに、僕は触れることができないでいた。

 エルランド兄上のお誕生日にセシーリア嬢とロヴィーサ嬢が料理を作るのは、国王陛下であるエリアス兄上から許可が下りた。
 セシーリア嬢はミエト家にやってきて書庫でレシピを一生懸命探している。

「カレーを食べたときも、ピロシキを食べたときも、『美味しい』と仰っていました」
「セシーリア様はエルランド殿下にカレーとピロシキを作ったのですね」
「カレーは立食パーティーには向かない食べ物ですよね」
「カレーパンにしてしまうというのはどうですか?」
「カレーパン?」

 不思議そうに聞き返したセシーリア嬢に、ロヴィーサ嬢がカレーパンのレシピを見せている。カレーを包んでパン生地を揚げるカレーパンは、僕も大好きだった。

「これならば立食パーティーでも食べられそうですね」
「ベーコンエピも美味しいのですよ」
「ベーコンエピ?」
「これです。パンにベーコンを入れて焼くのです」

 他にもメニューを提案するロヴィーサ嬢にセシーリア嬢が頷いてレシピを複写している。
 ピロシキとカレーパンとベーコンエピをエルランド兄上のお誕生日では作ることになりそうだ。

「僕もお手伝いします」
「ありがとうございます、エドヴァルド殿下」
「あ、僕って言っちゃった」
「わたくしの前では構わずに、普段の呼び名、普段の言葉遣いをされてください」

 セシーリア嬢は僕の言葉遣いにも寛容だった。
 僕が自分のことを「僕」というのは、王族として相応しくないのかもしれないが、父上やエリアス兄上やエルランド兄上やダミアーン伯父上が、自分のことを「私」というのを聞いていて、大人っぽ過ぎて僕には合わないような気がしていたのだ。
 僕は自分のことを「僕」と言う方がしっくりくる。

 王城に場所を移して、ロヴィーサ嬢がセシーリア嬢と僕とエルランド兄上のお誕生日の料理を作る。

「ケーキは決めましたか?」
「はい。果物がたくさん乗ったタルトにします」
「それでは、タルトの準備をセシーリア様にしていただきます。エド殿下はパン生地を捏ねてください。わたくしはカレーの準備を致します」

 手際よく仕事を配分して、ロヴィーサ嬢が作り始める。
 小麦粉と水と塩とイーストを混ぜて、僕はパン生地を捏ねる。セシーリア嬢はタルト生地を作って焼いて、その間にたくさんの果物を剥いて用意している。
 厨房にはカレーのいい匂いがしていた。
 スパイシーな香りに僕は喉を鳴らす。

「少しだけ味見しますか?」
「はい!」

 小皿にカレーを差し出されて、僕は大喜びでそれを受け取った。粘度が高いカレーはこっくりとして美味しい。
 エルランド兄上のお誕生会は大成功の予感だった。
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