末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~

秋月真鳥

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二章 高等学校二年生の王子

15.マンドラゴラ大実験

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 冬休みに入ってから、アルマスとアクセリとアンニーナがミエト家を訪ねてきた。大根マンドラゴラの大根一号と、人参マンドラゴラの人参二号と、蕪マンドラゴラの蕪三号も一緒である。
 今回僕とロヴィーサ嬢に用があったのはアクセリだった。

「僕……じゃない、私、どうしてもモンスターの肉を食べてみたいんです」
「アクセリ、それは危険だよ。アルマスのお誕生会で僕のためのタルトを食べて、アクセリは死にかけたんだよ」
「何とか食べられる方法がないのでしょうか?」

 僕とロヴィーサ嬢もそれは考えていた。
 モンスターや魔力の宿った食材の毒素を消すことができれば、僕は父上と同じものを食べられる。
 父上も僕に気兼ねなく僕と食卓を囲めるのだ。

「実験してみたいけど、難しいだろうね」
「お願いします、私にやらせてください」

 十歳のアクセリには何か策があるのだろうか。
 アルマスの方を見てみると、アルマスは何匹かマンドラゴラを別に連れていた。

「俺も考えてることがあったんだよ。エドヴァルド殿下は高等学校でお弁当を食べるときにもものすごく注意している。それがなくなれば楽になるんじゃないかと思って」
「僕のために?」
「エドヴァルド殿下は、俺の親友だろう?」

 アクセリは自分が食べてみたいという興味のため、アルマスは僕が高等学校でお弁当を食べるときに気を付けていることを止めていいようにするためだった。

「私、魔族の国に嫁がなければいけないでしょう? 魔族の国で旦那様と同じものを食べたいんです」

 アンニーナにも思惑があったようだ。
 厨房に招くのはアクセリが十歳、アンニーナが九歳ということで不安はあったが、ロヴィーサ嬢と話し合ってマスクと手袋をつけてもらって厨房に入ってもらった。

「厨房には常人には触れるだけで毒になるものもあります。指示には従ってくださいね」

 ロヴィーサ嬢がくれぐれも注意してアルマスとアクセリとアンニーナを招いた。

「びぎゃ!」
「びーぎゃびーぎゃ!」
「びょえ!」

 マンドラゴラたちも当然のように入って来る。マンドラゴラは魔法植物なのでマスクも手袋も必要なかった。
 僕はジャガイモと玉ねぎと人参の皮を剥いて、キャベツをざく切りにして、ベーコンと一緒にポトフを作る。
 ロヴィーサ嬢は豚とキャベツを炒めていた。

「作る工程でマンドラゴラを入れてみたらどうかと思うんです」
「マンドラゴラをですか?」
「マンドラゴラもやる気です」

 マンドラゴラを見ると、自分の頭に生えている葉っぱを一枚ずつ引き抜いて僕とロヴィーサ嬢に手渡している。
 マンドラゴラは常人も魔族も美味しく食べられる食材の一つだから、可能性はないとは言い切れなかった。

 僕がマンドラゴラの葉っぱをお鍋に入れて、ロヴィーサ嬢がフライパンに入れると、大根マンドラゴラの大根一号と人参マンドラゴラの人参二号と蕪マンドラゴラの蕪三号が歌い出した。

「びぎゃーぎゃ、びょわーわ」
「びょえびょわびょげ」
「ぎょわ、ぎょーぎょー」

 マンドラゴラが歌うたびに魔力のようなものが生まれて、料理に沁み込んでいくのが僕には分かる。僕は半信半疑でお玉で掬ったスープを小皿に入れてアルマスに差し出した。

 アルマスの目が真剣なものになる。
 アルマスのお誕生会でアクセリは僕の食べるタルトを食べてしまって、命の危険に晒された。
 僕はそれを克明に覚えているし、アルマスも同じだろう。

「お兄ちゃん、きっと大丈夫。マンドラゴラが守ってくれるよ」
「俺に何かあったら、すぐに処置してくれるか?」
「僕とロヴィーサ嬢に任せて」
「分かった。頼む」

 アルマスが心を決めてスープを飲む。ごくりと喉が動くのを僕も唾を飲み込んで見つめていた。
 しばらくアルマスを見詰めていても倒れる気配はない。

「成功か?」
「お兄ちゃん、モンスターの肉を食べられるようになるんだね!」
「やったわ!」

 無邪気に喜ぶアクセリとアンニーナに、アルマスがまだ真剣な顔のままで告げる。

「何がよかったのか纏めないといけない。マンドラゴラの葉っぱを入れたことと、マンドラゴラが歌ったこと。それ以外にあるか?」
「ないと思う」
「同じ条件で実験を繰り返して、それで本当に大丈夫だったら、アクセリとアンニーナにも食べさせる」
「えー!? 僕には食べさせてもらえないの!?」
「私も食べたいわー!」

 文句を言うアクセリとアンニーナに、アルマスは譲らなかった。

 続いてロヴィーサ嬢が白身魚のフライを作る。
 衣をつけるときに刻んだマンドラゴラの葉っぱも入れておいて、油で揚げていると大根マンドラゴラの大根一号と人参マンドラゴラの人参二号と蕪マンドラゴラの蕪三号が歌い出す。

「びーぎょえ、びーぎょえ」
「ぎょーわ、ぎょーわ」
「びょわ、びょえ、びょげ」

 歌が厨房に響くと魔力の広がりを感じる。

「マンドラゴラが歌っていると魔力が広がるのを感じるのです」
「マンドラゴラの歌には魔力があるのですね。引き抜くときの絶叫はひとを殺すと言われていますが」
「そうなのですか!?」
「そうなのです。エド殿下がご存じなかったのですね」

 話しながらからりと揚がった白身魚のフライを一欠けら、アルマスに差し出した。
 アルマスは緊張しながらもそれを平らげる。

「美味い……。味を感じる余裕が出てきた」
「体は平気なんだね」
「平気だな。これは、間違いないんじゃないだろうか」

 マンドラゴラの葉っぱを料理に入れて、マンドラゴラに歌ってもらう。それで魔族も人間も害なく食べられる料理ができる。
 その事実は僕にとってはとても大きなものだった。

「アルマス、アクセリ、アンニーナ、ありがとう。僕は父上と同じものが食べられるようになる」
「エドヴァルド殿下も悩んでいたのか?」
「父上との食事会で、毎回僕はお弁当を持って行っているけれど、父上の口には絶対に入らないように気を付けなければいけなかった。調理法次第では父上に害がないと分かれば、堂々と一緒に食べられる」

 喜んでいる僕に、ロヴィーサ嬢が声をかけてくれる。

「年越しを王城でと誘われている件、この方法ならば王城の厨房を使わせてもらえるのではないでしょうか?」
「わざわざ外にバーベキュー台を組むこともなくなりますね」
「アクセリ様とアルマス様とアンニーナ様は、素晴らしい方法を見つけてくださいました。ありがとうございます」

 調理した食材が毒にならないのであれば、僕もロヴィーサ嬢も憚りなく王城の厨房を使うことができる。
 そのことが分かって、僕にもロヴィーサ嬢にも非常に有益な実験だった。

 ロヴィーサ嬢はパンも同じようにマンドラゴラの葉っぱを混ぜ込んで焼いて、大根マンドラゴラの大根一号と人参マンドラゴラの人参二号と蕪マンドラゴラの蕪三号に歌ってもらって、オーブンで焼き上げた。
 焼き立てのパンで、豚肉とキャベツを炒めたもののサンドイッチと、白身魚のフライのサンドイッチを作って、マンドラゴラの葉っぱを混ぜ込んでマンドラゴラに歌ってもらって作ったマヨネーズやタルタルソースで味付けをする。

 お昼ご飯は豚肉とキャベツを炒めたもののサンドイッチと、白身魚のサンドイッチと、ベーコンと野菜のポトフだった。

 アルマスとアクセリとアンニーナも一緒に食卓に着く。
 遠慮なくサンドイッチにかぶり付いているアクセリとアンニーナも、その様子を注意深く見ているアルマスも、全く毒の症状はでなかった。

 アルマスのお誕生会のときにアクセリがタルトを食べただけで、倒れて気を失ってしまったのが嘘のようだ。

「これからは他の方と食事をするときにはマンドラゴラの力を借りればいいのですね」
「でも、マンドラゴラも毎回葉っぱを抜かれていると禿げてしまいますよね」
「そうですね。マンドラゴラの数を揃えなければいけませんね」
「私はマンドラゴラの葉っぱがふさふさになるように、研究を進めます」
「マンドラゴラの葉っぱをふさふさにする研究!?」
「栄養剤を作ろうと思うんだ」

 アルマスはマンドラゴラのための栄養剤を作ることを考えていた。
 僕は部屋の床で蕪マンドラゴラの蕪三号と踊っている、蕪マンドラゴラのエーメルを見る。
 エーメルを年越しのときに王城に連れて行くのはもう決まっていた。

「エーメル、僕と父上のために歌ってくれる?」

 問いかけると、エーメルが踊りを止めて僕の足元に寄って来る。

「びゃい!」

 いいお返事と共にエーメルは短い腕で敬礼をしていた。

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