忘れられない君の香

秋月真鳥

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ヴォルフラム(攻め)視点

15.忘れられない君の香

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 二度目の結婚式が終わって参列客を見送るころには時刻は夜更けになっていた。
 夫夫の寝室に入って、デザインはこの上なく気に入ってはいたが、盛装なのでやはり窮屈だった結婚衣装を脱ごうとするアレクシスを、ヴォルフラムは止めた。
 結婚衣装のままアレクシスをベッドに招く。

「あの、汚れます」
「汚れても構わないでしょう? この衣装はおれたちのものだし、次に結婚式をやる予定はないし」

 言いながらアレクシスをベッドに押し倒し、唇を重ねると、アレクシスの紫色の目がとろりと蕩けてくる。

「ヴォルフラム、ヒートではないのですが……ヒートを起こしますか?」
「ヒートではない状態のあなたも抱いていたけれど、嫌だったのか?」
「嫌じゃないです。でも、ヒートのときの方が抱きやすいかと思って」

 そのためにヒート促進剤を用意したと言われて、ヴォルフラムはアレクシスが可愛すぎて片手で顔を覆って天井を仰ぎ見た。

「ヒートじゃないアレクも素敵だ」
「本当ですか?」

 問いかけるアレクシスに、答えの代わりにヴォルフラムはアレクシスのスラックスと下着を降ろして、まだ萎えている中心に手を這わせた。根元を握って擦り上げ、先端を舌で舐めると、アレクシスが腰を引こうとする。

「ダメです! 汚い!」
「アレクに汚いところなんてどこもない。フェロモンの香りが強くなって、いい匂いだ」

 口腔の奥まで招いて、喉で絞めるとアレクシスが甘い声を上げる。

「あっ! あっ! だめっ! ヴォルフラム! でるっ!」

 逃げようとする腰を留めるために丸い双丘を掴んでぐにぐにと揉むと、口の中のアレクシスの中心が硬度を上げる。強く吸い上げると我慢できなかったようで、アレクシスは高い声を上げてヴォルフラムの口の中で果てた。
 吐き出される白濁は番のオメガのものなので、フェロモンを含んでいて甘く美味しく感じられる。尿道の中に残った分まで吸い上げて飲み込むと、アレクシスが目を伏せた。

「わ、わたしもします」
「嬉しいけど、違うことをしてほしいかな」
「なんですか?」
「自分で解して乗ってくれる?」

 前回のヒートで乗って腰を振ってくれたアレクシスがあまりにも絶景で、もう一度やってほしいと言えば、アレクシスは恥じらいながらも頷いてくれる。
 脚を開いて、後孔に自分で指を這わせて拓いていく様子は、あまりにもそそられる。手を出したい気持ちになったが、アレクシスが自分でしているのを見たかったので、ヴォルフラムは必死に我慢した。
 指を三本抜き差しできるようになったアレクシスが小さく呟く。

「ヴォルフラムのはもっと太いから……」

 おずおずと四本目の指を後孔に差し込む様に、襲い掛かりたくなるくらい興奮してしまう。必死に堪えながら待っていると、アレクシスがオメガの愛液に濡れた指を引き抜いて、ヴォルフラムの腰に跨ってきた。
 スラックスの前を寛げ、アレクシスの痴態で兆している中心を扱くように手で確かめて、ゆっくりとアレクシスは自身の後孔にヴォルフラムの中心の先端を宛がう。
 腰を落としていく、アレクシスだが、先端の太い部分が弱みを擦り上げた瞬間、びくびくと体を震わせる。

「くっ! あぁっ! ヴォルフラムっ!」

 それ以上腰を落とせなくなったのか、ヴォルフラムに縋り付いてくるアレクシスに、ヴォルフラムは囁く。

「手伝おうか?」

 問いかけにこくこくと頷いたアレクシスの腰を掴んで、ゆっくりと下に降ろしていく。力が抜けてヴォルフラムを潰さないように、アレクシスは必死に足を踏ん張っているようだ。
 上半身は結婚衣装を着たままだが、胸をヴォルフラムに押し付けるようにしてくるアレクシスに、ヴォルフラムはジャケットの前を開けて、ベストをずらし、アレクシスのシャツの上から胸に噛み付く。

「ひぁっ!?」

 乳首を狙って吸い付くと、アレクシスの中が締まってヴォルフラムを追い上げる。
 我慢ができなくなったヴォルフラムはアレクシスの腰を持って思い切り下から突き上げていた。

「あぁぁぁっ!?」

 崩れそうになるのを必死に堪えるアレクシスに構わず、何度も下から突き上げると、アレクシスが必死にヴォルフラムに抱き着いて縋ってくる。
 引き寄せて唇を塞ぐと、嬌声を飲み込みながら、ヴォルフラムはアレクシスの中を何度も突き上げた。

 二人とも体力があるので、アレクシスとヴォルフラムの行為はなかなか終わらない。
 服越しではもどかしくなったので、二人とも全裸になって抱き合い、前から、後ろから、何度も体を繋げあった。
 色んな体液でどろどろになった体を清めるために入ったバスルームでも、アレクシスの体を撫で、口付けていると、我慢ができなくなって、狭い中で一戦交えてしまった。

 合計で何回抱き合ったか分からない。
 バスルームから出て来るとベッドは整えられていて、空になっていたベッドサイドのテーブルの上の水差しも新しく水が注いであった。
 ヴォルフラムが口に水を含んで、アレクシスに口付けて水を飲ませると、アレクシスも同じことをヴォルフラムに返してくれる。

 愛し愛されているのだと実感する二度目の初夜だった。

 抱き合った熱を治めるようにアレクシスの胸に顔を埋めて休んでいると、アレクシスがヴォルフラムの長い金髪を指で梳きながら呟いた。

「新婚旅行に行きませんか?」
「行きたいな」
「二人で馬に乗って、初めて出会った湖の畔まで。あそこの別荘は手放しましたが、湖には行けますので、近くで宿を取りましょう」

 借金で初めて出会ったときにアレクシスが泊まっていた別荘は手放したとアレクシスは言っているが、ヴォルフラムには心当たりがあった。

「その別荘を買ったのは、おれの父だ」
「ハインケス子爵が?」
「売りに出ているのを知って、おれが買ってほしいとお願いした」

 その近くにハインケス子爵家の別荘もあったのだが、子どもが三人生まれて手狭だったし、兄が結婚すればその子どもも増えるので広い別荘が欲しいと言っていた父に、ヴォルフラムがバルテル侯爵家の持ち物だった別荘を買ってほしいと願ったのだ。

「頼めば別荘は貸してもらえると思う」
「それはありがたいです。余裕が出てきたとはいえ、別荘を建てる費用まではまだ捻出できませんからね」

 今はバルテル侯爵家も余裕がないが、近いうちには別荘を建てる費用は出せるようになる。そのときにはヴォルフラムはアレクシスと初めて出会った湖の畔に別荘を建てたいと思った。

「新婚旅行が楽しみだ」
「一緒に歩いた林を、手を繋いで歩いてくれますか?」
「おれがお願いしたいくらいだ」

 あのときにはヴォルフラムは少女の姿をしていたし、アレクシスは自分の第二の性を知らなかった。
 十二年経って、また二人であの林を一緒に歩けるようになる未来を、ヴォルフラムは掴み取った。

「アレク、愛してる」
「ヴォルフラム、愛しています」

 口付けを交わしたアレクシスが、今度はヴォルフラムの胸に顔を埋めたのに、ヴォルフラムは抵抗しなかった。アレクシスほど豊かではないが、そこそこ胸筋のある胸に顔を埋めて、アレクシスがしみじみと言う。

「あなたがわたしの胸にこうしたがる気持ちが分かりました。すごくいい匂いがする」
「匂いだけじゃないんだけどな。アレクの胸はふかふかで気持ちいいんだ」
「あなたの胸は、ちょっと硬いです」

 真剣に胸に触ってみるアレクシスに、ヴォルフラムはくすぐったくて笑ってしまった。ヴォルフラムが笑うと、アレクシスも小さく微笑んでいた。

 結婚式の翌日、アレクシスは青毛の馬に乗って、ヴォルフラムは葦毛の馬に乗って、今はハインケス子爵家の別荘になっている場所まで行った。
 馬を厩舎に預けると、別荘から二人で手を繋いで歩く。
 林の中に足を踏み入れると、アレクシスがヴォルフラムの手を引いた。

「ヴィー、あなたはわたしとの約束を守ってくれた。愛しています」
「アレク、ずっとあなたを追いかけていた。あなたがおれのものになってくれて幸せだ。愛してる」

 護衛を少し遠ざけてヴォルフラムは林の中でアレクシスの体を抱き締めた。アレクシスもヴォルフラムの背中に腕を回してくれて、ヴォルフラムの方がアレクシスの体にすっぽり包まれるような形になってしまった。

 出会ってから十二年。
 忘れられない香りを追って来た初恋は、こうして実ったのだった。
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