抱きたい美女に抱かれる現実

秋月真鳥

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第三部 七海とのぶくん (七海編)

3.背徳の自慰  (信久視点)

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 七海たちが日本に帰ってからも、夏休みはまだ少し残っていた。うなじを噛まれてからずっと火照る体に異変は感じていたが、発情期だと気付いたのは、製菓学校の寮に戻ってからのこと。うなじを噛んでもらっているし、抑制剤も使っているので、フェロモンが漏れることはない。だが、発情状態で頭はぼーっとするし、身体は熱いしで、体調は明らかにおかしかったので、部屋に閉じこもっていた。
 早めに寮に戻って来た先輩と共同のキッチンで一緒になったときには、警戒したが、発情期のフェロモンには気付いていないようだった。

「ノブが抱いてくれないから、ひと夏の思い出で、オメガも交えて、女性アルファとシてきたんだけど、最高だったよ」
「さ、三人で!?」
「ヤマトナデシコのノブはそういう反応をすると思ってた。人生短いんだもの、楽しまなきゃ」

 ノブもどう?
 手招きして誘われて、感じたのは嫌悪感でしかなかった。調理を終えて食事を食べて部屋に戻ると、七海のことを考える。
 女性のアルファに生えるものは凄い。
 その情報がぐるぐると頭を巡る。七海の母親代わりの鷹野がお風呂に入れておさめていたが、七海の股間に生えたモノはどうだったのだろう。発情期のせいで、七海が幼いことも忘れてしまう。充分に結婚できる年の信久にとっては、体がアルファを求めるのは本能的に仕方がないことだった。
 求めるのは七海一人だけ。
 まだ9歳で、達することもできないであろう七海が、信久とどうこうなるわけがない。何より、あの細い体で信久のような屈強な男性を抱かせるのが可哀そうだ。
 運命には違いないのだから、七海と結ばれたい思いはあるが、抱かれるか抱くかになると、まだ信久には決められないところがあった。
 それを無視して体の疼きが止まらない。
 バスルームに入って、シャワーを浴びながら、後ろに触れると、そこはぬるりと濡れていた。発情期のオメガなのだから仕方がないのだが、抱かれることを期待しているようで自己嫌悪に陥る。
 指で触れていると、我慢できなくなって、信久はそこにつぷりと指を差し入れていた。華奢な小さな七海の指とは全く違う、太くごつい信久の指。
 ぐちゅぐちゅと音を立てて、大胆にかき混ぜても、熱が去らない。

「あっ……こんなの、だめ……あぁっ!」

 もっと奥まで、太いモノを飲み込みたい。
 愛らしい七海に、そんなことをさせられない。
 本能と理性がせめぎ合う中で、指だけは素直に内壁を擦る。奥まで差し込んでも一本では足りず、指を増やすと、快感が増す。
 オメガとしての性質が強いのだろう、前は反応しないのに、後ろを指二本でばらばらに掻き回すと、気持ちよくて堪らない。

「ひぁっ! だめ、なのにぃ!」

 三本目を差し込むと、流石に圧迫感を感じたが、太さはともかく、奥までは届かない。もっと奥まで、深く深く抉って欲しい。

「ひぐっ! あぁっ!」

 気持ちは良いのに、達するまでは至らなくて、信久は罪悪感と情けなさにバスルームで涙を零した。
 その後も、発情期は七海と会うと訪れるようになって、信久は自分の浅ましさにぞっとした。言葉では拒んでいるのに、身体はこんなにも七海を求めている。
 留学を終えて、日本に戻ると、七海は信久が見習いで入った実家のせい洋菓子店に毎日来てくれるようになった。中学校のセーラー服が可愛くて、小柄な七海も少し大人びたように思える。

「ななね、お胸、ぺったんなんだけど……」
「ななちゃんは、その華奢で可憐なところが良いんだよ」
「のぶくんのお胸、おっきいもんね」

 指摘されて言葉に詰まる信久の胸は、確かに大胸筋が発達して大きい。同じく屈強な鷹野は、男性のオメガだが出産後は母乳が出るようになってというので、自分の胸を押さえて、信久は一瞬、赤ん坊にお乳をあげる自分を想像してしまった。
 中学を卒業する15歳の誕生日に、信久は七海に特別なケーキを作った。
 大理石のようにつるつるにホワイトチョコレートとゼラチンと果物のソースでコーティングしたケーキは、信久の通っていた製菓学校のあった国でも人気だった。外側の美しさに対して、中は軽いスポンジとムースなので、食べやすいのも人気の秘訣だ。

「凄いの!」
「ななちゃん、これ、たべられるの?」
「ほーせきじゃないの?」
「おいち?」

 鷹野と要の子どもたちも大興奮で、切り分けられたケーキをお皿を差し出して受け取ってくれた。喜ばれ過ぎて、お代わりを要求されて、七海が怒るくらいだったのだ。

「もう! のぶくんが、ななに作ってくれたんだからね!」
「そんなに喜んでもらえるなんて、光栄だな」

 作り手としては、美味しく食べてもらうのが一番嬉しいので、七海の怒りすら信久には幸せだった。信久も鷹野も要も遠慮して、子どもたち優先で食べ終わると、何かに気付いた七海ががっくりと肩を落とす。

「せっかくの綺麗なケーキ、写真に写すのを忘れたの……」
「来年はもっと豪華なのを作ってやるよ」
「それって、ウエディングケーキ?」

 その答えは言うまでもなかった。
 16歳になればこの国の法律で、七海は保護者の許可があれば結婚できる。高校に通いながらだが、オメガとアルファの結婚ならば、届け出れば問題はなかった。

「ななちゃん、来年、俺、実家を出ようと思うから、一緒に住む場所を探さないか?」
「喜んで! のぶくん!」

 二人の交際は清く、順調に進んでいた。信久の両親も、七海の保護者の鷹野と要も、二人の仲を応援してくれている。
 それに横槍を入れる存在がやってきたのは、七海が高校一年の初夏のことだった。学校から帰ると、着替えて真っすぐに信久のところにやって来る七海が、その日はなかなか来なかった。
 おかしいと思って携帯電話に連絡をしても、返事がない。
 アルファやオメガは希少なので誘拐されやすい。特にあんな細身の七海など、捕まえてしまえば軽々と攫われてしまう。嫌な予感がしたので、休憩を貰って七海のマンションに行ってみると、部屋の中から騒ぎ声が聞こえていた。

「高校一年生ってことは、もう16歳よね。結婚できる年なんだから、私たちが決めたオメガと結婚するわよね?」
「私、16歳じゃないよ。年も、産まれた月も覚えてないんだね。あなたなんか、母親じゃない!」
「煩い! すぐに16歳になるんじゃない!」

 七海の本当の母親について、信久は鷹野から話を聞いていた。
 鷹野の母親が、番にならずに遊んでも良いことを条件に結婚したオメガで、要の父親と不倫をして要の両親を離婚させた挙句、子どもを産んで、要の父親に押し付けた。押し付けられた父親も、海外赴任で子どもを連れて行く気がなく、要に押し付けて、それを鷹野と要が二人で育てた。
 最悪の印象しかない母親が、このドアの向こうにいる。

「出て行って! 私のママはもういるもん!」
「一緒に来るのよ!」
「嫌だ! 放して!」

 暴れている気配に、ドアを開けて信久は躊躇いなく七海を抱き寄せて、母親の腕から救い出した。酷く引っ張られたのか、七海の手首には、赤く痣のようなものが残っている。

「ななちゃん、うちに来ないから、電話したけど出なくて、心配で来てみれば」
「あなた、誰?」
「相良信久、七海ちゃんの婚約者です」
「あぁ、パティシエの……アルファじゃないの。あのね、アルファの女性は妊娠出産率が低いし、アルファ同士では相性が悪いの。別れてくれる?」
「は? あなた、誰なんですか?」
「七海の母です。幾ら欲しいの?」

 嫌みのつもりで言ったのに、堂々と母親と名乗って来るところが憎たらしい。3歳のときから七海を知っている信久は、鷹野と要がどれだけ苦労して、どれだけ愛情を注いで七海を育てたかを知っている。それなのに、一度も顔を見せたことのない母親が、堂々と産んだだけで自分が母親だと言って来る。
 アルファだと勘違いされているから七海との関係を認められないのならば、信久はここで腹を決めなければいけなかった。

「俺はオメガです! ななちゃんの赤ちゃんは、俺が産む」
「のぶくん!?」
「オメガ、なの!? オメガでもダメに決まってるじゃない! 七海は私が決めた相手と結婚するのよ!」

 どんなアルファでも、オメガでも、七海を渡すことはできない。
 信久にとって七海はこの世で一番可愛い相手だったし、七海も信久を素直に愛し返してくれていた。オメガとアルファの結婚は愛のないものが多いというが、鷹野と要、信久の両親も、愛し合って結婚している。
 凛と言い返しても、屁理屈をこねようとする母親に、七海が玄関に要が防犯用に置いている木刀を握り締めた。
 震えながらも、母親の顔の横に突き立て、怯えて母親が床に座り込んだところで、床にも突き立てる。

「のぶくんは、ななが守るの! ななはアルファだもん!」

 震えるほどに、そのときの七海は立派で格好良かった。
 さすがアルファともいうべき、強いオーラに、オメガの母親が敵うわけもなく、腰を抜かして逃げていく。
 木刀を握った七海の手が震えていることに気付いて、後ろから抱き締めて、信久は指を一本一本剥がして、七海の手から木刀を外した。

「ななちゃん……こんな俺だけど……」
「嬉しい……のぶくん、かっこよかったの」

 ほろほろと零れる涙が、可憐で、信久の胸を打つ。

「場を収めるために言ったつもりはないんだ。本当は、こうするのが一番良いって分かってたんだけど、俺は、勇気がなくて」
「ううん、凄く勇気があって、かっこよかったの」
「自分がななちゃんに抱かれたら、ななちゃんは俺のこと、幻滅しないかと……」
「しないの。大好き」

 発情期ごとに七海を想って後ろに触れていたなど、知られたくはないが、確かに信久は最初から自分がオメガとして抱かれることを求めているのに気付いていた。七海の幼さと細さに、壊さないか、自分が暴走しないか、不安だっただけなのだ。
 結婚に向けて、信久の気持ちは決まっていた。
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