抱きたい美女に抱かれる現実

秋月真鳥

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第三部 七海とのぶくん (七海編)

6.思春期

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 留学している三年間、長期休みに信久が帰って来るか、七海が鷹野と要と梓と隼斗と一緒に会いに行くかで、どうにかしのいだ。信久が帰って来る年に、七海は中学に入学していた。三月生まれなので誕生日はきたばかりでまだ12歳で、身体も小さな七海は、要のお下がりの制服がどうしてもサイズが合わない。

「大きくなるから、新しく買わなくて良いの!」
「大きすぎるから、買っとこうよ。七海ちゃんの中学生活は、一生に一度だけなんだよ」
「買った制服が小さくなったら、私のお下がりを着れば良いよ」

 保護者の鷹野も要も、七海を甘やかしてくれる。鷹野のお腹には三人目の子どもがいて、これから物入りになるのは分かっていたから七海も遠慮しようと考えていたが、押し切られて、制服を買ってもらってしまった。
 新品の制服を着て中学校の校門で撮った写真を信久に送る。カリキュラムの終わる7月まで、信久は留学したままだった。

「のぶくんのお菓子が、デザイン賞をとったんだって!」

 パティシエの雑誌は定期購読しているが、信久は卒業制作で作った大作のケーキに飴細工を飾ったものが、デザイン賞をとったと書かれていて、七海はなんどもそのページを見つめる。
 写真には澄ました顔の信久とケーキが映っていて、インタビューでは、信久は「日本に大好きな子を置いてきているから、卒業したら帰って実家を継ぐつもり」「その子とは年が離れているので、結婚はもう少し後になりそう」と答えていた。

「ななのことだよ! のんちゃん、あずちゃん、はやくん、見て見て」
「ななちゃん、のぶくんのことばっかりね」
「のぶくん、すごいねー」

 猫ののんにも、梓にも、隼斗にも自慢する七海の方も、アルファの血は隠せないようで、成績優秀者として、中学で内申点がやたらと良かった。はっきりとは聞かれないが、アルファだと知られれば、高校への推薦枠ももらえるだろうし、高校でも大学への推薦枠があるはずだ。

「ななは、オメガだもん……」

 早く進学先が決まるのは楽ではあるが、七海はその道を選ぼうと思わなかった。アルファ同士の結婚もありうるが、七海がアルファだと周囲に知られれば、信久がオメガかもしれないと思われてしまう可能性がある。

「のぶくん、オメガなの、嫌なんだもん……」

 考えるたびに、しくしくと胸が痛む。オメガだということも含めて七海は信久を好きになったのに、信久は自分がオメガだということを嫌っている。
 女性として産む機能がないわけではないが、七海は自分が産む方になるという考えが全くなかった。
 どうしても意見が合わなければ、こんなにも好きなのに、婚約を解消するしかないのだろうか。
 沈み込んでしまった七海の様子を見て、梓と隼斗が鷹野の手を引いてきてくれた。

「ママ……」
「七海ちゃん、悲しい顔をしてるって梓ちゃんと隼斗くんが心配してるよ?」
「ママは、自分がオメガで嫌だった?」

 結婚する前から要のことが大好きで、要とずっと両想いだったが、要の両親が鷹野の母親の不倫のせいで別れたり、七海が実の妹だったり、年が離れていたり、オメガなのに体格が良すぎたり、要と年が離れすぎていたり……様々な理由で告白できなかった鷹野。
 赤ん坊を二人も産んで、三人目がお腹にいる鷹野は、自分がオメガであることを否定しないだろうと七海は思い込んでいた。

「すごく、嫌だったよ」
「ママも?」
「僕は、フェロモンが常に漏れるタイプで、好きじゃないアルファに絡まれることも多くて、見合いも持って来られたし、妹の艶華はアルファだから一緒に暮らせなかったし、発情期はきついし、オメガって嫌だってずっと思ってた」
「そうなの? のぶくんも、オメガなの、嫌なんだって」

 意外な鷹野の言葉に、七海は身を乗り出す。

「女性は生理があるでしょう? 要ちゃんとか、アルファで子どもは産まないって決めてるから、排卵が起こらない薬を飲んでるけど、みんながみんなそうじゃないよね。そんな風に、生理があるから女性に産まれたくなかったって思うひとがいるみたいに、発情期があるからオメガに産まれたくなかったって思うひとがいてもおかしくないと思うんだ」

 鷹野の説明は、七海の中にすとんと落ちて、納得できた。
 オメガである自分が嫌なのではなくて、発情期にきついからオメガであることが嫌なのならば、アルファの七海が発情期にずっと付いていて、その体の熱を治めることができれば、信久もオメガであることが嫌ではなくなるかもしれない。
 小柄で体の成長の遅い七海も、生理が来るようになっていたが、確かにこれは面倒で嫌だと思っている。信久と結婚が決まって、信久が産んでくれることが分かったら、要のように薬で排卵を止めることも選択肢にはあった。

「ママは、いつもななの不安を吹き飛ばしてくれる」
「それは、七海ちゃんが僕に何でも相談してくれるからだよ」

 発情期のフェロモンに当てられて生えてしまったときも、七海は素直に要に助けを求めて、鷹野におさめてもらった。そういう性的なことを口に出しにくい雰囲気が、不思議と鷹野にも要にもない。

「のぶくん、早く帰って来ないかな」

 ようやく落ち着いて七海は信久の帰りを待てるようになった。
 夏休みの直前に、信久は帰って来た。
 信久21歳、七海12歳。

「実家の洋菓子店で働くことになったから、これからは毎日でも会えるよ」
「嬉しい! のぶくんいなくて、なな、すっごくすっごく寂しかったんだからね!」

 飛び付いて抱き上げられて、七海は信久の変化に気付いた。
 鷹野も日本人離れした体格をしているが、信久も前に会ったときよりも背が高くなって、筋肉が付いている気がする。

「のぶくん、おっきくなった?」
「メレンゲも、生クリームも、機械では微妙な泡立て具合がでなくて、全部手でやってたら、めちゃくちゃ筋肉ついた」
「かっこいい……」
「俺が大きくても、嫌じゃないのか? ななちゃんは……その、俺のこと……」
「ななね、ママみたいなひとが、理想なの!」
「あー……」

 納得されて七海は信久の家に学校帰りに通うようになった。
 お店を覗くと、信久が母屋の方に入れてくれて、ケーキとお茶をご馳走してくれる。海外で賞をとった、留学帰りのパティシエの店ということで、信久の実家の高級洋菓子店は、ますます有名になっていた。

「中に入ってる赤いソースが、甘酸っぱくて美味しいの」
「フランボワーズのソースとピスタチオは相性抜群だからな」
「なな、太っちゃう!」
「ちょっとくらい太った方が良いよ」

 そう言われるくらい、七海はほっそりとして小柄だった。身長はようやく150センチに届きそうになっていたが、160センチにまでなれるかは分からない。姉の要も160センチにギリギリ届くか届かないかの身長なので、七海は自分はあまり大きくなれないのだと自覚していた。
 大柄ではない要でも、190センチ前後の鷹野をお嫁さんにできるのだから、七海だって185センチを超える信久をお嫁さんにできるはずだ。具体的に生えた場所をどうすればいいのか、七海は分かっていなかったが、その辺はその場になってみれば分かると信じていた。

「梓ちゃんと隼斗くんにお土産」
「蜂蜜ボーロ! 懐かしいの!」
「ななちゃんの分もいる?」
「いいの?」

 雑誌に載るような有名洋菓子店のパティシエになっても、大好物の蜂蜜ボーロのことを信久は忘れていない。思い出の蜂蜜ボーロを、信久は店の商品に加えたようだった。
 「大事な子との思い出のお菓子」と雑誌でインタビューに答えている雑誌を抱いて、梓と隼斗にお土産を持って帰って、七海も貰った分を一緒に食べる。

「ほろっとお口の中で蕩けるの!」
「おいしい!」
「おいしー!」

 有名パティシエの作った蜂蜜ボーロは、信じられないくらい美味しくて、それが店の目玉商品になるのは間違いなかった。
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