抱きたい美女に抱かれる現実

秋月真鳥

文字の大きさ
上 下
36 / 45
第三部 七海とのぶくん (七海編)

3.のぶくんの発情期

しおりを挟む
 運動会の日は快晴で、毎日梓の乗ったベビーカーを押して、隼斗を抱っこ紐で括り付けて小学校まで送ってくれる鷹野に、七海は見送りは要で良いと告げた。

「隼斗くん、いっぱいお日様浴びたらいけないし、ママも疲れちゃうの。かなちゃんに送ってもらって、のぶくんが応援にくるから、平気なのよ」
「ごめんね、七海ちゃん。行ってらっしゃいのぎゅーをしよっか」
「うん、行ってきます」

 抱き締めてもらって、パワーをもらった七海は運動会の会場になる小学校の校庭に出かけて行った。アルファやオメガの子どもは誘拐されやすいので、親が学校の送り迎えをすることが多い。鷹野も七海を心配して、絶対に一人では行動させなかった。
 校庭は既にひとでごった返して、要が七海の応援をする場所もない。空いている場所という場所に、テントや日除けの組み立て式の屋根、レジャーシートが敷いてあって足の踏み場もなかった。
 この状態を抜けて、担任に七海を渡すのは困難だったので、七海の助言通り、鷹野は来なくて正解だったかもしれない。保護者として大学も休みなので出て来た要の方は、七海の活躍する写真や動画を撮るという任務があったが、それもなかなか難しそうだ。

「要さん、こちら、どうぞ」
「あ、のぶくん、おはよう! 今日はななちゃんにお弁当作ってくれてるって?」
「要さんの座る場所も確保してますよ」
「ありがとうございます」

 アウトドア用の屋根付きの組み立て式の日除けの下には、信久の両親と信久と妹と七海と要が充分に座れるスペースが準備されていた。

久恵ひさえの分は私たちに作らせるのに、七海ちゃんのは絶対自分が作るんだって言って聞かなくて」
「要さんの分もありますよ」

 順調に好青年に育っている信久は、妹や両親の分は作らなくても、七海と要のお弁当は作ってきてくれたようだ。この辺りは思春期なのだろう。両親と妹の分まで作るのは、手間は同じでも恥ずかしかったのかもしれない。

「ママ……じゃない、かなちゃん、久恵ちゃんと同じチームなんだよ!」
「鷹野さんの分も応援してるね!」
「はーい! 頑張ってきます!」

 可愛いお手手を上げて返事をした七海は、全学年リレーの三年生の選手に選ばれているし、ダンスの振り付けもしっかり覚えて、格好良くポーズを決めていた。

「久恵もバース性の検査をしたけど、オメガで、信久もオメガだから、跡継ぎがいないかと思ったら、信久、頑張ってくれて、賞をとったんですよ」
「ななちゃんから聞きました。自慢の息子さんですね」
「ななね、大学で経営学を学んで、のぶくんのお店を繁盛させるの!」
「それは心強いわ」

 もう家族のような雰囲気でお弁当を広げた七海は、蓋を開けてお目目を輝かせる。卵焼きに、唐揚げに、ブロッコリーのおかか和え、丸いおにぎりは鮭フレークが混ぜ込んであって、ジャガイモの一口グラタンまである。

「ななの好きなのばっかり! どうして知ってるの?」
「俺がななちゃんを大好きだからかな?」
「わぁい! ななも、のぶくん、だぁいすき!」

 お箸でもりもりと食べ始めた七海は、リレーで一番をとった時よりも喜んでいて、要は思わずその様子を動画に撮っていた。午後の競技は少なめで、高学年の出番が多い。
 6年生の人間アートを見て、組体操のように人間が重なることなく、タイミングをずらしてポーズをとることで魅せる競技に、七海は夢中だった。

「6年生になったら、ななも、あれがやりたい!」
「やれるといいな」

 一緒に見ていた信久が微笑んで声をかけてくれるのに、七海は何度も頷いた。
 閉会式の後で、信久たちの片づけを手伝っていると、気分が悪くなったようで、信久が少し離れた場所で休んでいた。心配した七海が駆け寄ると、甘い香りがする。

「のぶくん、お熱?」
「ちょっと熱っぽいかな」
「もしかして、ひーと?」
「え?」

 5歳のときに七海が噛んでしまったせいで、信久の発情期のフェロモンは、他人に漏れないようになっている。その代わり、七海には確り香るようで、七海は足の間がむずむずとしてきた。
 そこにないはずの器官が生える感覚がする。

「かなちゃーん! なんかへぇん!」
「ななちゃん、俺から離れて」
「かなちゃん! 助けてぇ!」

 離れてと言われても、甘い香りが信久から漂ってきて誘って来る。足の間をもじもじとすり合わせていると、異変に気付いた要が、七海の小柄な体を抱き上げて信久から引き離してくれた。

「ごめんなさい、今日はありがとうございました! 失礼します!」
「こちらこそ、信久がごめんね」

 ご両親にご挨拶をして速やかに七海を家に連れて帰った要だが、既に七海の中心はしっかりと股間に生えていた。スカートを覗かれて確認されて、七海がしくしくと泣き出す。

「いけないの? なながいけないの?」
「どうしたの、要ちゃん?」
「のぶくん、発情期だったみたいで、ななちゃん、当てられちゃって」

 帰りを待っていた鷹野に説明すると、鷹野は梓と隼斗を要に預けて、七海をバスルームに連れて行った。
 何が起きているのか分からないままで、バスルームで脱がされた七海は、頭からぬるめのお湯をかけられて、髪を洗われて、身体も綺麗に洗われる。運動会で浴びた砂埃を流して、スッキリして、ぬるめの湯船に浸かる頃には、気持ちも落ち着いていて、股間の生えたモノもなくなっていた。

「ママ、どうして、こうしたら治るって分かったの?」
「僕は生えないし、反応しないから分からないけど、七海ちゃん混乱してたみたいだから、落ち着けば治るかなって思ったんだ」
「ありがと、ママ」

 まだ精通も来ていないので、達して治めることはできない七海を、日常に戻すことで対処した鷹野に、七海は深く感謝した。

「のぶくん、とってもいい匂いがしたの」
「うん、でも、七海ちゃんはのぶくんの嫌なことはしないよね?」
「しないよ。のぶくん、ななのお弁当に好きなものいっぱい入れてくれたの。のぶくんがお嫁さんになるまで、なな、我慢する」

 信久をお嫁さんにしたい七海と、七海をお嫁さんにしたい信久。
 若干すれ違っている気はするが、年の差を乗り越えてお互いに好きと言い合える関係だというのが、鷹野にとっても、要にとっても、一番大事なことだった。
 アルファとオメガは、その優秀さや優秀な子どもを産むためだけに、望まない相手と結婚させられやすい。鷹野も要と結婚する前には、随分と嫌な目に遭ったようだった。

「のぶくんは、ななが守りたいの」
「ななちゃん、のぶくんは自分のこと、アルファだと見せたいのは、オメガにとって差別はなくなったと言っても、格差が厳しいからだと思うんだ」

 「パティシエ王子」などというきらきらしい名前で呼ばれて、アルファだと勘違いされている信久は、オメガだと判明すれば、賞の取り消しはないが、アルファばかりの世界で生きにくくはなるだろう。

「それなら、なながオメガだと思われてていい」

 発情期の明ける一週間は時間を空けて、七海は信久のお見舞いに行った。体調を崩しているという理由で高校を休んでいた信久は家にいて、七海が来ると喜んで迎えてくれた。

「もう、大丈夫? のぶくん」
「俺のはあまり酷くないから平気だよ。用心のために休んでるだけで」
「ママはオメガでしょう? いっぱい襲われたんだって、かなちゃん言ってた。のぶくんにそんなことがないように、のぶくんは、ななに、内緒の約束したんだよね。なな、オメガと思われてていい。のぶくんが無事なら、なながオメガで、のぶくんがアルファってことにしよ?」
「ななちゃん、良いのか?」

 信久はアルファで、年下のオメガの婚約者がいる。親が決めた婚約者だが、可愛くて好きで、育つのを待っている。
 「パティシエ王子」信久には、そんな美談が付くようになるのは、この後のこと。
 七海は定期的に信久のうなじを噛んで、フェロモンが漏れ出ないようにしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小野寺社長のお気に入り

茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。 悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。 ☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...