抱きたい美女に抱かれる現実

秋月真鳥

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第一部 後天性オメガは美女に抱かれる (雪峻編)

4.嫉妬だってする (艶華視点)

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 恋人に、他の相手が現れたら別れる。
 それが今までの艶華のスタンスだった。
 一緒に暮らし始めてから、雪峻は自分の分と一緒に、お昼は艶華にお弁当を作ってくれるようになった。ギャラリーに行くときにもお弁当を持って行っていたし、仕事で籠っている間も家でお弁当を食べる。雪峻と同じものを食べていると考えると、食事などどうでも良かったのに、そのお弁当は艶華の大事なものになっていた。
 お昼前にお弁当を確かめに冷蔵庫を開けたら、雪峻のお弁当箱が艶華のものと並んで入っていた。間違えて冷蔵庫に入れてしまって、忘れて行ったのだろう。
 電子レンジで温めたのは良いが、それが冷める前に雪峻の元へ届けなければいけない。
 タクシーに乗り込んだ艶華は、雪峻の大学まで連れて行ってくれるようにお願いしていた。大事に両手で持ったお弁当箱。他に持っているのはお財布くらいだが、それも全く気にならない。急いで雪峻にお弁当を届けなければいけないということだけを考えていた。

「高嶺雪峻っていう子が、どこにいるか分からない?」

 手当たり次第に聞いていくと、同級生らしき男の子が顔を真っ赤にして艶華を見て動作を止めて、雪峻のいる食堂まで連れて行ってくれた。そこで、雪峻は見知らぬ女の子と一緒に、教授から説教をされていた。

「いちゃいちゃするのなら、学校の外でして欲しいね。未成年だろ、そもそも」

 発情期が近いのに、隣りにいるのは明らかなアルファで、艶華は混乱してしまう。同棲生活は順調に行っていたし、次の発情期で雪峻は艶華のことを求めてくるはずだ。信じ込んでいただけに、自分が雪峻が剣道部だったことも知らなかったという事実に打ちのめされた。

「艶華さんは興味ないかと思ってた」
「雪峻くんのことは、なんでも興味あるよ」

 しかも、雪峻に自分のことは興味ないと思われている。
 こんなに好きなのに通じていない。
 ショックと嫉妬で、艶華の胸の内は燃えていた。雪峻の幼馴染という女の子が何か言って立ち去るのも、耳に入らない。

「雪峻くん、気を付けて。匂い出してる」
「え?」

 どうにかして雪峻にこの気持ちを思い知らせてやらなければいけない。
 仕事もあったので部屋に戻った艶華は、色鉛筆画に集中できずにいた。食べるのを忘れるくらいに集中して描く絵に、集中できないなんて初めてだ。雪峻の存在がどれだけ自分の中で大きいかを思い知る。
 帰って来た雪峻は、甘ったるいフェロモンを漂わせて、艶華を誘っていた。

「つやかぁ……」

 ソファの隣りに座って、肩に頬を摺り寄せる雪峻に、嫉妬で艶華は冷たく言い放つ。

「抑制剤、飲んだら?」

 これだけ発情期で熟れ切った体が、アルファを前にして我慢などできないことは分かっているが、わざと意地悪をすれば、雪峻が艶華の膝の上に倒れて来る。フェロモンに反応して生えた中心に気付いたのか、雪峻は大胆にも艶華のロングシャツを捲って、狭い布地の下着からはみ出そうになっているそこに頬ずりをした。

「はしたないことして」
「でも、これ、ほしいぃ」
「お口でしてもらおうかな」

 仕事のときにかけている眼鏡を外して、ぶるんと下着からそれを取り出すと、一瞬雪峻が怯んだのが分かる。それでも発情期には抗えなかったのか、尖らせた舌を伸ばして、先端から舐め始めた。
 最初はおずおずと、徐々に大胆の口に含む雪峻。大きなものが喉を突いたのか、咳き込んだ雪峻の尻を、手を伸ばした艶華はぐにぐにと遠慮なく揉みしだいた。
 パンツと下着を脱がすのに、腰を上げて協力しているのは無意識なのだろうか。

「乗られてると避妊具ゴム取りに行けないんだけど、仕方ないよね?」
「え!? あ……だ、だめぇ」
「中で出されるの、だぁいすきでしょ?」

 膝の上に乗り上げられている体勢では動けないと口にしたものの、細身の雪峻くらいならば、力のあるアルファ女性の艶華は抱え上げられなくもない。それでも意地悪をしたくて言えば、雪峻は躊躇う。
 それもそのはず、発情期には男性でもオメガは妊娠する確率が高いのだ。
 濡れた後孔に切っ先を宛がって、入口を浅く掠めて、中まで入れずに双丘の間を擦っていると、我慢できなくなった雪峻が泣き声を上げる。

「いれてぇ!」
「でも、避妊具……」
「あ、だめ……」
「じゃあ、このままにしよっか」

 まだ理性の欠片の残る雪峻の双丘の間に中心を挟んで、艶華は擦り上げる。中には到達しないが、後孔の入口を掠める動作に雪峻が堕ちるのは早かった。

「もう、いれてぇ! おねがい!」
「いいのね?」
「いいっ! ひぁぁっ!」

 腰を掴んで一気に突き上げると、雪峻の中がきつく絡んでくる。引き絞られるような刺激に耐えながら、追い上げていくと、中で何度も雪峻が接長子ているのが分かった。
 艶華も中で達すると、雪峻の力が抜けてソファから落ちそうになる。
 慌てて支えて、艶華は雪峻をベッドまで運んだ。
 しばらくぼんやりとしていた雪峻だが、少しすると意識が戻ってきたようだった。

「ごめんなさい……嫉妬、したの」
「え? 何が、ごめんなさい?」
「私の方が年上だし、雪峻くんのこと知らなかったし……」
「なんのこと?」

 あの女の子、名前は何だっただろう。どこかで聞いたことがあるような気もするのだが。

「要ちゃんって子にも、雪峻くん、抱かれたのかなと思って」
「ない! 絶対ない! あいつとかない!」
「雪峻くんのフェロモン、いい匂いだから、アルファが近付いてこないように、牽制してたの」

 この発情期を要と過ごすと言われたら、艶華は耐えられなかった。
 雪峻の答えは明瞭で、要とはそういう関係でないと教えてくれる。ようやく安堵してから、艶華は雪峻を抱き締めた。

「二股かけられた挙句、その相手と連絡取れなくなっちゃったことがあって、心配だったの」
「二股とか、あの馬鹿相手にないよ」
「あのね、雪峻くん。赤ちゃん、できてたら、責任取るから、産んでください」
「あ、赤ちゃん!? お、俺が!? そんな馬鹿な……」

 前回の発情期でオメガだと発覚したばかりの雪峻は、赤ん坊を産むなど考えたこともないようだった。結婚するつもりなのだから、艶華は雪峻に赤ん坊ができていれば当然産んで欲しいし、一緒に育てたいと考えていた。

「赤ちゃんだよ? 私と雪峻くんの」
「赤ちゃん……」

 結婚しようと告げたつもりで、全く口に出ていない艶華と、赤ちゃんという言葉にショックを受けているのかあまり話を聞いていなさそうな雪峻。

「できてるか、分からないし……避妊具、つけて」
「つけるけど、もうできてるかもしれないでしょ?」
「考えたくない……」

 その後からは避妊具を付けて交わったが、雪峻に赤ん坊ができていないという確証はなかった。
 雪峻が眠ってしまってから、艶華は鷹野に連絡を入れていた。

「あのね、鷹野ちゃん、私、付き合ってるひとがいて、結婚しようと思ってるの」
『突然、なにを!?』
「私のこと大事にしてくれて、お部屋も片付けてくれて、赤ちゃんができたかもしれないの」
『赤ちゃん!? ちょっと、艶華、どういうこと?』

 根掘り葉掘り聞かれて、艶華は大人しく答えていく。

「年は18歳、男の子のオメガなんだけど、鷹野ちゃんと似た匂いがして、すごく可愛いの。大好きで結婚するつもりでいるんだけど……」
『待って、18歳って、未成年でしょう? ご両親にはご挨拶したの?』
「してない……」
『未成年とは、両親の承諾がないと結婚できないよ? 本人には話したの?』
「伝わってると思うんだけどなぁ」
『艶華の伝わってるは、絶対伝わってない!』

 近々訪ねて来るという鷹野に、艶華はそのことを雪峻に伝えるのをすっかりと忘れていたのだった。
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