抱きたい美女に抱かれる現実

秋月真鳥

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第一部 後天性オメガは美女に抱かれる (雪峻編)

10.運命の番

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 出て行っていた間に汚れた艶華の部屋を、雪峻は掃除するところから始めた。焦げた鍋やフライパン、炭になった食材が積み重なったシンクは片付けるのが大変だったが、艶華も深く反省して一緒に片付けた。金タワシでごしごしを鍋の焦げ付きを剥がすのは艶華には無理だったが、洗い終えたものを拭いて棚に片付けるくらいはできた。

「これからは雪峻くんに任せっぱなしにしないで、少しでもやるからね」
「いいよ、あんた、好きなことやってる方が似合ってる」

 こういう煩雑なことをする時間で、艶華の仕事時間がなくなってはいけない。カーペットを吸いこんだ掃除機も、引っ張り出して中身を掃除して、また使いだすと艶華に尊敬のまなざしを向けられる。
 全部片付けが終わると、鷹野に連絡をした。しばらくすると、鷹野がゲージを持ってやってくる。
 中には茶色のもこもこのトイプードルの子犬が入っていた。

「虹華ちゃん!」
「寝室には入らないように柵を付けた方がいい。それと、これは自動給餌機」

 時間になれば餌が出て来るタワー型の自動給餌機と、寝室のための柵、それにお徳用のペットシートも添えて渡された虹華。夜には大きめのゲージで寝ているということで、鷹野がゲージを組み立ててくれている間に、雪峻が寝室の入口に柵をつけ、艶華が虹華の面倒を見ていた。
 夜に眠るゲージの中には、自動で水の出る装置も設置されている。

「高嶺くん、艶華のことも、虹華のことも世話しなきゃいけなくて、大変になると思うけど、困ったらすぐに連絡して」
「ありがとうございます」
「鷹野ちゃん、私を子どもみたいに言わないでよ」
「高嶺くんと別れたら、即、虹華は連れ戻しにくるからね?」

 兄には弱いようでぷっくりと頬を膨らませた艶華を他所に、雪峻は鷹野と連絡先を交換した。
 未成年と艶華が付き合いだしたと聞いて、心配していたようだが、雪峻ならば安心だと思ってくれたらしい。

「虹華ちゃんの面倒もちゃんと見ます」
「本当に、よろしくね」

 深々と頭を下げて、鷹野は帰って行った。
 今日は来たばかりなので、部屋を嗅ぎ回っている虹華が落ち着くまではそっとしておくことにして、明日からは散歩も考えなければいけない。

「兼業主夫って大変じゃない?」
「しゅ、主夫!?」
「雪峻くん、家事もして、学生さんで、虹華ちゃんの面倒もみなきゃいけない……私、虹華ちゃんのお散歩くらい行けるようにする!」

 餌は自動給餌機、水も自動給水機にときどき足して掃除をすればいいだけなので、負担が軽くなるようには鷹野は考えてくれている。リードを握り締めて決心する艶華に、雪峻は「まぁ、ぼちぼち」と無理はさせないつもりだった。

「結婚、してくれないの?」
「まだ早いし、考えてる」
「ご両親にご挨拶に行かせてください」

 何度目かのプロポーズを誤魔化していると、肩を抱かれて、口付けられる。雪峻はそれなりに身長はあるが、鷹野のように巨体ではない。鷹野の妹なのだから、艶華も雪峻よりは低かったが、女性にしては身長が高い。
 豊かな体付きで背も高い艶華に見惚れていると、バスルームに引っ張られる。部屋では虹華が色んな所を嗅ぎまわって探検中なので、いちゃつくのも憚られたのだろう。
 脱衣所で服を脱がされて、雪峻は完全に期待している自分に気付く。艶華も服を脱いで、二人でバスルームに入った。
 シャワーのコックを捻って熱いお湯を浴びて、艶華がボディソープを泡立てる。それを胸を含めた体の前面に塗って、雪峻の身体にすり寄って来た。
 柔らかな胸と体を擦り合わせて洗われるのに、胸が擦れて、甘い声が出てしまう。

「あっ! つやかっ!」

 ずりずりと豊かな胸を擦り付けられて洗われている、男性としては物凄いそそる状態なのに、胸の尖りが刺激されるたびに妙な声が出て、後ろの方が反応してしまう。
 艶華のボディソープを纏った手が、雪峻の尻に回った。ふにふにと尻を揉まれて、双丘を割られて、指先でボディソープを塗りたくられるのに、雪峻は腰をくねらせて感じてしまう。
 シャワーで泡を落として、後孔にノズルを押し当てられると悲鳴が出た。

「いやぁ!? つやかのが、つやかのがいいっ!」
「雪峻くんは可愛いんだから」

 悪戯っぽく笑った艶華が、雪峻の脚を抱える。身長差は約5センチで、雪峻は痩せているし、艶華はアルファ女性で力が強い。それでも、持ち上げられるとは思わずに、雪峻は不安定な体勢に耐えられず、必死に艶華にしがみ付いていた。
 股間に生えた立派なものが、後孔に押し当てられる。
 突き上げるようにして一気に貫かれて、雪峻は声もなく仰け反っていた。擦り上げられた内壁が、それだけで絶頂して蠢いている。

「雪峻くんの中、きつくて、熱い……」
「あっ! あぁぅっ!」

 がくがくと揺さぶられるたびに結合が深くなって、雪峻の瞼の裏がちかちかと白く明滅する。達し続ける雪峻の中に、艶華は熱い飛沫を注いで、その大量の精に、雪峻はまた達していた。
 風呂で抱き合うと、当然のように逆上せる。
 パジャマに着替えて水分補給をする二人は、ソファに倒れ込むようにして座っていた。

「お風呂は危険ね」
「柵つけたんだし、ベッドで」
「二回戦はベッドでね」

 まだまだ二人の夜は続きそうだった。
 その年の終わりの美術展で、艶華の作品は賞をとった。
 それまで艶華の作品の良さが写真とどう違うのか分からなかった雪峻だが、その作品だけは全く違うものだと分かった。
 何故なら、それは雪峻と虹華を描いたものだったのだ。
 寄り添う色素の薄い青年と未成熟なトイプードル。明るい色合いで描かれた鉛筆画に雪峻は見惚れる。

「写真より、あったかく感じられる……」
「でしょう?」

 得意顔の艶華は、やっと分かってもらえたと、嬉しそうだった。

「小さい頃から、地球上に存在する全てのものが、神様がデザインしたような完璧な造形をしてるって感じてたの。その世界を、私は切り取りたかった」

 艶華の感覚の中では、雪峻と虹華はこう見えている。
 戻って来た作品をじっくりと見ていると、写真にはない暖かみがあることだけは、雪峻にも分かった。

「それを雪峻くんのご両親にプレゼントしたらダメ?」

 ずっとご挨拶に伺う日にちを狙っている艶華に、そこまでされてしまうと、雪峻も断りにくくなる。
 ベータの両親には、雪峻がオメガになったことも、艶華というアルファと付き合っていることも伝えていないが、正式に艶華のマンションで暮らすようになれば、自分のアパートを引き払うのでその手続きもしなければいけなかった。それには両親の許可がどうしても必要だ。

「今度の日曜日、行ってみるか?」
「いいの?」
「本当にうちの親は普通の平凡なベータだからな?」

 自分が後天性のオメガになったこと、艶華というアルファと結婚することを報告すれば、驚かれるに違いない。
 艶華の両親とは縁は切れているらしいが、鷹野に報告くらいしなければいけないだろう。

「雪峻くんは、私の運命の番なの」
「え? 何を急に」
「鷹野ちゃんと私は別々に暮らしてるでしょ? それは、鷹野ちゃんがオメガで、私がアルファだからなんだけど、私、鷹野ちゃんのフェロモン、全然匂わなくなってたのよ」

 兄妹であろうとも、フェロモンで間違いがあってはいけないからと、小さい頃から鷹野と艶華は引き離されて暮らしていたし、鷹野のフェロモンの匂いを艶華は感じていた。それが雪峻と抱き合ってから、全然感じなくなった。
 うなじを噛めば番になれるというが、運命の番ならばそうしなくても、身体を交わしただけで番になってしまう。

「運命……」

 春先に初めての発情期で艶華に助けられてから、ずっと運命だったのならば、最初から雪峻に逃げ場などなかったのだ。
 その日、雪峻は艶華からのプロポーズを受けた。
 誕生日を迎えて、雪峻は19歳、艶華は26歳になっていた。
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