抱きたい美女に抱かれる現実

秋月真鳥

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第一部 後天性オメガは美女に抱かれる (雪峻編)

1.俺がオメガのはずがない

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 人類の八割はベータと呼ばれる平凡な人々である。優秀で眉目秀麗と言われるアルファや、男女問わず子どもを産むことができて発情期ヒートと呼ばれる期間にはアルファを誘惑することができるオメガは、それぞれ人口の一割程度で、義務教育のクラスに一人いるかいないかくらいの遠い存在だった。
 高嶺たかみね雪峻ゆきちかの両親はベータで、思春期頃に行われる検査でも、ベータと言われていて、それを疑ったことはなかった。ただ、匂いに敏感なのか、近くでオメガが突発的に発情期になると、そのフェロモンの香りを感じることはあった。
 ベータと診断されていた人間が、後天的にアルファやオメガとして覚醒する例も今までになかったわけではない。
 もしかすると自分はアルファなのかもしれない。
 白い肌に色素が薄くて、そこそこ綺麗な顔立ちもしているし、背も低いわけではない。自惚れて、自分のバース性をアルファかもしれないと偽って、ナンパに成功したこともある。
 医学部に入学したばかりの18歳。そういう欲は人一倍あった。
 何よりも、国立の医学部に現役で合格できた自分の実力に酔いしれていたのもあった。
 周囲にはアルファがそこそこいて、自分もその仲間入りをしたような気分になっていた18歳の春、友人とカラオケで徹夜で歌って帰る途中で、気分が悪くなって、雪峻は路上に座り込んでしまった。時刻はまだ早朝で、通りには人が少ない。昨夜飲みながら歌ったのもあって、体調を崩してしまったようだ。
 動けない雪峻に、頭上から声が降ってきた。

「あなた、大丈夫?」

 しっとりとした大人の女性の声。見上げると長い黒髪をシニヨンに纏めた、黒目がちの胸の大きな美女が雪峻を覗き込んでいた。豊かな胸に目がいって、顔を上げた瞬間、思わぬ強さの力で肩を貸して立たされる。

「すごく匂ってるわよ。こんなところにいたら危ない」
「匂う……?」

 吐いてもいないが、昨日風呂にも入らずにいたせいで汗臭かったのかと訝しむ雪峻だが、肩を貸す女性の体温にぞくぞくとあらぬ場所が疼いた。喉がからからで、喘ぐようにしか息ができない。
 欲しい。
 欲望が胎を疼かせる。

「いや、だ……」
「安全な場所に連れて行くだけよ」

 手近なホテルに連れ込まれて、雪峻はバスルームに籠もっていた。体が熱くて、冷たいシャワーを浴びても少しも胎の疼きが治らない。それどころか、後孔まで濡れてきている気がする。

「もしかして、抑制剤持ってないの?」
「よくせいざい……なんで、そんなもの……」

 自分はアルファ寄りのベータなのだから、そんなものがいるはずがない。
 そう信じている雪峻は、バスルームに充満している、甘い香りを認めたくなくて、濡れる中心を扱き上げるが、そっちで達しても、少しも満足感が得られない。中心を扱いて白濁を吐き出す行為も、扱きすぎてそこが痛くなるだけ。
 欲しいのはこんな刺激ではない。

「たすけて……こんなの、俺じゃない……」
「病院に連れて行ってあげたいけど、その状態で外を連れ回すのは危険すぎる」

 バスルームのガラス越しに、美女が話しかけてくるのに、雪峻の本能が反応していた。発情期のフェロモンに、ベータは気付かない。気付くとすれば、アルファかオメガだ。雪峻の異変にすぐに気付いた彼女は、アルファかオメガの可能性が高い。
 抑制剤を本人は持っていないとなると、彼女はアルファ、という答えが導き出される。
 初めての発情期に理性は飛んでいた。
 ただ、この熱を沈めて欲しかった。

「たすけて……」

 バスルームから出て、全裸で縋った雪峻に、彼女は美しい弧を描く眉を潜める。

「こんなに冷えて。ダメよ、行きずりの相手となんて……」
「苦しいんだ、頼む、助けてくれ」

 懇願する雪峻は濡れそぼって、体も冷え切っていた。バスタオルを被せられて、拭く手の優しさに、もっと激しい熱が欲しくて、体が疼く。口付けた彼女の唇は、肉厚で柔らかかった。

「後悔、するよ?」

 ベッドまで連れて行かれるのすら、焦れてしまう。直接肌の触れるシーツの冷たさに震えていると、美女の柔らかな手が雪峻の白い肌を撫でる。胸の尖りを指先が掠めると、そんな場所に触れられたこともないのに、甘い声が喉を突いて出た。

「ひぁんっ!」
「完全に、発情期で理性を失ってるね」
「ここ、ちょうだい! ほしい!」

 泣いて強請って、自ら膝裏を抱えて、広げて見せた足の間、中心はとろとろと白濁を零しながら、露わになった後孔は濡れて滑って、そこを埋めてくれるものを待っている。

「私は、艶華つやか
「つや、か?」
「そう、これから、あなたを抱くアルファよ?」

 ワンピースの後ろのチャックを下ろして、脱ぎ捨てた艶華が、ストッキングと下着も脱いでしまう。そこには、雪峻よりもよほど立派で逞しい中心がそそり立っていた。
 欲しくてたまらないものを目にして、雪峻の喉が鳴る。
 先端を宛てがわれると、期待で入口がきゅっとそこを締め付けた。押し込まれても、痛みなど感じない。ただただ、気持ち良くて、涙が溢れる。
 豊かな胸を揺らしながら、腰を打ち付けてくる艶華に、雪峻は溺れていた。

「つやかぁ! あぁっ! すごいっ! もっとぉ!」

 追い立てられて、内壁をごりごりと擦られると、気持ちよさでおかしくなりそうになる。アルファの吐精は量が多いというが、逆流するほど大量に中で放たれて、その熱さに、雪峻は中を痙攣させて達していた。
 絶頂しても発情期の体は満足することなく、艶華の中心を締め付け続ける。再び力を取り戻した中心に突き上げられて、雪峻は苦しいくらいの快感に溺れていた。
 喘いで、泣いて、抱かれた後で、治まってきた発情期が、雪峻に理性を取り戻させる。
 自分が抱かれた。
 相手はものすごく好みの美女だが、それは自分が抱くときの話であって、抱かれるなんてあり得ない。
 それなのに、浅ましく自分から強請って、脚を広げて、迎え入れた。
 気怠さの中で、ベッドの隣りに横たわっている艶華のふっくらとした色っぽい唇、黒目がちな目、白い肌、乱れた長い黒髪、豊かな胸も、引き締まった腰も、女性としては好みでしかない。理想の相手が目の前に現れた、夢のような瞬間だ。
 ただし、彼女がアルファで、雪峻がオメガ。

「嘘だろ……逆だよな……」

 ナンパをしたこともあるし、これまで付き合ったこともあるが、雪峻はまだ18歳。キスはしたことがあっても、体を交わしたことはなかった。誰かを抱く前に、抱かれる方になるなんて。

「体、キツくない?」

 その言葉を言うのも、本来ならば自分の方だったわけで、白い頬を撫でられて、雪峻は絶望感に布団に潜ってしまった。

「初めてだったみたいだし、優しくしたかったんだけど、私も理性が限界で……ごめんなさいね?」

 謝られると、ますます惨めで、雪峻は布団から顔を出せずにいた。自分から誘ったことははっきりと覚えているし、こう言う場合にはアルファに襲われたと訴えても、オメガの方が発情期の抑制をしていなかったということで、アルファが罪に問われることはない。それどころか、雪峻を助けてくれようとした艶華を、無理やりに誘って、フェロモンで誘惑したのは、雪峻の方に違いなかった。
 これが逆ならば幸福な夢なのに、現実は悪夢でしかない。

「迷惑をかけてすみませんでした……もう大丈夫です。病院にも行きますから」
「余裕がなくて、避妊具ゴムも付けなかったから、大丈夫じゃないよ。病院に一緒に行きましょう?」

 優しく気遣ってくれる艶華に、雪峻はこれ以上惨めにはなりたくなかった。

「一人にしてください……」

 最悪の初めてに落ち込む雪峻に、艶華は枕元に何か置いて、「気を付けて」と出て行ってくれた。
 もそもそと布団から出てそれを確認すると、封筒に一万円札が二枚に、「園部そのべ艶華」と書かれた名刺が添えてあった。名刺の裏には、連絡先もある。

「ヤり捨てじゃないんだ……」

 知り合いのアルファなど女性を食い散らかしているが、彼女はそうではない。残したお金も、「タクシー代とホテル代と病院代に使ってください」と封筒に走り書きがされていた。
 クリエイターで絵を描いている職業だと名刺には彼女の描いたものらしき、写実的な猫の絵が印刷されている。それを摘んで起き上がった瞬間、どろりと後孔から白濁が流れ出て、太腿を伝い、雪峻は現実を再び見せつけられたのだった。

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