Cheetah's buddy 〜警察人外課の獣たち〜

秋月真鳥

文字の大きさ
上 下
29 / 30
本編

29.結婚式

しおりを挟む
 結婚式はガーデンパーティー方式で、衣装だけ借りて自分の家の庭でやることにした。
 ルーカスとエルネストは貸衣装店に行ってタキシードを選ぶ。
 タキシードを選ぶにあたって、ルーカスとエルネストは一つ約束をしていた。

 ルーカスはエルネストの選んだものを、エルネストはルーカスの選んだものを着ること。

 ルーカスは白銀の髪のエルネストに白いタキシードを着せるか、ミッドナイトブルーのタキシードを着せるか迷っていた。
 エルネストの方は実物を見て決めるつもりのようだ。

 貸衣装店でタキシードを見せてもらって、エルネストが選んだのは真っ白なタキシードだった。ネクタイも手袋も白。

 試着室で着てみてルーカスは結婚式というものに実感がわいてくる。

「ルーカス、とてもよく似合うよ。写真を撮っていい?」
「どうぞ、エルネスト」

 エルネストに携帯電話で写真を撮ってもらいながら、ルーカスはエルネストのタキシードを選んでいた。
 ミッドナイトブルーもいいのだが、合わせた感じでは黒がよく映える。
 黒いタキシードにシャツもグレイにして、ワインレッドのタイを合わせると、エルネストが格好良すぎてルーカスは直視できないほどだった。

「エルネスト、ものすごく格好いい。みんなエルネストに惚れるんじゃないだろうか」
「そんなこと思ってるのはルーカスだけだから安心して」
「いや、やっぱり別のタキシードにするか。これは格好良すぎる」
「そんなに言ってくれるなら、僕、これを着たいんだけど」
「エルネストが格好良すぎて惚れられたら困る」
「ないから大丈夫。あったとしても、僕の気持ちは変わらないから大丈夫」

 大丈夫と二回も言われてルーカスはやっとエルネストのタキシードを決めることができた。

 タキシードを決めてから、ルーカスとエルネストは指輪を用意していなかったことに気付いた。職業柄指輪を着けていられないので、指輪の準備のことが頭から消えていたのだ。

 宝飾店に行って、シンプルな指輪を注文する。
 少し太めのプラチナで作られた平型の指輪は、つけていられない時間は首からかけられるようにチェーンも買った。
 注文がギリギリになって、結婚式に間に合わないかと思ったが、宝飾店の店員は何とか間に合わせてくれると言った。

 結婚式の当日は、ケーキの手配もオーギュストがやってくれて、大きなケーキとテーブルに並べられた料理と飲み物を手に、オーギュスト、アデライド、ボドワン、ドナシアン、クロヴィス、ウジェーヌ、クロヴィスの両親とたくさんのエルネストの親戚が来て祝ってくれた。
 ルーカス側は呼ぶひとがいないかと思ったが、ジャンルカとパーシーとアーリンは来てくれた。

「指輪の交換を」

 オーギュストに促されて、ルーカスとエルネストはお互いの指に指輪を付ける。
 誓いのキスを。
 一同がコールする中で、恥ずかしくて動けないルーカスの顎を指で掬って、エルネストがルーカスに口付けた。
 拍手が巻き起こる。

 ブーケトスはどちらが新婦というわけでもなかったので、ブーケを二つ用意してそれぞれに投げた。

「ルーカス、私にちょうだい!」

 手を挙げたアーリンの方に投げると、アーリンがキャッチした。

「次は私が結婚するからね。パーシー、そうでしょ?」
「合同結婚式でもよかったかもね」

 寄り添って言うアーリンとパーシーに、ルーカスは二人が同僚で本当に良かったと思っていた。

 エルネストの投げたブーケはボドワンがキャッチした。

「僕が次に結婚できるといいんだけどね」
「ボドワンも相手を見つけないと」
「ドナシアンもね」

 仲のいい兄弟はお互いに言い合っていた。

 その後で、エルネストがルーカスをお姫様抱っこして歩いていくと、参加者から歓声が上がった。

 結婚式は夕方まで続いた。
 庭で騒いで飲んで、食べて、最終的にはオーギュストとアデライドとボドワンとドナシアンとクロヴィスとウジェーヌとクロヴィスの両親は、後片付けまでして帰ってくれた。
 おかげでエルネストもルーカスも着替えて貸衣装を返しに行くだけで、結婚式の後始末は終わってしまった。

 長期休暇は取れないが、明日から三日間休みをもらっていて、新婚旅行で行きたいところもなかったので、ルーカスとエルネストは二人でゆっくりと過ごすことに決めていた。
 夕食は簡単に済ませて、広いバスルームで二人でシャワーを浴びてベッドに移動する。
 新婚初夜ということもあってルーカスはエルネストを抱く気でいた。

「エルネスト、いいだろう?」
「いいけど、避妊はしてよね」
「しないとダメか?」
「今は仕事も順調だし、ルーカスも若いし、子どもを持つタイミングじゃないと思ってる」

 エルネストに言われてルーカスは眉を下げる。

「俺が父親に相応しくないからか?」
「そういう意味じゃないよ。君は赤ちゃんが生まれたら絶対いい父親になる」
「そうだろうか」
「むしろ、過保護すぎる父親になるんじゃないかと思ってるよ」

 エルネストに言われてルーカスの不安も少しは和らぐ。
 それでも、避妊をしてほしいと言われたことをルーカスは気にしていた。

「エルネストとの間に赤ちゃんを望んだらダメか?」
「ダメじゃないけど……」
「俺も努力する。だから、エルネスト、俺の子どもを産んでくれないか?」

 真正面からお願いしたルーカスに、エルネストの態度も軟化した。

「人外は子どもができにくいから、できなくてもがっかりしないでね?」
「それは分かってる」
「何年も子どもができなくても、別れたりしないでね」
「俺とエルネストは生涯一緒だろう? 子どもができなくても別れたりしない。子どもができなかったら養子をもらえばいいだけの話だろう」

 今回不安だったのはルーカスだけではなかったようだ。エルネストは子どもができないかもしれないことに不安を抱いていた。
 お互いに不安を言い合うことができて、ルーカスとエルネストは納得して初夜に臨むことができた。

 ルーカスはエルネストの左手の薬指、指輪の上にキスをした。

 人外同士は生殖能力が低く、子どもができにくい。
 ルーカスとエルネストの間にも、簡単には子どもはできなかった。
 それでもルーカスはエルネストと一緒にいられるだけで幸せだったし、エルネストもルーカスのことを愛してくれていた。

 三日間の蜜月ハネムーンが終わって、ルーカスとエルネストは日常に戻る。
 朝食をエルネストが作ってくれて、ルーカスはエルネストと一緒に車に乗って隣りの州の人外課まで出勤する。
 毎日仕事は忙しいが、大きな仕事は入ってきていなかった。

 アルマンドの供述を元に、数人の大金持ちが逮捕されて、監禁されて子どもを産まされていた被害者が助けられた。そのことによってアルマンドが取り引きをしたのか、減刑されるのかはルーカスにも知らされていない。
 ここから先は警察の仕事ではなくて、検察官の仕事だった。
 被害者は助けられているが、子どもと共に行く場所がない場合もあって、そういうときには施設に入れるように手続きをする。
 家族の元に戻れるものもいたが、子どもを抱えているし、年月も経っているので、馴染むのが難しそうなケースもあった。

 人身売買でルーカスも売られていたらこうなっていたかもしれない。
 そう思うたびに、ルーカスはやり切れない気持ちで仕事をこなしていた。

 そんなルーカスの様子にエルネストは気付いてくれたようだ。
 帰ってから紅茶を入れてくれて、チョコレートと一緒に差し出してくれた。

「ルーカス、悩んでいることがあるんじゃないの?」
「俺はもう五歳の子どもじゃない」
「五歳の子どもに戻ってもいいんだよ。ルーカスと僕は結婚したんだから、どんなときも一緒だよ」

 五歳の子どもに戻ってもいい。
 エルネストの言葉に、ルーカスはエルネストの胸にしがみ付く。

「あの被害者たちが、俺のあり得たかもしれない姿なんじゃないかと思うと、つらいんだ」
「ルーカスは助けてもらったんだし、今、被害者たちを助ける立場になってるよ」
「それでも、あのときに助けが来なければ、ああなっていたんじゃないかと考えてしまう」

 気持ちを吐露すると、エルネストがルーカスを抱き締めて髪を撫でてくれる。

「もう大丈夫だよ、ルーカス」
「エルネスト……」
「僕がいる。この先どんなときも、僕が君を助けに行くよ」

 五歳のときからずっと言ってほしかったことをエルネストがルーカスに言ってくれる。
 ルーカスはこうやって抱き締めて、もう大丈夫だと言ってほしかった。何度でも助けに来てくれると言ってほしかった。

「ありがとう、エルネスト」

 エルネストの胸に顔を埋めて、ルーカスは目を閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

二杯目の紅茶を飲んでくれるひと

秋月真鳥
BL
 ベストセラー作家にもなった笠井(かさい)雅親(まさちか)は神経質と言われる性格で、毎日同じように過ごしている。気になるのはティーポットで紅茶を入れるときにどうしても二杯分入ってしまって、残る一杯分だけ。  そんな雅親の元に、不倫スキャンダルで身を隠さなければいけなくなった有名俳優の逆島(さかしま)恋(れん)が飛び込んでくる。恋のマネージャーが雅親の姉だったために、恋と同居するしかなくなった雅親。  同居していくうちに雅親の閉じた世界に変化が起こり、恋も成長していく。  全く違う二人が少しずつお互いを認めるボーイズラブストーリー。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。 このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。 そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。 一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて… 那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。 ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩 《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》

英雄様の取説は御抱えモブが一番理解していない

薗 蜩
BL
テオドア・オールデンはA級センチネルとして日々怪獣体と戦っていた。 彼を癒せるのは唯一のバティであるA級ガイドの五十嵐勇太だけだった。 しかし五十嵐はテオドアが苦手。 黙って立っていれば滅茶苦茶イケメンなセンチネルのテオドアと黒目黒髪純日本人の五十嵐君の、のんびりセンチネルなバースのお話です。

聖獣王~アダムは甘い果実~

南方まいこ
BL
 日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。  アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。  竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。 ※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません

忘れられない君の香

秋月真鳥
BL
 バルテル侯爵家の後継者アレクシスは、オメガなのに成人男性の平均身長より頭一つ大きくて筋骨隆々としてごつくて厳つくてでかい。  両親は政略結婚で、アレクシスは愛というものを信じていない。  母が亡くなり、父が借金を作って出奔した後、アレクシスは借金を返すために大金持ちのハインケス子爵家の三男、ヴォルフラムと契約結婚をする。  アレクシスには十一年前に一度だけ出会った初恋の少女がいたのだが、ヴォルフラムは初恋の少女と同じ香りを漂わせていて、契約、政略結婚なのにアレクシスに誠実に優しくしてくる。  最初は頑なだったアレクシスもヴォルフラムの優しさに心溶かされて……。  政略結婚から始まるオメガバース。  受けがでかくてごついです! ※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも掲載しています。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

処理中です...