Cheetah's buddy 〜警察人外課の獣たち〜

秋月真鳥

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本編

21.エルネストの秘密

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 バーベキューで焼けた肉や野菜をエルネストが取り分けてくれる。バーベキューなど初めてでどうすればいいのか戸惑うルーカスに、エルネストはとても親切だった。
 オーギュストもアデライドもボドワンもドナシアンも暖かくルーカスを迎え入れてくれる。

「ボドワンもドナシアンも結婚はゆっくりでいいっていうタイプなんだ。エルネストもそうだと思っていたから、紹介したいひとがいると言われても、結婚まで考えているとは思わなかった」
「エルネストはお付き合いしているひとがいたら、必ず会わせてくれていたものね。今回もそうかと思っていたわ」

 食べながらオーギュストとアデライドの話を聞く。口にものが入っているときに喋るのはよくないと黙って聞いていると、オーギュストとアデライドの話は過去のものになっていた。

「私はフランスの狼の群れに暮らしていたんだが、群れの中で結婚が進んで、血が濃くなりすぎていたんだ。そこに、合衆国にも狼の群れのある町があると聞いて、旅行して訪れてみたのが最初だよ」
「私とあなたが初めて出会ったときのことですね」
「アデライドに私は一目惚れして、フランスからの移住を決めた。群れの血の濃さは問題になっていたから、私の弟や従兄弟たちも一緒に移住してきた」
「代わりにこの群れから数名がフランスに移住しました。新しい血を取り入れるということで、どうしても必要だったのです」

 狼の群れの結束は固いが、群れの中で結婚を続けていると血が濃くなりすぎる。血が濃くなりすぎた状態での結婚や子作りは子どもに影響が出てくるとされているので、よくない状況だったのだろう。
 それを打開するためにフランスと合衆国、二つの群れがひとを入れ替えて暮らすようになった。

「クロヴィスは私の甥で、一緒にフランスから来た弟の息子なんだ」
「クロヴィスは小さなころからウジェーヌと結婚すると約束していたんですよ」

 狼の群れでは群れの中での結婚は当然なのかもしれない。それが血が濃くなりすぎるという諸刃の刃であることもオーギュストとアデライドは知っていた。

「エルネストがルーカスを選んだのはよかったと思うよ」
「群れの中で終わっていては、また同じことを繰り返すだけだったから」
「新しい血を迎え入れるのも群れには大事だ。ようこそ、この群れに。よく来てくれた」

 心の底から歓迎されているのを感じてルーカスは頭を下げる。

「こちらこそ、受け入れてくれてありがとうございます」
「エルネストの選んだ相手だからね」
「足の速い孫が生まれそうだわ。楽しみね」

 にこにこしているアデライドに気が早いと思ってしまうが、ルーカスもエルネストとの間にならばいつか子どもは欲しいと思っていたので、大人しく頷いていた。

「ビールでもいかがかな?」
「ルーカスは運転するし、普段からアルコールは飲まないんだ」
「それじゃ、コーヒーでも入れましょうか」

 アデライドが家の中に入ってコーヒーを入れてくれている間に、ルーカスは皿の上のものを食べ終えていつでも喋れる状態にしておいた。

「ルーカスはエルネストと相棒なんでしょう? 相棒が恋人で構わないの?」

 ウジェーヌの問いかけに、ルーカスは説明する。

「本来ならば相棒が恋人なのは私情を挟むからよくないとされているが、俺とエルネストは特例として認められた」

 その他にも職場ではパーシーとアーリンも特例として認められているのだが、その話はしなくてもいいと判断する。

「公私ともに相棒なわけだ」
「そうなるな」
「羨ましいな。僕はクロヴィスの相棒にはなれなかったからね」
「ウジェーヌも警察関係者か?」
「そうだよ。ボドワンとドナシアンもだし、ここは警察関係者が多いんだよ」
「知らなかった。所属は?」
「僕は通報の対処。ボドワンとドナシアンは科学捜査班だよ」

 ウジェーヌは通報の処理をしていて、ボドワンとドナシアンは科学捜査班で働いている。警察の関係者として狼は多いのかとルーカスは改めて認識した。

「結婚式には僕がエルネストをルーカスの元までエスコートしていくよ」
「ちょっとずるくない? それは僕の役目じゃない?」
「いやいや、エルネストのおむつを替えたのは僕だからね?」
「それは僕もしたよ!」

 ボドワンとドナシアンが言い争っているのに、オーギュストが笑いながら言う。

「それは父親の仕事だろう?」
「父さんは仕事が忙しくてエルネストのおむつも碌に替えなかったのに?」
「エルネストは僕の弟だよ?」
「それなら、私はルーカスをエスコートするかな」
「え?」

 話がルーカスに飛んできてルーカスは戸惑ってしまう。自分は結婚式でも一人でエルネストの元に行くのだと思っていた。

「エルネストから聞いているよ。君が施設で育ったことも、家族がいないことも」
「そうなんですね」
「私のことはお義父さんと呼んでなんでも頼ってくれていい」
「私のことはお義母さんと呼んでください」

 オーギュストとアデライドの言葉にルーカスは涙ぐんでしまいそうになった。これまでこんな風に言ってくれたひとがいただろうか。

「僕のことはボドワン義兄さんと!」
「僕はドナシアン義兄さんだね!」

 ボドワンとドナシアンも言ってくれて、ルーカスは彼らがエルネストの家族であることを強く感じていた。

 エルネストと車に乗って帰る途中で、エルネストがルーカスを気遣ってくれる。

「疲れたんじゃないかな、あんなにひとがいて。運転変わろうか?」
「驚きはしたけど、疲れてはいない。みんな親切だった」
「無理に馴染もうとしなくてもいいからね」
「俺にも家族ができたんだと嬉しかったよ」

 素直な気持ちを口にするルーカスにエルネストが微笑んでそれを聞く。信号停車中にエルネストに口付けて、ルーカスは囁いた。

「早く帰ってエルネストを抱きたい」
「ルーカスったら」

 甘く笑われて、ルーカスは下半身に集まる血をなんとか紛らわせていた。

 エルネストのマンションに帰ってから、シャワーを浴びたルーカスとエルネストはベッドに倒れ込んだ。抱き締め合い、口づけ合い、体を探ってルーカスはエルネストを抱く。
 エルネストはルーカスにされるがままになっていた。

 気だるい夕暮れ時に、シャワーを浴び直して清潔なシーツに替えたベッドで、キスをしたり、抱き締め合ったりしながら、過ごしていると、エルネストが真剣な表情でルーカスに問いかけた。

「このベッド、一人用にしては広いと思わない?」
「そうだな。俺とエルネストがぎりぎり一緒に寝られてるからな」
「僕、ルーカスに言ってないことがあるんだ」

 打ち明ける雰囲気のエルネストに、ルーカスはどんなことであっても受け止めるつもりで背筋を伸ばす。エルネストは言いにくそうに口を開いた。

「僕、寝るときは本性に戻ることがあって、そのときのためにベッドが広いんだ」
「本性にって、狼に!?」
「そうだよ」

 エルネストの本性はかなり大きな狼だったはずだ。それがベッドの上で寝るとなるとスペースを取るのは当然だろう。
 ルーカスが何を言っていいか迷っていると、エルネストが続ける。

「君と一緒に寝るようになってから、本性に戻って寝てなくて、ちょっと、ストレスが溜まっているというか、物足りないというか……」
「もっと広いベッドが必要ってことか」
「できればそうしたいんだ。ベッドを買い替えたいし、引っ越しもしたい。これから先、子どもが生まれることもあるかもしれないだろう? そのときには部屋も必要だ」

 広い寝室のある広い部屋に引っ越すのは、将来を考えればおかしいことではなかった。
 エルネストに我慢させていたことを思うと、ルーカスはすぐにでも引っ越しを考えたくなる。

「分かった。物件を一緒に探そう」
「ありがとう。ルーカスも遠慮なく本性で寝ていいからね」
「本性で……」

 本性は見せるなと施設で教育されてきたルーカスにとっては、本性で寝るなんてことは考えられなかったが、エルネストにならば見せてもいいかもしれないと思い直す。
 できる限り迅速に新居探しを。
 それが当面のエルネストとルーカスの課題だった。
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