Cheetah's buddy 〜警察人外課の獣たち〜

秋月真鳥

文字の大きさ
上 下
18 / 30
本編

18.ことの顛末

しおりを挟む
 これまでの仕事では、ルーカスは犯人逮捕の時点で怪我をして入院治療が必要になっている、怪我でデスク仕事に回されているかだった。デスク仕事が苦手で好きではないルーカスにとってはそれは拷問のような時間だった。
 自分が怪我をしている間、相棒がどれだけ心配してくれていたのか、デスク仕事でルーカスが現場に出られない間、相棒も一緒にデスク仕事をしてくれていたことなど、今になって気付くことがたくさんある。
 ルーカスは今回の件に関しては、率先してデスク仕事をこなしていた。

「被害者の聞き取りに行ってくる」
「ルーカス、大丈夫?」
「平気だ。一緒に来てくれるか?」
「僕はルーカスの相棒だよ。もちろん行くよ」

 エルネストはそんなルーカスの一番近くにいてくれた。
 保護された被害者に聞き取りをすれば、組織の構成員は捕まえた二人以外にもいて、捕まえた二人が基本的に被害者の面倒を見ていたが、それ以外の構成員が来て、子どもや少年少女を連れ出すということもあったらしい。
 人外は人外同士でお互いに自分たちが人外だということを感じられるので、構成員が全員人外であることは間違いなかった。
 被害者の中でも連れ出されて戻ってきていないものもいるという。

「私に親切にしてくれたお兄さんが、警察の人外課のひとたちが助けに来る二日前に連れ出されて、戻ってきていないんです。あのお兄さんを助けてください」
「僕に優しくしてくれたお姉さんも戻ってきてない」

 聞き込みを続けたところ、二人の青年期くらいの男女の人外が一斉検挙に入る二日前に連れ出されて、戻ってきていないということだった。
 廃屋を調べている科学捜査班にもそのことを伝えて、その二人のDNA情報が廃屋の地下室に残っていないか調べてもらう。

 それと同時に、一斉検挙の二日前に国外へ脱出した不審な飛行機がないかを調べていけば、一つの結論に辿り着いた。

「一斉検挙の前日に隣りの州の空港から自家用ジェットが飛び立っている。目的地はフランス」
「今ならまだ到着してすぐで、体制も整っていないだろう。フランスの警察の人外課に連絡を」

 ルーカスとエルネストが被害者に聞き込みをして得た情報は犯人逮捕に役立った。
 フランスの警察の人外課から二人の青年期の男女を連れた人身売買組織の構成員が捕まったと連絡があったのはそれからすぐのことだった。
 全員殲滅とまではいかなかったが、被害者はこれで全員助けられた。

「エルネスト、俺は被害者を助けられた。助けられたぞ」
「ルーカス、よく頑張ったね。ルーカスが丁寧に被害者に聞き込みをした成果だよ」
「ありがとう、エルネスト」

 組織の殲滅には至らなかったが、被害者だけでも全員救えたことはルーカスにとってはものすごい自信になっていた。
 それも全部エルネストがいてくれたおかげだ。

 アーリンもパーシーも最近はルーカスに対する態度が変わってきていた。
 ルーカスが変わったからアーリンもパーシーも態度を変えてくれたのだと理解できる。

「デスク仕事なんてやる価値もないと思っていたが、大事な仕事だと思えた。被害者への聞き込みも地味だが必要な仕事だった。俺はそういうことに気付かずに、本当に恥ずかしい」

 アーリンとパーシーの前で「すまなかった」と謝れば、アーリンもパーシーもルーカスを責めなかった。

「嫌がってはいたけど仕事はちゃんとしてたもの」
「これからは仕事の意味が分かってしてくれるのかと思うと安心するよ」
「どんな仕事も最終的には被害者の救出のためになるかもしれない。どんな仕事も必要だからしてるんだ。その意味が分かったよ」
「エルネストが来てからルーカスが変わってくれて本当によかったわ」
「君たち、まだ一緒に暮らしているの? もしかして二人は僕たちに言ってないことがあるんじゃない?」
「そ、そ、そんなこと、大人なんだから、言わないこともあるだろう!」
「まぁ、そりゃそうだよね」

 パーシーには気付かれている気がする。
 エルネストは自分を愛してくれていて、両思いだということを世界中に公表したいのだが、公表してしまえば相棒でいられなくなってしまうかもしれない。エルネストがいなければ仕事に支障をきたすくらいルーカスはエルネストを信頼しているので、相棒でなくなられるのは困る。
 エルネストと相棒でいて、更に恋愛関係も公にできれば一番いいのだが、相棒関係になってしまうと、恋人同士だと私情を挟んでしまう可能性があるので、諮問会議にかけられかねない。それはルーカスにとっては本意ではなかった。

「エルネスト、カウンセリングが入っているんだ」
「分かったよ。一緒に行こう」

 カウンセリングも業務の一環なのでエルネストも一緒に連れてくるように言われていたことを思い出し、ルーカスが誘えば、エルネストは頷いて一緒に来てくれる。

「カウンセリングも一緒なの?」
「できてるっていうか、保護者みたいだね」

 保護者みたいと言われて、ルーカスは否定できない気がしていた。エルネストにそれだけ頼っている自覚はある。

 カウンセリングルームのドアを叩くとジャスティンがドアを開けてくれた。ソファに招かれて、一人掛けのソファ二つにエルネストと並んで座る。

「初めまして、エルネスト・デュマです。ルーカスの相棒をしています」
「ジャスティン・マクマートリーです。ジャスティンと呼んでください。ルーカスとエルネストは恋愛関係にあるのですか?」

 単刀直入に問いかけられて、誤魔化そうとするルーカスを遮って、エルネストが答えた。

「そうです。カウンセラーには守秘義務がありますよね?」
「ありますね。この話はどこにも漏らしません」
「まだ恋愛関係になったばかりですが、お互いにいい関係だと思います」

 誠実に答えるエルネストの姿にルーカスは感動してしまう。エルネストは自分のことを誤魔化さずに恋人だと認めてくれた。それがエルネストの愛情の深さのような気がして、ルーカスは何も言えなくなってしまう。

「ルーカスはあなたをとても信頼しているようです。それがいい方向にルーカスを向かわせているのではないかと私は考えています」
「ルーカスの幼少期のことも、警察学校でのことも聞いています。ルーカスとはよく話をしています」
「私のカウンセリングよりも、あなたとの話の方がルーカスにとっては必要なことかもしれない。信頼できるひとに自分の過去を話せるというのはとても大事なことです」

 ジャスティンの言葉にルーカスは口を開いた。

「エルネストがいたら、灯りを全部消すのは無理でも、手元のライトだけで眠れるようになりました」
「それは進歩していますね」
「もしかすると、エルネストがいたら暗闇も怖くなくなるかもしれないと思っています」

 エルネストがいてくれたら、ルーカスは暗闇で閉じ込められていた過去を克服できるかもしれない。

「手元のライトだけで眠るのは、治療の段階として進めてみようかと思っていました。もうしていたんですね」
「最初はとても怖かったけれど、エルネストがいてくれれば、なんとか耐えられたし、眠れました」

 ルーカスの話を聞いて、ジャスティンはパソコンに打ち込んでいた。

「このカルテはあなたたちの上司も見るので、恋愛関係については記載していません。今後は異変を感じたときにだけ、予約を取ってカウンセリングに来てください。それと、もし恋愛関係を公表するつもりなら、相棒関係が崩れないように私でよければ口添えをしましょう」

 必要書類にサインをもらって、ルーカスは定期的にカウンセリングを受ける生活から解放された。必要書類はジャンルカに提出すれば、ジャンルカがジャスティンから話を聞いて、ルーカスが職場で働けることを証明してくれる。

「ありがとうございました」
「また何かあったら、いつでも来てください。小さなことでも気付いたら連れてくるようにお願いしますよ」

 ルーカスだけでなくエルネストにもお願いするジャスティンに、ルーカスもエルネストも頭を下げてカウンセリングルームを辞した。
 カウンセリングの結果の書類をジャンルカに提出すると、ジャンルカは満足したように頷いていた。

「ルーカスがカウンセリングを受ける気になって、カウンセリングで改善が見られたということで安心している。今後も油断せずに何かあったらすぐにカウンセリングを受けるように」
「分かりました、ジャンルカ課長」

 ジャスティンならばカウンセリングを受けても嫌ではないとルーカスも思い始めていた。

 人身売買組織からその時点での被害者を全員救いだしたとして、ルーカスの所属する州の警察の人外課は表彰されたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

二杯目の紅茶を飲んでくれるひと

秋月真鳥
BL
 ベストセラー作家にもなった笠井(かさい)雅親(まさちか)は神経質と言われる性格で、毎日同じように過ごしている。気になるのはティーポットで紅茶を入れるときにどうしても二杯分入ってしまって、残る一杯分だけ。  そんな雅親の元に、不倫スキャンダルで身を隠さなければいけなくなった有名俳優の逆島(さかしま)恋(れん)が飛び込んでくる。恋のマネージャーが雅親の姉だったために、恋と同居するしかなくなった雅親。  同居していくうちに雅親の閉じた世界に変化が起こり、恋も成長していく。  全く違う二人が少しずつお互いを認めるボーイズラブストーリー。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。 このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。 そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。 一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて… 那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。 ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩 《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》

英雄様の取説は御抱えモブが一番理解していない

薗 蜩
BL
テオドア・オールデンはA級センチネルとして日々怪獣体と戦っていた。 彼を癒せるのは唯一のバティであるA級ガイドの五十嵐勇太だけだった。 しかし五十嵐はテオドアが苦手。 黙って立っていれば滅茶苦茶イケメンなセンチネルのテオドアと黒目黒髪純日本人の五十嵐君の、のんびりセンチネルなバースのお話です。

聖獣王~アダムは甘い果実~

南方まいこ
BL
 日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。  アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。  竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。 ※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません

忘れられない君の香

秋月真鳥
BL
 バルテル侯爵家の後継者アレクシスは、オメガなのに成人男性の平均身長より頭一つ大きくて筋骨隆々としてごつくて厳つくてでかい。  両親は政略結婚で、アレクシスは愛というものを信じていない。  母が亡くなり、父が借金を作って出奔した後、アレクシスは借金を返すために大金持ちのハインケス子爵家の三男、ヴォルフラムと契約結婚をする。  アレクシスには十一年前に一度だけ出会った初恋の少女がいたのだが、ヴォルフラムは初恋の少女と同じ香りを漂わせていて、契約、政略結婚なのにアレクシスに誠実に優しくしてくる。  最初は頑なだったアレクシスもヴォルフラムの優しさに心溶かされて……。  政略結婚から始まるオメガバース。  受けがでかくてごついです! ※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも掲載しています。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

処理中です...