愛の言葉に傾く天秤

秋月真鳥

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後日談

ライナルトの妊娠

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 疑似子宮を体内で作って、妊娠と出産をするにあたって、ライナルト自身にも伴侶のユストゥスにも気になる点がいくつかあった。
 ユストゥスと両想いになって結婚する前に、ライナルトは一時期ユストゥスから離れたことがあった。そのときにはライナルトは食べることも寝ることもできなくて、やつれて行った。それ以降ユストゥスはライナルトとできる限り一緒にいるようにして、ライナルトの部屋に押しかけて寝泊まりするようになったのだが、結婚してからは二人でゆったりと過ごせる家をエリーアスとギルベルトの家から徒歩五分圏内に借りていた。
 学会でもユストゥスは部下としてライナルトを必ず連れて行っていたし、連れて行けないときにはエリーアスとギルベルトの家にライナルトを預けておいた。
 妊娠と出産をするにあたって、ライナルトは産前産後の休暇と、育児休暇を取らなければいけない。その期間は完全にユストゥスが学会等で出張になってもついていけなくなってしまうのだ。
 疑似子宮を作るよりも先に、ライナルトとユストゥスはその件に関して解決しておかなければいけなかった。

「ギルベルトと兄さんの負担になるのは申し訳ないんだけど、ライナルトを助けてくれないかな?」
「うちも赤ん坊が生まれますし、大人がたくさんいた方がいいですよね」
「一つ哺乳瓶を消毒するのも、二つ哺乳瓶を消毒するのも、手間は変わらないだろう? オムツもお互いの赤ん坊のを見るときに一緒に見ればいいわけだし」

 今からだと出産予定日は半年ほど離れてしまうが、エリーアスとギルベルトは快くユストゥスとライナルトを受け入れてくれるつもりだったようだ。
 安心してユストゥスはライナルトと産科の病院に行った。

「疑似子宮は元々なかった臓器が一つ増えるわけですから、違和感があるかもしれません。痛みや不快感があればすぐに診察に来てください」

 説明を受けて下腹にライナルトは注射を打ってもらう。小さな疑似子宮の元が育つまでには約一か月の時間が必要らしかった。

「疑似子宮が成熟すると、母体は発情状態になります。そのときを逃さずに、しっかりと行為をしてください」

 疑似子宮が成熟すると発情状態になる。それがどんな状態か分からなかっただけに、ライナルトはかなり怖がっていた。自信過剰でナルシストの仮面を被っていたが、ユストゥスと暮らすうちにライナルトは自分は本当は臆病で寂しがり屋だったのだと気付いていた。
 遊んでいた女性たちには見せなかった弱い部分もユストゥスには見せられる。ユストゥスはそんなライナルトを見て受け止めてくれる。

「体に変調があったら、すぐに教えてね」
「エリーアスは平気だって言ってた」
「兄さんは我慢強くて、辛抱強いんだ。兄さんを目指すことはないからね」

 我慢強くて辛抱強いエリーアスを見習うのではなく、ライナルトの弱さはそのままでいいとユストゥスは言ってくれる。それにライナルトは安心していた。
 内臓全体が押し上げられるような感覚に、料理が作れなくなっても、食欲が落ちても、ユストゥスはライナルトを責めたりしなかった。ライナルトが食べられるものを探して、お惣菜を買ってきてくれたり、冷凍食品を温めてくれたりする。あまり一度に量を食べられなくなったライナルトに、こまめに食べられるように、ユストゥスはサンドイッチやドーナッツを持たせてくれて、いつもライナルトのカバンには食べ物が入っている状態だった。
 胃袋も押し上げられているせいだろう、あまり一度に量が食べられないし、膀胱も押し上げられているせいでお手洗いも近くなった。痛みはなかったがお腹には常に違和感がある状態だったが、エリーアスはこれを見せずに堪えていたのだと思うとライナルトは尊敬してしまう。
 ライナルトの方はユストゥスに甘えっぱなしだった。

「晩ご飯、作れそうにないんだけど」
「いいよ。何が食べたい? 何なら食べられそう? 僕、作れないから買って来ることしかできないんだけど、何でも買って来るよ」
「お米が食べたいかもしれない」

 仕事帰りにユストゥスに声をかけると、ユストゥスはスーパーに寄って、ライナルトの食べたいものを買って帰ってくれる。ライナルトが一度に食べられる量が少ないので、少なめに温めて、残りは冷蔵庫に小分けにして入れておいて、いつでも食べられるようにしてくれる。
 料理ができないことはユストゥスは認めているので、そういう心遣いがライナルトには嬉しかった。
 疑似子宮が出来上がる一か月の間、ユストゥスはライナルトを気遣って抱かなかった。
 疑似子宮の元を植え付ける注射が終わって一か月が経ったころ、ライナルトは朝から体が火照って熱があるのかと検温してみたら、微熱があった。先に起きていたユストゥスは何かに気付いているようだ。

「来たんじゃないかな、発情状態」
「え? これが?」

 確かに後孔は疼いている気がするし、ライナルトはユストゥスに抱かれたくてたまらない。ユストゥスがライナルトの分も欠勤の連絡を終えると、二人でバスルームに入ってシャワーを浴びた。
 甘ったるい香りがしているが、ライナルトはそれが自分から発せられているものとは気付いていない。裸のユストゥスを見ているだけでもう入れて欲しい気分になるのに、中心が勃ち上がりかけているユストゥスは、紳士的にバスルームでライナルトを抱くようなことはなかった。
 寝室に行ってベッドに倒れ込むと、ユストゥスに下腹に手を這わされる。ぞくぞくと快感が生まれて、ライナルトは自ら足を広げる。

「ユストゥス、キて?」
「まだ慣らしてないからダメだよ。ライナルトが怪我をしちゃう」

 ローションを手に垂らしてぐちゅぐちゅとライナルトの後孔に指を差し込んで慣らしていくユストゥスの手が、焦らしているようでライナルトは腰をくねらせる。

「ほしいっ! ユストゥスがほしいっ! おねがい!」

 泣きながら懇願するライナルトに、足の間に入ったユストゥスがライナルトを見下ろしながらにぃっと笑った。

「手加減できないよ?」
「むちゃくちゃにして! 孕ませて!」

 強請った瞬間、一気に貫かれて、ライナルトは声もなく中だけで達していた。絶頂の中でまたユストゥスがライナルトを突き上げて、快感の波から降りられない。乱暴ではないが、強くライナルトを突き上げるユストゥスの背中に腕を回して縋り付けば、接合がますます深くなる。

「ひっ! ぁあっ! ひんっ!」

 意識が飛ぶまで抱かれて、溢れるほどに中に注がれて、ライナルトはユストゥスに満たされていた。
 意識を取り戻したライナルトがシャワーを浴びていると、ユストゥスが冷凍食品を温めてくれているのか、リビングにいい匂いがしている。抱かれて満たされたのか、ライナルトはもう体の火照りは感じていなかった。
 リビングに出るとお腹が鳴る。

「炒飯を温めたけど、食べられそう?」
「食べたい。ありがとう、ユストゥス」

 ライナルトが食べるのを見ながらユストゥスも一緒に食べてくれる。いつもよりもたくさん食べられた気がして、ライナルトは満腹でベッドに戻ってもう一度眠った。
 二週間後の検診で、ライナルトは妊娠を告げられた。

「俺のお腹に赤ん坊がいるのか……」
「ライナルト、怖くない?」
「分からない。ユストゥス、傍にいてくれ」

 これから先自分の体がどうなって行くのか、ライナルトは全くの未知の体験をすることとなる。妊娠したことは怖くないと言えば嘘になるが、ユストゥスがいてくれるのならば大丈夫かもしれないとライナルトは思い始めていた。
 赤ん坊が欲しいと思ったのも、エリーアスがギルベルトの子どもを産むという話を聞いてからだ。ライナルトもユストゥスの子どもが欲しいと真剣に思っていた。
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