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透けた微笑み
1.
しおりを挟む数年後。
僕は病院の更衣室で、手術着に身を包んでいた。
身支度を整えた僕は、銀色の指輪をロッカーの中に大切にしまう。
「いってくるよ、舞葉」
一人呟き、僕はロッカーを閉じると更衣室を後にする。
僕は手術室に入っていく。
明るい部屋の中で、物々しい格好の医師達が、手術台の上で寝ている患者を囲んでいた。
今まさに、手術が始まろうとしている所だ。
執刀医は舞葉の父である夜霧先生。
僕はその夜霧先生の横に並ぶように立つ。
「景太君。君が助手を引き受けてくれて、本当に心強いよ」
夜霧先生が僕に向かって言う。
僕は彼の言葉に、誇らしさを感じた。
「…やっとあなたの隣に立てるくらいになれました」
僕はそれだけ言うと、後の言葉は飲み込んだ。
今はそれ以上、関係の無い会話をここで続ける訳にはいかなかった。
これから始まる目の前の手術に、集中しなければならないのだから。
「難しい手術ですが…、必ず成功させましょう!」
僕は夜霧先生と、周りの助手達に向かって言う。
「ああ…。もちろんだ!」
僕の言葉に、夜霧先生は力強く頷くのだった。
誰もいなくなった更衣室。
並んだロッカーの間には、長椅子が置かれていた。
その椅子に腰掛けて、景太のロッカーを愛おしそうに見つめる女の姿があった。
彼女の体は薄く透けている。
「頑張れ…。頑張れ景太君…!」
景太のロッカーにむかってそう独り言を口にした女は、優しく、そして満足そうに微笑みを浮かべるのだった。
薬指に咲く・完
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