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第9話 国軍区域Ⅰ
しおりを挟む「本当にありがとうございます!」
国軍区域の大きな塀の前で、一般人に変装してもなお神々しさが漂うエリザベスが深々と頭を下げた。
私も一般人に化けた姿で「気にしないで」と、胸の前で手を振る。
「でも、この前も話したけれど、青の騎士は今休暇を取って故郷に帰っているみたいだから、その」
ウソは苦手なのだ。すぐ顔に出る。動きも挙動不審になりがちだ。今も、胸の前で手を振り続けている。
「たしかに、青の騎士様にお会いできないのは残念ですが、青の騎士様が訓練された同じ場所に立てて、同じ風景を見ることができるだけで満足なのです!」
・・・エリザベスにだけは、この嘘をつき通さなくてはいけない。絶対に。
私たちの後ろで何とも言えない表情で佇むシェーン。彼も複雑そうに気配を消している。私以上に嘘はつけないたちだろう。
「そ、それでは行きましょうか」
エリザベスがシェーンの存在に意識を向けないように手を引く。
「はい!」
このドームには、とても広い訓練施設のほかにも、軍人養成施設や軍寮、様々な店もあり、とても賑わっていた。
「素晴らしいですね、まるで一国の都市部のようです」
エリザベスの言うように確かにとても栄えている。店の種類は、むしろ都市部よりもバラエティに富んでいる。
一般人はあまり利用しない武器屋や、鍛冶屋、防具屋などが種類別にあり、中にはそういったもののデザインや制度をカスタマイズしてくれる店もあった。
まあ、軍人が主な客層なのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。
軍事訓練の前に食事を済ませることになり、食事処では有名な酒屋に足を運ぶことにした。
移動は徒歩で人込みを抜けていく。一般人に化けておいてよかった。国軍施設のため部外者は身分を証明できる者に限られているのもあり、治安は悪いはずがない。しかし、血気盛んな軍人同士の熱い戦いはたまにあるらしくそこはシェーンが目を光らせている。
「なんだろう、心が弾む」
こういった光景が初めてだったからか、イメージをいい意味で裏切ってくれたからか。心臓のあたりが熱くなる感覚に陥った。
「サリ様!」
エリザベスの声に我に返り足を止め、振り返る。
「はあ、はあ、すみません、私の足が遅くて・・・ご迷惑を・・・ぜえぜえ」
エリザベスとは、5メートル以上距離を離してしまっており、エリザベスの後ろに張り付くように焦り切った顔のシェーンが歩いていた。
「あ、ごめん」
追いついた私にエリザベスは息も絶え絶えに尋ねた。
「サリ様はっはあはあ、その、酒屋の場所を、ご存知、なのですか?」
シェーンも小さく頷いた。
「え、初めて・・・だよ?」
どうやら適当に曲がりながら駆け足になっていたようだ。奇跡的に迷うことなく。
「昼時だし、人の流れが導いてくれたんじゃないかな?」
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