13 / 14
13
しおりを挟む
セシリアは夢を見ていた。
そこは真っ暗で、冷たくて。
まるで水の中のように沈んでいるようにも感じられる。
手を動かせば泥のような、澱みのような物が手の指の間をすり抜けていく。
体がだるくて上にいく気力はない。
何処かで誰かが泣いているような気がした。
「お母様!今日の刺繍の先生に褒められたの!」
「お父様!お馬さんに乗るのが上手いって先生褒めてくれたよ!」
「お母様!今日のテストでは満点を取ったの!」
「お父様、お母様、どこにいくの……?」
昔の私が泣いている……
あの時は、褒めて貰えると信じていた。
褒めて貰える為なら何でもやった。
刺繍だって何度も指を刺して痛かったけれど、褒めて貰えるならそんな痛み気にならなかった。
馬だってとても怖かったけれど、褒めて貰えるならいくらでも乗った。
勉強だって本当はそんなに好きではなかったけれど、褒めて貰えるならどんなに難しいものでもやった。
もしかしたら、もっと難しい図案が刺繍できていれば、馬に乗って狩りに行くくらいできていれば、他の国の言語をもっと沢山学べていれば、褒めて貰えていたのかもしれない。
1度転んだことがある。お母様の前でたまたま転んでしまって、初めてのことで痛くて泣いた。慰めてくれると信じてお母様に近づいた。
「こっちに来るんじゃないわよ!汚いものがドレスに着いたらどうするのよ!泣くな!うるさい!うるさいうるさいうるさい!!!」
何度も扇で叩かれて、これはもう泣いちゃダメなんだと悟った。
それでも、何度も泣きたい時はあった。
だから、声を殺して1人で泣いた。
誰にも頼ることは出来なかった。
お父様とお母様がいなくなって、初めて激痛が走った時はあまりにも痛くて我慢が出来ずに大きな声で泣いてしまった。怒られることが怖いから何度も何度も謝りながら泣いた。
もう、昔のことだと忘れかけていたのにどうして今更……
目の前で今起こっているかのように情景が流れている。
魔力がないのだからもう褒めて貰えるはずなどないと今ではわかっている。
それでもどこかで、もしかしたら褒めて貰えるのかもしれないと心のどこかで考えてしまっていたことに気づいた。一生褒めて貰えないかもしれない。だけれど、もしかしたら、もしかしたら……。
情景が途切れたと思ったら何故か自分が急速に沈んでいる感覚がして、いつの間にか真っ暗な闇に溶けていくような、何かが無くなっているような気に駆られた。
意識が遠のいていく時に、遠くで誰かが喋っている気がした。
「タニアはどんな花が好きなんだい?」
「そうですね……私は、真っ白なストックがずっと昔から好きなのです。ブルーノ様は何がお好きですか?」
「僕は、ミモザが好きかな。小さいけれど美しいんだ。」
そこは真っ暗で、冷たくて。
まるで水の中のように沈んでいるようにも感じられる。
手を動かせば泥のような、澱みのような物が手の指の間をすり抜けていく。
体がだるくて上にいく気力はない。
何処かで誰かが泣いているような気がした。
「お母様!今日の刺繍の先生に褒められたの!」
「お父様!お馬さんに乗るのが上手いって先生褒めてくれたよ!」
「お母様!今日のテストでは満点を取ったの!」
「お父様、お母様、どこにいくの……?」
昔の私が泣いている……
あの時は、褒めて貰えると信じていた。
褒めて貰える為なら何でもやった。
刺繍だって何度も指を刺して痛かったけれど、褒めて貰えるならそんな痛み気にならなかった。
馬だってとても怖かったけれど、褒めて貰えるならいくらでも乗った。
勉強だって本当はそんなに好きではなかったけれど、褒めて貰えるならどんなに難しいものでもやった。
もしかしたら、もっと難しい図案が刺繍できていれば、馬に乗って狩りに行くくらいできていれば、他の国の言語をもっと沢山学べていれば、褒めて貰えていたのかもしれない。
1度転んだことがある。お母様の前でたまたま転んでしまって、初めてのことで痛くて泣いた。慰めてくれると信じてお母様に近づいた。
「こっちに来るんじゃないわよ!汚いものがドレスに着いたらどうするのよ!泣くな!うるさい!うるさいうるさいうるさい!!!」
何度も扇で叩かれて、これはもう泣いちゃダメなんだと悟った。
それでも、何度も泣きたい時はあった。
だから、声を殺して1人で泣いた。
誰にも頼ることは出来なかった。
お父様とお母様がいなくなって、初めて激痛が走った時はあまりにも痛くて我慢が出来ずに大きな声で泣いてしまった。怒られることが怖いから何度も何度も謝りながら泣いた。
もう、昔のことだと忘れかけていたのにどうして今更……
目の前で今起こっているかのように情景が流れている。
魔力がないのだからもう褒めて貰えるはずなどないと今ではわかっている。
それでもどこかで、もしかしたら褒めて貰えるのかもしれないと心のどこかで考えてしまっていたことに気づいた。一生褒めて貰えないかもしれない。だけれど、もしかしたら、もしかしたら……。
情景が途切れたと思ったら何故か自分が急速に沈んでいる感覚がして、いつの間にか真っ暗な闇に溶けていくような、何かが無くなっているような気に駆られた。
意識が遠のいていく時に、遠くで誰かが喋っている気がした。
「タニアはどんな花が好きなんだい?」
「そうですね……私は、真っ白なストックがずっと昔から好きなのです。ブルーノ様は何がお好きですか?」
「僕は、ミモザが好きかな。小さいけれど美しいんだ。」
50
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説


今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

憐れな妻は龍の夫から逃れられない
向水白音
恋愛
龍の夫ヤトと人間の妻アズサ。夫婦は新年の儀を行うべく、二人きりで山の中の館にいた。新婚夫婦が寝室で二人きり、何も起きないわけなく……。独占欲つよつよヤンデレ気味な夫が妻を愛でる作品です。そこに愛はあります。ムーンライトノベルズにも掲載しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる