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「奥様、この薬は何の薬ですか?」
セシリアは答えられない。YESかNOの質問にしか答えられないのだ。カレンは、あっそうか、と気づき言い直した。
「これは、奥様の病気を治す薬ですか?」
これは痛み止めなのだから治す薬ではない。首を横に振り、否定した。
「?治す薬ではないのに医者が置いていったのか?熱が出ていたから解熱剤か?」
ブルーノがそう聞いたが、解熱剤ではない。あの時体中が熱くなったのは熱が出たからなのかと初めて知った。これもまた首を横に振り、否定した。
これにはカレンもブルーノもよく分からず、とりあえず医者が処方したものなのだから飲むのが良いのだろうと結論を出し、セシリアに飲ませることにした。
痛み止めを飲んでしばらくすると、体中を支配していた痛みが少しずつ引いていくような気がした。何十年ぶりかの無痛にセシリアはほっと息を吐いた。
カレンが戻ってきた時にいつの間にか持っていたペンと紙を手繰り寄せ、そこに書いた。
『私なんかに手厚くありがとうございます。この薬は痛み止めです。常に感じる四肢の痛みを止めてくれるものなのです。昨晩は急に倒れてしまい、申し訳ございませんでした。これが病気であるのか、私もわからずに公爵様に言うことを懸念しておりました。申し訳ございません。』
これを見た2人は顔を歪めた。
声が出るうちに痛いと、体が痛いのだと言ってくれれば痛み止めも出したし、魔術師団長である自分が治癒魔法をかけたのに、と。
常に感じていたのなら、倒れるほどなら余程の激痛なのに、1番近い存在である自分なら気づくべきだった、と。
ブルーノはセシリアに昨晩魔力なしだからと酷いことを言った自覚がある。アルフォンス家はただでさえ魔術師1家だ。魔力が少ないだけでも陰口を叩かれるようなところだ。まして魔力がないとなったらそれはもうアルフォンス家の中では何よりも役立たずなのだ。だからこそ、家の使用人に毎晩帰る度に何もしないと言われ、魔力なしなのに掃除もしないと言われた時に、魔力がないなら他のところで役に立てばいいのにそれすらもせずに公爵夫人の座についているのかと激怒した。セシリアはそれも分からないようだったから怒りは増すばかりであった。
セシリアにとって1番良かったのは、まだブルーノは良識のある人間だったということである。ブルーノは後悔していた。体を動かせぬほどの激痛に耐えながらも誰にも言わずに、悟られずに過ごしていたセシリアに酷いことを言ったことを。掃除などできるはずがないのだ。常に四肢が痛いのに更に動かせなど、今はもう言えるはずがなかった。
カレンは、セシリアが何かを我慢していることは常日頃感じていた。だが、それでもこんなに酷いことを我慢しているなど分からなかった。
お風呂の世話をする時にある無数の傷は初めて会った時から寸分たがわず残っている。治っているような素振りはない。生傷のままずっと残っているのだ。
毎日それを見る度に、この傷の痛みはどの程度だろうと考える。だから、カレンはセシリアはこの傷の痛みを我慢しているのだと自分の中で折り合いをつけていた。
だが、本当は違ったのだ。
四肢の痛みとはどの程度だろう。常に感じる四肢の痛みとはどのくらい辛く、痛いのだろう。小さい頃に足の骨を折った、そのくらいの痛みなのだろうか。痛み止めを飲まなければ動かせないほどの痛みはどの程度なのだろうか。きっと私だったら耐えることは出来ないと、カレンはまるで自分の事かのように苦しんだ。
セシリアは答えられない。YESかNOの質問にしか答えられないのだ。カレンは、あっそうか、と気づき言い直した。
「これは、奥様の病気を治す薬ですか?」
これは痛み止めなのだから治す薬ではない。首を横に振り、否定した。
「?治す薬ではないのに医者が置いていったのか?熱が出ていたから解熱剤か?」
ブルーノがそう聞いたが、解熱剤ではない。あの時体中が熱くなったのは熱が出たからなのかと初めて知った。これもまた首を横に振り、否定した。
これにはカレンもブルーノもよく分からず、とりあえず医者が処方したものなのだから飲むのが良いのだろうと結論を出し、セシリアに飲ませることにした。
痛み止めを飲んでしばらくすると、体中を支配していた痛みが少しずつ引いていくような気がした。何十年ぶりかの無痛にセシリアはほっと息を吐いた。
カレンが戻ってきた時にいつの間にか持っていたペンと紙を手繰り寄せ、そこに書いた。
『私なんかに手厚くありがとうございます。この薬は痛み止めです。常に感じる四肢の痛みを止めてくれるものなのです。昨晩は急に倒れてしまい、申し訳ございませんでした。これが病気であるのか、私もわからずに公爵様に言うことを懸念しておりました。申し訳ございません。』
これを見た2人は顔を歪めた。
声が出るうちに痛いと、体が痛いのだと言ってくれれば痛み止めも出したし、魔術師団長である自分が治癒魔法をかけたのに、と。
常に感じていたのなら、倒れるほどなら余程の激痛なのに、1番近い存在である自分なら気づくべきだった、と。
ブルーノはセシリアに昨晩魔力なしだからと酷いことを言った自覚がある。アルフォンス家はただでさえ魔術師1家だ。魔力が少ないだけでも陰口を叩かれるようなところだ。まして魔力がないとなったらそれはもうアルフォンス家の中では何よりも役立たずなのだ。だからこそ、家の使用人に毎晩帰る度に何もしないと言われ、魔力なしなのに掃除もしないと言われた時に、魔力がないなら他のところで役に立てばいいのにそれすらもせずに公爵夫人の座についているのかと激怒した。セシリアはそれも分からないようだったから怒りは増すばかりであった。
セシリアにとって1番良かったのは、まだブルーノは良識のある人間だったということである。ブルーノは後悔していた。体を動かせぬほどの激痛に耐えながらも誰にも言わずに、悟られずに過ごしていたセシリアに酷いことを言ったことを。掃除などできるはずがないのだ。常に四肢が痛いのに更に動かせなど、今はもう言えるはずがなかった。
カレンは、セシリアが何かを我慢していることは常日頃感じていた。だが、それでもこんなに酷いことを我慢しているなど分からなかった。
お風呂の世話をする時にある無数の傷は初めて会った時から寸分たがわず残っている。治っているような素振りはない。生傷のままずっと残っているのだ。
毎日それを見る度に、この傷の痛みはどの程度だろうと考える。だから、カレンはセシリアはこの傷の痛みを我慢しているのだと自分の中で折り合いをつけていた。
だが、本当は違ったのだ。
四肢の痛みとはどの程度だろう。常に感じる四肢の痛みとはどのくらい辛く、痛いのだろう。小さい頃に足の骨を折った、そのくらいの痛みなのだろうか。痛み止めを飲まなければ動かせないほどの痛みはどの程度なのだろうか。きっと私だったら耐えることは出来ないと、カレンはまるで自分の事かのように苦しんだ。
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