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侯爵が出て行ったあとに入ってきたのは、専属侍従であるカレンだった。
一番信頼していたカレンにも魔力なしが図々しいなど思われていたのかなと思うとなんとも悲しく、辛く思えてしまった。今までカレンが来る度自然と出ていた笑顔も見る影もなくなった。
カレンはセシリアを見ると「奥様、まずは涙を拭きましょう。」と濡れタオルで優しく顔を拭いてくれた。そのまま今までと同じ態度で話し続けた。
騎士に憧れていた弟が騎士団に入った、最近鳥がよく鳴いているから繁殖期なのかもしれない、この前リンゴを買ったからアップルパイにして食べたら美味しかったからまた作る。セシリアは声が出ないから一方的な会話ではあったが、どれもセシリアを明るくさせるような、気遣うような声色で話し続けていた。カレンはセシリアを世話をする手を止めた。
「奥様。私はまだまだ若輩者ですが、私たちのような使用人にいちいちお礼を言うような方には会ったことがございません。どんな些細なことでもお礼を言ってくださる奥様に、例え魔力がなくたって、微弱ながら私はついていきたいと、お支えすることが出来たらと専属に自ら名乗りを上げたのです。専属でお仕えしてからも、どうしてか常に奥様が我慢をしているようにしか見えないのです。奥様、少しでいいのです。私を信じて下さいませんか?」
言い終わったあと、縋るような目でセシリアを見上げた。カレンは笑って「せっかく拭いたのにまた泣いちゃうんですか~?」と、揶揄うように言いながらも優しく溢れ出た涙を拭ってくれた。と同時にセシリアは倒れる前のような笑顔をカレンに向けたのだった。だが、カレンはセシリアがどうもおかしいことに気づく。セシリアが本当に何も言わないのだ。少しは声が漏れ出てもいいような笑みなのに何も発さないのだ。
カレンは「奥様……もしかして、お声が出なくなってしまわれたんですか……?」と問いた。そしてセシリアが首肯すると、何かを失ったような顔で走って部屋を出ていってしまった。
しばらくするとカレンは部屋に帰ってきた。
______ブルーノを連れて。
ブルーノは部屋に入ってきてすぐ、
「声が出なくなったのは本当なのか?!?!」
と、大きな声で問いた。セシリアはそんなブルーノの大きな声にびくっとしてしまった。するとカレンが、「突然大きな声を出されたら奥様が驚いてしまいます!」とブルーノに意見を物申しでたのだ。ブルーノは素直に、確かにそうだな、とカレンの意見を聞き、「本当に声が出なくなったのか?」と言い直した。
セシリアがカレンにしたように首肯すると、
「先程は一方的にすまなかった。声が出ないということを知らなかったのだ。」
と頭を下げたのだ。セシリアは驚いた。魔力なしに頭を下げて謝罪をする人など生きてきて初めてだったから。どんなに酷いことをしても、魔力なしだもん仕方ないな、で終わっていたのに。謝罪をされてもなにも言うことが出来ずに首を横に振ると、カレンが枕元の薬に気づいた。
一番信頼していたカレンにも魔力なしが図々しいなど思われていたのかなと思うとなんとも悲しく、辛く思えてしまった。今までカレンが来る度自然と出ていた笑顔も見る影もなくなった。
カレンはセシリアを見ると「奥様、まずは涙を拭きましょう。」と濡れタオルで優しく顔を拭いてくれた。そのまま今までと同じ態度で話し続けた。
騎士に憧れていた弟が騎士団に入った、最近鳥がよく鳴いているから繁殖期なのかもしれない、この前リンゴを買ったからアップルパイにして食べたら美味しかったからまた作る。セシリアは声が出ないから一方的な会話ではあったが、どれもセシリアを明るくさせるような、気遣うような声色で話し続けていた。カレンはセシリアを世話をする手を止めた。
「奥様。私はまだまだ若輩者ですが、私たちのような使用人にいちいちお礼を言うような方には会ったことがございません。どんな些細なことでもお礼を言ってくださる奥様に、例え魔力がなくたって、微弱ながら私はついていきたいと、お支えすることが出来たらと専属に自ら名乗りを上げたのです。専属でお仕えしてからも、どうしてか常に奥様が我慢をしているようにしか見えないのです。奥様、少しでいいのです。私を信じて下さいませんか?」
言い終わったあと、縋るような目でセシリアを見上げた。カレンは笑って「せっかく拭いたのにまた泣いちゃうんですか~?」と、揶揄うように言いながらも優しく溢れ出た涙を拭ってくれた。と同時にセシリアは倒れる前のような笑顔をカレンに向けたのだった。だが、カレンはセシリアがどうもおかしいことに気づく。セシリアが本当に何も言わないのだ。少しは声が漏れ出てもいいような笑みなのに何も発さないのだ。
カレンは「奥様……もしかして、お声が出なくなってしまわれたんですか……?」と問いた。そしてセシリアが首肯すると、何かを失ったような顔で走って部屋を出ていってしまった。
しばらくするとカレンは部屋に帰ってきた。
______ブルーノを連れて。
ブルーノは部屋に入ってきてすぐ、
「声が出なくなったのは本当なのか?!?!」
と、大きな声で問いた。セシリアはそんなブルーノの大きな声にびくっとしてしまった。するとカレンが、「突然大きな声を出されたら奥様が驚いてしまいます!」とブルーノに意見を物申しでたのだ。ブルーノは素直に、確かにそうだな、とカレンの意見を聞き、「本当に声が出なくなったのか?」と言い直した。
セシリアがカレンにしたように首肯すると、
「先程は一方的にすまなかった。声が出ないということを知らなかったのだ。」
と頭を下げたのだ。セシリアは驚いた。魔力なしに頭を下げて謝罪をする人など生きてきて初めてだったから。どんなに酷いことをしても、魔力なしだもん仕方ないな、で終わっていたのに。謝罪をされてもなにも言うことが出来ずに首を横に振ると、カレンが枕元の薬に気づいた。
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