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プロローグは仕事中に!?

プロローグは仕事中に!?

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 ―ああ、神様…!本当にありがとう!!

私は周りの人の(怪訝な)目線も気にせず、空に向かって両手を挙げて涙目で微笑んでいた
 なんて事はない平和な日常生活の中で、突然バッと両手を空に向かって挙げる
女性がいればさぞ、怪しい人間が居ると思われるだろうが、
今の私には全く気にならない
なぜなら私は、つい先程まで会社の事務机の前で苦手な書類の計算に悩んでいたのだから…

 私は神村祐子(3●)独身
いわゆる「結婚してない普通のアラサーOL女子」だ。
「女の子には隠し事や秘密がいっぱいよv」なんてこともなく、ごく普通に生活しているが、ただ1つだけ些細な隠し事はある…
それは私が【乙女ゲーム】にハマっているという事だ
別に隠すつもりはなかったが、3●歳を過ぎてくると、仕事もそうだが、
「結婚」の二文字が、やたらとチラつき始め…親戚・友人・会社の上司や同僚…
挙句の果てには隣のおばさんまでもが、私の「最近の恋愛事情」とやらを聞きに来る
《この暇人どもが…(毒)》とは勿論、猫を日々被って過ごす私には言えないので、そんな人たちに対しての答えは対外こうだ
「え?最近ですか?私、声フェチなので、声が《好きな声優さんの声に近かったらベスト!(裏の声)とは言えないけどね?》好みだったら良いですかね~」と中に含みを持たせて、
後は勝手に想像にお任せしているので
恐らくは「恋に奥手な物静かな女子」という
印象を持ってもらえていると思う。(むしろそれで良い)
いくら若く見える日本人でも3●歳を超えた独身女が、「☆☆ゲームの○○ってキャラが好みのタイプで~声(Cv.)もちょっと渋めの××さんのこの声が良いんですよ!」とは胸を張っては言えない…(想像しただけでも引かれるのが目に見えているからね…)


あーあ…あのゲームの世界に行きたいなぁ…行ったらまずは…

 「神村さん、書類出来そう?」気付くと机の向こうから上司がこちらを見ていた。
――― おっといけない
いつもの癖で、仕事中にもかかわらず、もし自分が大好きな某乙女ゲームの主人公だったら、どういう風にその世界で生活していくかを考えていたのだ。勿論、仕事はやりながらなので、ちょっと処理スピードが落ちる位で特に支障はない。
「はい、あと5分以内には出せます!」と答えを返せば上司は特に気にする様子もなく、自分の仕事に戻る。
そろそろ私も仕事に集中しよう…
妄想を中断し、仕事に取り掛かろうと書類に目を向けた時、
プルルル… と会社の電話が鳴ったので、計算をしていた手を止め受話器を取ろうと電話に手を伸ばした―――――と思ったら、フワッと目の前を暖かい風が通り過ぎていった。
突然の風に目を伏せれば会社のデスク(電話前)から景色が一遍し、
緑豊かで花が綺麗に咲き誇る素敵な公園のベンチにポツンと座って居たのだ
しかも受話器を取ろうと伸ばしていた私の手の先には大きな石造りの像が立っていた

―――あれ?電話が無い。
   それにここって…公 園だよね?

 真っ先に疑ったのは夢遊病だ。だが、月に1回必ず来る月の悪魔(生理痛)以外は健康優良児である私にとって、夢遊病とは縁がない
それに、目の前にある石像がどうしても気になり、よく観察する為にベンチから
立ち上がり傍まで行って石像を見上げてみる
その石像の女性は綺麗な刺繍の入ったローブ?レース?のような物を全身に纏い、
背中には天使の羽を大きく広げ佇む
綺麗な女性の石像だった
「わ~ なんて綺麗な石像…」
――はっ!?
そういうば、さっきまで妄想していた
胸キュン乙女ゲームに出てくる石像にそっくりじゃない!?
記念に写真、写真!てか、携帯持ってたっけ?
大好きな乙女ゲームのスチルにそっくりな石像を前にして、テンションが上がりまくり、携帯(あと鞄ね)を探すためにポケットをパタパタと叩きつつ周りを見たら、私を怪訝な目で見ている人と目が合ってしまい
アラサーな私は瞬時に冷静さを取り戻そうとベンチに座る…が、
「ヤバイ!さっきの書類がまだ終わってない!!」思わず冷静さをすっ飛ばして叫んでしまった
 誰かに助けを求めようにも、そもそも何処から来たのかも解らない上に、石像を見て異様にテンションが上がる様な女性(しつこいようだが3●歳)を見ていた人の視線が警戒させてしまったのか、ワザと目線を合わせないようにしているのが感じ取れる
 うぅ、 そりゃあ怪しさ満点よね…
こうなったら、アラサーOLの対応術(テク)をお見せしよう!

胸の前で手を合わせてフッと息を吐く 

「―― 最近、こちらに来たもので…1人でお騒がせしてすみませんでした。」と
アラサー女の熟練とも言える落ち着きで
お辞儀をしつつ微笑み(営業スマイル)を
見せれば、私を怪訝な表情で
見ていた人々から警戒の目が無くなる
 よし、これで少しは怪しまれないだろうと、ひと呼吸してから私は状況を把握するべく再び辺りを軽く見回してみると、
先程の石像の足元に彫られている文字に気が付き再び石像の前に立ってみた

石像には【選ばれし 初代 聖なる神子メルヴェイユの像】と彫られている

「聖なる神子…メルヴェイユ?ってまさかね……」そう呟きながら辺りを見渡す。
すると、よくデートイベントが起きる噴水や憩いのベンチなんかも、
某ゲームと同じ配置で設置されているのが見えた

―夢?  古典的な方法で、頬をつねって夢か確認してみた
---痛い。 夢じゃない!?ってことは考えられる事は1つだけ…

そう、なんと私、神村祐子(3●)は「異世界トリップ」なるものを果たしたようです!!(解説風)

そんなこんなで、冒頭の両手を挙げて神様に感謝している私に戻るのだが、両手を挙げたまま気付いた

―来たは良いけど、どうやって戻るの?てか、戻れるの!?

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