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第3作 ドラゴン・タトゥーの少年 桜の朽木に虫の這うこと(三)
第47話 虚の太刀
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「姫神流・虚の太刀――!」
姫神壱騎は目をつむったまま、かまえた長刀を静かに振った。
「が……」
その剣は森花炉之介の肩口をうがつ。
利き腕のほうだ。
しかも彼は、納刀した状態から完全に抜刀すらできていない。
刃は半分以上、鞘の中へ納まったままなのだ。
「何が……起こった……?」
全盲の剣客はひどく混乱している。
「虚の太刀、お見事……! そして、ありがとうございます、壱騎さん……!」
ウツロは深く平服した。
「とっさに思いついたアイデアだけどね。君のおかげだよ、ウツロ」
姫神壱騎は納刀し、ウツロへ感謝の意を述べた。
「どういうことだよ、いったい? 見えなかったぞ? 刀を振ったとこなんて……」
南柾樹は状況がつかめていない。
「極限まで集中した壱騎さんの勝利だよ。まさに無我の境地、虚の太刀とはよく言ったものだね」
星川雅が解説を入れる。
「勝った、のか……?」
万城目日和もあっけに取られている。
「霊光さん」
「は、静香さま」
三千院静香の合図に、百鬼院霊光がうなずく。
「この勝負、姫神壱騎さんの勝利――っ!」
高らかに宣言すると、 会場がどおっとわき立つ。
みなが若き剣士の戦いぶりに喝采を上げた。
「壱騎さん、よかった……」
「お見事です、壱騎さん……!」
真田龍子と真田虎太郎の姉弟は涙ぐんでいる。
「森さん、すばらしい勝負をありがとうございます」
姫神壱騎は深く一礼した。
「……ない」
「?」
「わたしは、負けていない……!」
なにやらぶつぶつと唱えはじめる。
「見苦しいですよ、森さん。いまのは文句のつけようがない、姫神さんの一本だ」
三千院静香が歩みよりながら牽制する。
「このわたしが、こんなガキごときに、負けるはずがないのだ……!」
だんだんと表情が険しくなってくる。
「言葉を慎みなさい。よもや恥をさらすおつもりですか?」
百鬼院霊光もこちらへとやってくる。
「恥? 恥だって? こんなガキに負けるくらいなら、いっそ、魔道にでも落ちたほうがましだ……!」
遠くのほうで、浅倉兄妹がほくそ笑んだ。
「ふふっ、森のやつ、馬脚を露したわね、兄さん?」
「ああ、卑弥呼。そんなもんさ、しょせん人間なんてな。お仲間の似嵐鏡月とおんなしさ」
「ということは、つまり……」
「うむ。一応、アルトラを出す準備だけはしとくか」
森花炉之介は患部を押さえながら、まがまがしい顔つきをしている。
「森さん、なりません! 父と同じになってはなりません!」
ウツロが叫んだ。
「ふふ、ウツロくん。やはりわたしは、同じのようだ。君の父、そしてわが友である鏡月と。ならば、毒食らわば、皿まで……!」
へらへらと笑いだす。
「なりません! それだけはなりません!」
場の一同は敗北した剣士の狂気におののいた。
「アルトラ、エンジェル・ダスト……!」
姫神壱騎は目をつむったまま、かまえた長刀を静かに振った。
「が……」
その剣は森花炉之介の肩口をうがつ。
利き腕のほうだ。
しかも彼は、納刀した状態から完全に抜刀すらできていない。
刃は半分以上、鞘の中へ納まったままなのだ。
「何が……起こった……?」
全盲の剣客はひどく混乱している。
「虚の太刀、お見事……! そして、ありがとうございます、壱騎さん……!」
ウツロは深く平服した。
「とっさに思いついたアイデアだけどね。君のおかげだよ、ウツロ」
姫神壱騎は納刀し、ウツロへ感謝の意を述べた。
「どういうことだよ、いったい? 見えなかったぞ? 刀を振ったとこなんて……」
南柾樹は状況がつかめていない。
「極限まで集中した壱騎さんの勝利だよ。まさに無我の境地、虚の太刀とはよく言ったものだね」
星川雅が解説を入れる。
「勝った、のか……?」
万城目日和もあっけに取られている。
「霊光さん」
「は、静香さま」
三千院静香の合図に、百鬼院霊光がうなずく。
「この勝負、姫神壱騎さんの勝利――っ!」
高らかに宣言すると、 会場がどおっとわき立つ。
みなが若き剣士の戦いぶりに喝采を上げた。
「壱騎さん、よかった……」
「お見事です、壱騎さん……!」
真田龍子と真田虎太郎の姉弟は涙ぐんでいる。
「森さん、すばらしい勝負をありがとうございます」
姫神壱騎は深く一礼した。
「……ない」
「?」
「わたしは、負けていない……!」
なにやらぶつぶつと唱えはじめる。
「見苦しいですよ、森さん。いまのは文句のつけようがない、姫神さんの一本だ」
三千院静香が歩みよりながら牽制する。
「このわたしが、こんなガキごときに、負けるはずがないのだ……!」
だんだんと表情が険しくなってくる。
「言葉を慎みなさい。よもや恥をさらすおつもりですか?」
百鬼院霊光もこちらへとやってくる。
「恥? 恥だって? こんなガキに負けるくらいなら、いっそ、魔道にでも落ちたほうがましだ……!」
遠くのほうで、浅倉兄妹がほくそ笑んだ。
「ふふっ、森のやつ、馬脚を露したわね、兄さん?」
「ああ、卑弥呼。そんなもんさ、しょせん人間なんてな。お仲間の似嵐鏡月とおんなしさ」
「ということは、つまり……」
「うむ。一応、アルトラを出す準備だけはしとくか」
森花炉之介は患部を押さえながら、まがまがしい顔つきをしている。
「森さん、なりません! 父と同じになってはなりません!」
ウツロが叫んだ。
「ふふ、ウツロくん。やはりわたしは、同じのようだ。君の父、そしてわが友である鏡月と。ならば、毒食らわば、皿まで……!」
へらへらと笑いだす。
「なりません! それだけはなりません!」
場の一同は敗北した剣士の狂気におののいた。
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