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第3作 ドラゴン・タトゥーの少年 桜の朽木に虫の這うこと(三)
第45話 超人
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「森さん、あらためまして、お相手つかまつります」
「……」
森花炉之介は気圧された。
覚醒した姫神壱騎が背負う、あふれんばかりの闘気に。
姫神龍聖、剣聖と呼ばれた彼の父が、まるで乗り移りでもしたかのようだ。
「秘剣・枕返し」
少年剣士が長刀を垂直にかまえる。
全盲の剣客は思った。
何を考えている?
姫神流・枕返しは、一種の視覚的な催眠効果によって相手を幻惑する技のはず。
目の見えない敵に通じるはずがない。
実際に十数年前、わたしは龍聖氏が放ったかの絶技を破っている。
乱心したか、姫神壱騎……!?
「ぐ……」
なんだ?
頭が、痛い……
「ぐ、が……!」
脳天をつんざくかのような激痛だ。
なんだ?
いったいなんなのだ、これは……!?
「自励振動 」
「なんだって、ウツロ?」
「ある振動が、周囲の振動を巻きこむように増幅するという自然現象さ。たとえば風もないのに、煙突がゆらゆらと揺れているときなど、それが起こっているらしい。壱騎さんの場合、秘剣・枕返しによって特殊な周期や波長をもつ振動を生み出し、森の神経系を大気を媒介として揺さぶっているんだろう。名状しがたい絶技、いまあの人は、みずからの技をみずからの手によって進化させたんだ……!」
「バケモノかよ……」
ウツロと南柾樹は生唾をのみこんだ。
「頭が、割れる……!」
森花炉之介は耐え切れず、仕込み杖を地面へと落とした。
「すきありぃ――っ!」
「くっ!」
あわてて腰の刀を抜く。
すんでのところで長刀の袈裟斬りを受け止めた。
「ふう、壱騎さん、わたしはあなたをみくびっていたようだ。たかだかこれだけの時間で、これほどの成長を見せられるとは」
「あなたのおかげです、森さん。あなたが枕返しを破っていてくれたからこそ、さらなるアップグレードがかなったのです」
物見の一同は震えた。
姫神壱騎、なんというすばらしいもののふであることか。
人間の手でこんなことが可能なものなのか……
「こんな孝行はないぞ、龍聖?」
剣神・三千院静香ですら、手に汗を握った。
「参ります、森さん――!」
「なっ……」
相手がどの位置にいるのかがわかる、刀がどの方向から攻撃してくるのかもわかる、いつもと同じだ。
しかし、これは……
「ぐっ――!」
速い、速すぎる……!
動きを完全に捉えているはずなのに、肝心のわたし自身がまるで追いつかない。
あの鏡月ですら、こんな剣戟を放つことは不可能だ。
鏡月……
あいつか?
おまえの息子が、この姫神壱騎にも何かをしたのか……?
ウツロ……!
「どうしました、森さん!? そこまでですか!?」
「くっ……」
使いたくはなかった、しかし、使うしかあるまい、あれを……
森花炉之介はやにわに納刀した。
「臆したのですか、森さん!?」
姫神壱騎が剣を手にとびかかる。
「秘剣・無明の太刀――」
「――っ!?」
少年剣士の腕から、噴水のように鮮血が上がった。
「……」
森花炉之介は気圧された。
覚醒した姫神壱騎が背負う、あふれんばかりの闘気に。
姫神龍聖、剣聖と呼ばれた彼の父が、まるで乗り移りでもしたかのようだ。
「秘剣・枕返し」
少年剣士が長刀を垂直にかまえる。
全盲の剣客は思った。
何を考えている?
姫神流・枕返しは、一種の視覚的な催眠効果によって相手を幻惑する技のはず。
目の見えない敵に通じるはずがない。
実際に十数年前、わたしは龍聖氏が放ったかの絶技を破っている。
乱心したか、姫神壱騎……!?
「ぐ……」
なんだ?
頭が、痛い……
「ぐ、が……!」
脳天をつんざくかのような激痛だ。
なんだ?
いったいなんなのだ、これは……!?
「自励振動 」
「なんだって、ウツロ?」
「ある振動が、周囲の振動を巻きこむように増幅するという自然現象さ。たとえば風もないのに、煙突がゆらゆらと揺れているときなど、それが起こっているらしい。壱騎さんの場合、秘剣・枕返しによって特殊な周期や波長をもつ振動を生み出し、森の神経系を大気を媒介として揺さぶっているんだろう。名状しがたい絶技、いまあの人は、みずからの技をみずからの手によって進化させたんだ……!」
「バケモノかよ……」
ウツロと南柾樹は生唾をのみこんだ。
「頭が、割れる……!」
森花炉之介は耐え切れず、仕込み杖を地面へと落とした。
「すきありぃ――っ!」
「くっ!」
あわてて腰の刀を抜く。
すんでのところで長刀の袈裟斬りを受け止めた。
「ふう、壱騎さん、わたしはあなたをみくびっていたようだ。たかだかこれだけの時間で、これほどの成長を見せられるとは」
「あなたのおかげです、森さん。あなたが枕返しを破っていてくれたからこそ、さらなるアップグレードがかなったのです」
物見の一同は震えた。
姫神壱騎、なんというすばらしいもののふであることか。
人間の手でこんなことが可能なものなのか……
「こんな孝行はないぞ、龍聖?」
剣神・三千院静香ですら、手に汗を握った。
「参ります、森さん――!」
「なっ……」
相手がどの位置にいるのかがわかる、刀がどの方向から攻撃してくるのかもわかる、いつもと同じだ。
しかし、これは……
「ぐっ――!」
速い、速すぎる……!
動きを完全に捉えているはずなのに、肝心のわたし自身がまるで追いつかない。
あの鏡月ですら、こんな剣戟を放つことは不可能だ。
鏡月……
あいつか?
おまえの息子が、この姫神壱騎にも何かをしたのか……?
ウツロ……!
「どうしました、森さん!? そこまでですか!?」
「くっ……」
使いたくはなかった、しかし、使うしかあるまい、あれを……
森花炉之介はやにわに納刀した。
「臆したのですか、森さん!?」
姫神壱騎が剣を手にとびかかる。
「秘剣・無明の太刀――」
「――っ!?」
少年剣士の腕から、噴水のように鮮血が上がった。
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