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第3作 ドラゴン・タトゥーの少年 桜の朽木に虫の這うこと(三)
第43話 開幕
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「こたびの試合、アルトラの使用を許可いたします」
「……」
三千院静香からの提案に、二人の剣士の顔が、懐疑の心にくもった。
「おそれながら静香さま、これは姫神さんとわたしの真剣勝負にございます。しかるにそのご提案、いったいどういう意図にございましょうか?」
森花炉之介が率先してたずねる。
「真剣勝負、だからこそです。お二方とも出し惜しみをしていては、大きな禍根が残るのではないかと思案し、この三千院静香、ご提案いたす次第なのです」
遠くで見守っているウツロたちは思った。
三千院静香、剣神と呼ばれる男らしいが、この方は御前試合を文字どおり殺戮のショーにでもする腹なのか?
そんなふうに焦った。
それに姫神壱騎の父・姫神龍聖は、森花炉之介のアルトラによって亡き者にされたと聞きおよんでいる。
それが何を意味するのか、あの男にわからないはずがないのに……
「俺はかまいません、静香さま。いえ、むしろぜひそうしていただきたく思います」
姫神壱騎は凛として答えた。
「しかしながら姫神さん、わたしの能力は――」
「だからこそです、森さん。俺の父・龍聖はあなたのアルトラによって敗北した。だからこそきっと、これは天が俺に与えた、最大の試練だと思うのです」
まなざしはくもっていない。
その覇気は光を得ない森花炉之介にも伝わった。
「……わたしを倒すことで、父上を乗り越えようと?」
「それも、あるかもしれません……俺とて一個の人間です。父親に勝りたいという欲望は持ちあわせています。しかし、それ以上に……一個の剣士として、さらなる高みに達したいのです。それも欲望と言われればそれまでですが、このわがまま、是が非でも押しとおしたい……!」
「……」
求道者。
三千院静香の脳裏をその単語がよぎった。
この少年は断じて、邪心など持ちあわせてはいない。
言葉どおり純粋な心をもって、強敵に立ち向かいたい。
もののふ、まさに……
龍聖よ、見ているか?
おまえは最高の息子を持ったぞ。
そう思索した。
「心得ました。姫神さんがかまわないというのであれば、わたくしめも」
「気をもませてしまい申し訳ありません。ではお二方、中央へ」
「はっ!」
いよいよ、いよいよはじまるのだ。
会場にあいまみえるすべても者たちが、固唾を飲んで状況を見守った。
「壱騎、心を細くするのですよ? 冷静に」
「母さん、ありがとう」
母・姫神志乃が剣を手渡す。
その懐には短刀を隠しもっていた。
もしものときには、自身も果てる覚悟なのである。
もちろん、それに気がついていない息子ではない。
「壱騎さん、どうか、ご武運を……!」
ウツロたちは強く念じた。
友の勝利を、いや、それは自身に対する勝利であるという意味で。
両者、中央で対峙する。
「いざ尋常に」
「勝負っ――!」
太鼓の音が、桜の森に勢いよくこだました。
「……」
三千院静香からの提案に、二人の剣士の顔が、懐疑の心にくもった。
「おそれながら静香さま、これは姫神さんとわたしの真剣勝負にございます。しかるにそのご提案、いったいどういう意図にございましょうか?」
森花炉之介が率先してたずねる。
「真剣勝負、だからこそです。お二方とも出し惜しみをしていては、大きな禍根が残るのではないかと思案し、この三千院静香、ご提案いたす次第なのです」
遠くで見守っているウツロたちは思った。
三千院静香、剣神と呼ばれる男らしいが、この方は御前試合を文字どおり殺戮のショーにでもする腹なのか?
そんなふうに焦った。
それに姫神壱騎の父・姫神龍聖は、森花炉之介のアルトラによって亡き者にされたと聞きおよんでいる。
それが何を意味するのか、あの男にわからないはずがないのに……
「俺はかまいません、静香さま。いえ、むしろぜひそうしていただきたく思います」
姫神壱騎は凛として答えた。
「しかしながら姫神さん、わたしの能力は――」
「だからこそです、森さん。俺の父・龍聖はあなたのアルトラによって敗北した。だからこそきっと、これは天が俺に与えた、最大の試練だと思うのです」
まなざしはくもっていない。
その覇気は光を得ない森花炉之介にも伝わった。
「……わたしを倒すことで、父上を乗り越えようと?」
「それも、あるかもしれません……俺とて一個の人間です。父親に勝りたいという欲望は持ちあわせています。しかし、それ以上に……一個の剣士として、さらなる高みに達したいのです。それも欲望と言われればそれまでですが、このわがまま、是が非でも押しとおしたい……!」
「……」
求道者。
三千院静香の脳裏をその単語がよぎった。
この少年は断じて、邪心など持ちあわせてはいない。
言葉どおり純粋な心をもって、強敵に立ち向かいたい。
もののふ、まさに……
龍聖よ、見ているか?
おまえは最高の息子を持ったぞ。
そう思索した。
「心得ました。姫神さんがかまわないというのであれば、わたくしめも」
「気をもませてしまい申し訳ありません。ではお二方、中央へ」
「はっ!」
いよいよ、いよいよはじまるのだ。
会場にあいまみえるすべても者たちが、固唾を飲んで状況を見守った。
「壱騎、心を細くするのですよ? 冷静に」
「母さん、ありがとう」
母・姫神志乃が剣を手渡す。
その懐には短刀を隠しもっていた。
もしものときには、自身も果てる覚悟なのである。
もちろん、それに気がついていない息子ではない。
「壱騎さん、どうか、ご武運を……!」
ウツロたちは強く念じた。
友の勝利を、いや、それは自身に対する勝利であるという意味で。
両者、中央で対峙する。
「いざ尋常に」
「勝負っ――!」
太鼓の音が、桜の森に勢いよくこだました。
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