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第3作 ドラゴン・タトゥーの少年 桜の朽木に虫の這うこと(三)
第9話 それぞれの思惑
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「お邪魔しま~す」
ウツロと万城目日和は行きずりの剣士・姫神壱騎を連れ、洋館アパート・さくら館へと帰宅した。
メンバーは思わぬ来客に驚いている。
ウツロたちは一連の流れを簡潔に説明してみせた。
「なるほど、森花炉之介……会ったことはないけれど、全盲ながら居合剣術の達人だとお母さまから聞いているわ。叔父様とはかつての盟友であたことや、塵を操るアルトラ使いであることも」
星川雅は自分の知っている情報も提供した。
「アルトラ、エンジェル・ダスト。自分の頭の中にある映像を、塵に投影して具現化することができるんだ。たとえば大きな剣を作ったり、モンスターみたいなのも再現できたりするんだよ」
姫神壱騎は神妙な面持ちで答えた。
「さすがっていったら失礼かもしれねえが、敵の能力だけにくわしいんすね」
「それはそうだよ、俺の父さんを殺した能力なんだから……」
彼の瞳が一瞬、殺意に光った。
「……わり、そんなつもりはなかったんですよ」
「いや、いいんだ、柾樹くん。気にしないで」
気にしないでと言われても……
南柾樹をはじめ、一同は息の詰まるような緊張感に襲われた。
「ウツロ、あんたのこと、おおかた姫神さんを仲間に加えようって算段なんでしょ? 龍影会と戦おうってのなら、有能な人材は多いに越したことはない」
「おい、雅、そういう言い方はねえだろ? ウツロはただ、姫神さんを不憫に思ってだな……」
星川雅と万城目日和がひと悶着を起こしそうになったが、
「いや、日和、雅の言ったことは、確かに俺が期待していることなんだ。秘密結社・龍影会、一筋縄でいく組織とはとうてい思えない。味方を増やす必要があると、俺は考える」
「ウツロ……」
ウツロの決意に満ちた表情に、南柾樹が気圧されるようにつぶやく。
「姫神さん、軽蔑してもらってもまったくかまわない。俺には、いや、俺たちにはあなたのお力添えが必要なのです。もしよろしければ……」
「その見返りとして、俺の敵討ちに協力してくれるってこと?」
「……」
姫神壱騎はのぞきこむようにクスっと笑った。
「打算的だね、いや、お互いにだけど。いいんじゃない? ウィンウィンってことでさ?」
複雑な状況だ。
両者とも意図に悪意などない。
しかしながら微妙な認識のズレが、互いに利用しているように映してしまう。
気まずい空気が流れた。
「ところでさ」
「え?」
姫神壱騎はつかつかと奥のほうに進んだ。
「君が龍子さん? 素敵だね。ウツロくんが好きなるわけだよ」
彼はその手を取り、ギュッと握った。
「あ……」
真田龍子はそのキラースマイルに思わず顔を赤らめてしまった。
「貴様……!」
ウツロはいやおうなくプッツンする。
「うわっ、こわっ! ウツロ、おめえ見かけにはよらねえな!」
万城目日和が大仰につっこみを入れる。
「その手をお放しなさい、姫神さん……!」
怒髪天の様相である。
「なに? ウツロ、嫉妬してるの?」
真田龍子は姫神壱騎の陰から顔を見せ、ニヤニヤとほほえんだ。
「最近ウツロ、浮気してばっかだし、鞍替えしちゃおっかなあ?」
「……そんな」
「ほらほら、そんな腑抜けた顔、わたし見たくないよ? 人間論はどうしたの?」
「ぐぐぐ……」
ウツロは歯ぎしりをしながら目を血走らせている。
「ね・と・ら・れ……お見事です……!」
真田虎太郎が生唾を飲みながらぼやいた。
「虎太郎くん、君まで……」
ウツロの立場はすっかりと奪われてしまった。
「俺、マンション住まいなんだけど、これからときどき、ここへ遊びにきてもいいかな?」
「もちろんですよ、姫神さん。いつでもいらしてください」
真田龍子はすっかりと乙女になっている。
「あんまりだ……」
ウツロよ、これがモテる者の宿命なのだ、たぶん。
「なんかよくわかんねえけど、面白くなってきやがったぜ」
万城目日和も内心、ちょっと期待するところがあった。
「ま、よろしくっす、姫神さん?」
「ひっかきまわされるのは勘弁だけれどね?」
南柾樹と星川雅も歓迎ムードだ。
この人はいま、状況を察してこんな行動を取ったのだ。
使える、使えるぞ、この人は……
南柾樹はそう思索していたし、星川雅もそれを察していた。
こうしてそれぞれがそれぞれなりに、自身の大願を成就するための準備が、着々と整っている実感を得ていたのだった――
ウツロと万城目日和は行きずりの剣士・姫神壱騎を連れ、洋館アパート・さくら館へと帰宅した。
メンバーは思わぬ来客に驚いている。
ウツロたちは一連の流れを簡潔に説明してみせた。
「なるほど、森花炉之介……会ったことはないけれど、全盲ながら居合剣術の達人だとお母さまから聞いているわ。叔父様とはかつての盟友であたことや、塵を操るアルトラ使いであることも」
星川雅は自分の知っている情報も提供した。
「アルトラ、エンジェル・ダスト。自分の頭の中にある映像を、塵に投影して具現化することができるんだ。たとえば大きな剣を作ったり、モンスターみたいなのも再現できたりするんだよ」
姫神壱騎は神妙な面持ちで答えた。
「さすがっていったら失礼かもしれねえが、敵の能力だけにくわしいんすね」
「それはそうだよ、俺の父さんを殺した能力なんだから……」
彼の瞳が一瞬、殺意に光った。
「……わり、そんなつもりはなかったんですよ」
「いや、いいんだ、柾樹くん。気にしないで」
気にしないでと言われても……
南柾樹をはじめ、一同は息の詰まるような緊張感に襲われた。
「ウツロ、あんたのこと、おおかた姫神さんを仲間に加えようって算段なんでしょ? 龍影会と戦おうってのなら、有能な人材は多いに越したことはない」
「おい、雅、そういう言い方はねえだろ? ウツロはただ、姫神さんを不憫に思ってだな……」
星川雅と万城目日和がひと悶着を起こしそうになったが、
「いや、日和、雅の言ったことは、確かに俺が期待していることなんだ。秘密結社・龍影会、一筋縄でいく組織とはとうてい思えない。味方を増やす必要があると、俺は考える」
「ウツロ……」
ウツロの決意に満ちた表情に、南柾樹が気圧されるようにつぶやく。
「姫神さん、軽蔑してもらってもまったくかまわない。俺には、いや、俺たちにはあなたのお力添えが必要なのです。もしよろしければ……」
「その見返りとして、俺の敵討ちに協力してくれるってこと?」
「……」
姫神壱騎はのぞきこむようにクスっと笑った。
「打算的だね、いや、お互いにだけど。いいんじゃない? ウィンウィンってことでさ?」
複雑な状況だ。
両者とも意図に悪意などない。
しかしながら微妙な認識のズレが、互いに利用しているように映してしまう。
気まずい空気が流れた。
「ところでさ」
「え?」
姫神壱騎はつかつかと奥のほうに進んだ。
「君が龍子さん? 素敵だね。ウツロくんが好きなるわけだよ」
彼はその手を取り、ギュッと握った。
「あ……」
真田龍子はそのキラースマイルに思わず顔を赤らめてしまった。
「貴様……!」
ウツロはいやおうなくプッツンする。
「うわっ、こわっ! ウツロ、おめえ見かけにはよらねえな!」
万城目日和が大仰につっこみを入れる。
「その手をお放しなさい、姫神さん……!」
怒髪天の様相である。
「なに? ウツロ、嫉妬してるの?」
真田龍子は姫神壱騎の陰から顔を見せ、ニヤニヤとほほえんだ。
「最近ウツロ、浮気してばっかだし、鞍替えしちゃおっかなあ?」
「……そんな」
「ほらほら、そんな腑抜けた顔、わたし見たくないよ? 人間論はどうしたの?」
「ぐぐぐ……」
ウツロは歯ぎしりをしながら目を血走らせている。
「ね・と・ら・れ……お見事です……!」
真田虎太郎が生唾を飲みながらぼやいた。
「虎太郎くん、君まで……」
ウツロの立場はすっかりと奪われてしまった。
「俺、マンション住まいなんだけど、これからときどき、ここへ遊びにきてもいいかな?」
「もちろんですよ、姫神さん。いつでもいらしてください」
真田龍子はすっかりと乙女になっている。
「あんまりだ……」
ウツロよ、これがモテる者の宿命なのだ、たぶん。
「なんかよくわかんねえけど、面白くなってきやがったぜ」
万城目日和も内心、ちょっと期待するところがあった。
「ま、よろしくっす、姫神さん?」
「ひっかきまわされるのは勘弁だけれどね?」
南柾樹と星川雅も歓迎ムードだ。
この人はいま、状況を察してこんな行動を取ったのだ。
使える、使えるぞ、この人は……
南柾樹はそう思索していたし、星川雅もそれを察していた。
こうしてそれぞれがそれぞれなりに、自身の大願を成就するための準備が、着々と整っている実感を得ていたのだった――
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