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第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)
第78話 アオハル・イン・チェインズ
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日が落ちてきたころ。
ウツロと真田龍子は、そろって中庭のウッドデッキに腰かけていた。
短い間にいろいろなことが起こりすぎ、二人ともくたくたに疲れている。
「そう、柾樹が……」
「驚かないの?」
「なんだか、慣れてきちゃって……」
南柾樹が龍影会の総帥の息子だった。
その事実を聞かされても、愕然とする反面、態度に表す気力がわいてこない。
「でも、スパイではないんだよね?」
「それは、確かなようだね。俺は柾樹を信じるよ」
ウツロの柾樹への疑念がきっかけとなり、真田龍子とは一度、仲たがいをしている。
彼女はそれを思い出すことを気にかけつつも、確認しておかないという選択肢を取ることができなかった。
ジレンマであるとはいえ、彼らの胸中は複雑だ。
「ごめんねウツロ、あんなことしちゃって……」
「いいんだよ龍子、俺が原因を作ったんだし」
「ほらまた、何でもかんでも自分が悪いって考え、よくないよ?」
「そうは行っても、ね。こればかりは性分なんだからさ」
「もう一回、バカになる?」
「ん……」
手を重ねられて、ウツロはさきほどまでのやり取りを思い出し、また体が熱くなった。
はじめてから数えて何回目か。
年齢相応とはいえ、燃え盛る炎を押さえつけることができない。
「どうするのウツロ? わたしも連れて行ってくれるの? その天国ってところへ?」
「男のエゴなのかもしれないけどね」
「ふ~ん」
真田龍子はウツロのほうへ寄りかかった。
「わたしはもう、天国にいるんだけどね?」
「龍子……」
ブレーキが吹っ飛んだように、二人の心は加速した。
「君を、幸せにしたいんだ」
「嘘ばっかり」
「エゴ、かな……?」
「幸せにしたいのは、自分自身のほうでしょ? 昭和男」
「んん……」
魔性が誘惑する。
いや、それもエゴなのかもしれない。
少年は耐えきれなかった。
「行っちゃいなよ、天国」
「龍子……っ!」
「ふふっ、かわいい、ウツロ」
「無体だな、龍子……」
「どっちが」
冷え切った空間に、熱の塊がひとつ。
「あ」
「雪……」
ひらひらと落ちてくる。
それはまるで、白い桜のような。
「桜の朽木に虫の這うこと、か……」
「また言ってるし」
「悪いかよ」
真田龍子は立ち上がった。
「部屋、行こ」
ウツロのほうへ手が差し伸べられる。
「パッパラパーにしてあげるよ?」
「……」
「天国はこの世のいたるところにあり」
「なんだよ、それ……」
「わかってるくせに、この毒虫野郎?」
「ん……」
ウツロはそそくさと、真田龍子のあとにしたがった。
鉄格子の中にも青春あり。
枷と鎖につながれていても、アオハルはあるのだ。
旅に疲れては杖を休めるように、彼らはしばし、安らぎの場を求めることにした。
ちらほらと降り注ぐ雪が、二人の想いによりそっているかのようだった――
ウツロと真田龍子は、そろって中庭のウッドデッキに腰かけていた。
短い間にいろいろなことが起こりすぎ、二人ともくたくたに疲れている。
「そう、柾樹が……」
「驚かないの?」
「なんだか、慣れてきちゃって……」
南柾樹が龍影会の総帥の息子だった。
その事実を聞かされても、愕然とする反面、態度に表す気力がわいてこない。
「でも、スパイではないんだよね?」
「それは、確かなようだね。俺は柾樹を信じるよ」
ウツロの柾樹への疑念がきっかけとなり、真田龍子とは一度、仲たがいをしている。
彼女はそれを思い出すことを気にかけつつも、確認しておかないという選択肢を取ることができなかった。
ジレンマであるとはいえ、彼らの胸中は複雑だ。
「ごめんねウツロ、あんなことしちゃって……」
「いいんだよ龍子、俺が原因を作ったんだし」
「ほらまた、何でもかんでも自分が悪いって考え、よくないよ?」
「そうは行っても、ね。こればかりは性分なんだからさ」
「もう一回、バカになる?」
「ん……」
手を重ねられて、ウツロはさきほどまでのやり取りを思い出し、また体が熱くなった。
はじめてから数えて何回目か。
年齢相応とはいえ、燃え盛る炎を押さえつけることができない。
「どうするのウツロ? わたしも連れて行ってくれるの? その天国ってところへ?」
「男のエゴなのかもしれないけどね」
「ふ~ん」
真田龍子はウツロのほうへ寄りかかった。
「わたしはもう、天国にいるんだけどね?」
「龍子……」
ブレーキが吹っ飛んだように、二人の心は加速した。
「君を、幸せにしたいんだ」
「嘘ばっかり」
「エゴ、かな……?」
「幸せにしたいのは、自分自身のほうでしょ? 昭和男」
「んん……」
魔性が誘惑する。
いや、それもエゴなのかもしれない。
少年は耐えきれなかった。
「行っちゃいなよ、天国」
「龍子……っ!」
「ふふっ、かわいい、ウツロ」
「無体だな、龍子……」
「どっちが」
冷え切った空間に、熱の塊がひとつ。
「あ」
「雪……」
ひらひらと落ちてくる。
それはまるで、白い桜のような。
「桜の朽木に虫の這うこと、か……」
「また言ってるし」
「悪いかよ」
真田龍子は立ち上がった。
「部屋、行こ」
ウツロのほうへ手が差し伸べられる。
「パッパラパーにしてあげるよ?」
「……」
「天国はこの世のいたるところにあり」
「なんだよ、それ……」
「わかってるくせに、この毒虫野郎?」
「ん……」
ウツロはそそくさと、真田龍子のあとにしたがった。
鉄格子の中にも青春あり。
枷と鎖につながれていても、アオハルはあるのだ。
旅に疲れては杖を休めるように、彼らはしばし、安らぎの場を求めることにした。
ちらほらと降り注ぐ雪が、二人の想いによりそっているかのようだった――
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