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第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)
第77話 帝王への道
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「雅と済ませてきたんだな」
入室した南柾樹に、ウツロは意趣返しを見舞った。
「鼻がいいよな、ほんと」
南柾樹は予想していたとばかりにほほえみ、ウツロのとなりへと座った。
「ここ最近の様子の変化、気づいていたよ。何があったんだ、柾樹?」
「単刀直入だな。おまえこそ変わったんじゃね、ウツロ?」
「アップグレードであることを祈るよ」
「いいね、それ。そうでなきゃな、おまえはよ」
「じらさないで、教えてくれないか?」
「じゃあ、俺も直球で行くぜ?」
「頼む」
南柾樹はウツロのほうへ顔を寄せた。
「総帥の息子なんだってよ、俺」
「……」
「この国を陰で牛耳る組織・龍影会のナンバー・ワン、その男の息子だってことだ、俺がね」
「そんな、柾樹……」
にわかには信じがたい内容に、ウツロはたじろいだ。
「少し前から、氷潟にいろいろと聞かされてたんだ。それで河川敷にいたってわけ。どう思う、ウツロ? 俺が何を考えてるか、想像つく?」
ウツロは生唾をのみ、好戦的な表情を作った。
「……めぐってきたな、柾樹」
「……」
南柾樹は腹をかかえ、盛大に笑い出す。
「ちょ、どうしたウツロ!? 軽蔑すると思ったのに! 曲がったとか言うんじゃねえかとひやひやしてたんだぜ!?」
「柾樹よ、これは奇跡的なめぐりあわせだと思うんだ。おまえが龍影会の総帥の子どもで、俺はと言えば似嵐の血を受け継いでいる。何かが引き合ったのか……いずれにしても、ただごとではない」
「どうしようか、ウツロ。世界征服とか、しちゃう?」
「子どもじみているな、しかし、それがいい……!」
「ウツロ、おまえほんとに変わったよな」
「間違えるな柾樹、アップグレードだ。俺にだって、まっとうな野心くらいある」
「野心ねえ、しびれるぜ。どうする? 俺といっしょに地獄を見る覚悟はあるか?」
「失うものはきっと多いんだろう。しかしだ柾樹、船が用意されていてそれに乗らないという選択をするほど、俺は人間ができてはいない」
彼は再び腹をかかえた。
「でた、人間! そうじゃなくちゃよ、ウツロ。行こうぜ、天国によ?」
「そこへ俺を導いてくれよ? 閣下?」
こんなふうにしばらく、二人は談笑していた。
未来の帝王とその右腕を祝福するように、窓からさわやかな秋風が注ぎこんでいた――
入室した南柾樹に、ウツロは意趣返しを見舞った。
「鼻がいいよな、ほんと」
南柾樹は予想していたとばかりにほほえみ、ウツロのとなりへと座った。
「ここ最近の様子の変化、気づいていたよ。何があったんだ、柾樹?」
「単刀直入だな。おまえこそ変わったんじゃね、ウツロ?」
「アップグレードであることを祈るよ」
「いいね、それ。そうでなきゃな、おまえはよ」
「じらさないで、教えてくれないか?」
「じゃあ、俺も直球で行くぜ?」
「頼む」
南柾樹はウツロのほうへ顔を寄せた。
「総帥の息子なんだってよ、俺」
「……」
「この国を陰で牛耳る組織・龍影会のナンバー・ワン、その男の息子だってことだ、俺がね」
「そんな、柾樹……」
にわかには信じがたい内容に、ウツロはたじろいだ。
「少し前から、氷潟にいろいろと聞かされてたんだ。それで河川敷にいたってわけ。どう思う、ウツロ? 俺が何を考えてるか、想像つく?」
ウツロは生唾をのみ、好戦的な表情を作った。
「……めぐってきたな、柾樹」
「……」
南柾樹は腹をかかえ、盛大に笑い出す。
「ちょ、どうしたウツロ!? 軽蔑すると思ったのに! 曲がったとか言うんじゃねえかとひやひやしてたんだぜ!?」
「柾樹よ、これは奇跡的なめぐりあわせだと思うんだ。おまえが龍影会の総帥の子どもで、俺はと言えば似嵐の血を受け継いでいる。何かが引き合ったのか……いずれにしても、ただごとではない」
「どうしようか、ウツロ。世界征服とか、しちゃう?」
「子どもじみているな、しかし、それがいい……!」
「ウツロ、おまえほんとに変わったよな」
「間違えるな柾樹、アップグレードだ。俺にだって、まっとうな野心くらいある」
「野心ねえ、しびれるぜ。どうする? 俺といっしょに地獄を見る覚悟はあるか?」
「失うものはきっと多いんだろう。しかしだ柾樹、船が用意されていてそれに乗らないという選択をするほど、俺は人間ができてはいない」
彼は再び腹をかかえた。
「でた、人間! そうじゃなくちゃよ、ウツロ。行こうぜ、天国によ?」
「そこへ俺を導いてくれよ? 閣下?」
こんなふうにしばらく、二人は談笑していた。
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