桜の朽木に虫の這うこと

朽木桜斎

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第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)

第71話 ウツロ VS 星川皐月

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「推して参ります、伯母さま……!」

「ウツロ、この毒虫が! かかってこいやあああああっ!」

 こうしてウツロと星川皐月ほしかわ さつき、甥と伯母の対決は開始されたのである。

「ウツロさん……」

 真田虎太郎さなだ こたろうは険しい表情でそれを見守っている。

「秘剣・纏旋風まといつむじっ!」

 星川皐月が回転しながらウツロへと襲いかかる。

「はっ!」

 ウツロは再び跳躍し、伯母の上空を取った。

 すでにこの技を彼は何度も目にしているし、台風に対して「目」を狙うのは必定である。

「バ~カ、二度も食らうかよ! 二の秘剣・軋車きしりぐるまあっ!」

「くっ――!」

 星川皐月は回転の仕方を変え、ドリルのように上方を抉った。

 ウツロはその攻撃をなぎ、間合いを取って着地する。

「対空の攻撃は想定してなかったか? 論外なんだよ、兵法家としてな。そんなんでよくも、似嵐を名乗ろうと思ったよな。あ、ウツロ?」

 伯母は大刀を肩でトントンとさせながら、甥の未熟さを指摘した。

 しかし、この程度で折れるいまのウツロではない。

「確かに、俺はまだまだ未熟です、あらゆる面において。しかしながら伯母さま、俺は強くなると宣言します。それはすなわち、おのれの弱さと向き合うことによって……!」

 弱さと向き合うことこそ、強さを生み出す。

 ウツロの信じる考え方であり、意志であった。

 それは誰あろう、父・鏡月や兄・アクタから、その命と引きかえに学んだことでもあった。

「な~に、ごちゃごちゃ抜かしてんだか。まさに虫ケラの思想だよな? 生まれつき強いやつが、一番強いに決まってんだろうがよ? わたしのようにな、はははっ!」

 星川皐月は肩を震わせてケタケタと笑った。

「残念です、伯母さま。おそらくそれが、あなたの唯一にして、最大の弱点だ……」

「はあ? 何を言って――」

 体がモゾモゾする。

 肉体の内側から何かが、外側へ向かってのぼってくるような感覚がある。

「な、なんだ……?」

 両腕の皮膚が盛り上がり、血しぶきを伴って爆ぜた。

「ぐ、が……」

 コンクリートの上におぞましい生き物たちがドバドバと落下していく。

「ガの卵を植えつけておきました。先ほどあなたから攻撃を受けたときにね。それでもう、刀を振るうことは難しいでしょう」

 女医は脇を押さえて止血を試みた。

 出血の量は減ったものの、これではまともに力を出すことなどかなわない。

「ああ、きもっ、きも……わたしによくもこんな真似を……ああ、屈辱だわ、ウツロ……あんたなんかに劣勢を敷かれるなんてね。さてさて、どうしてくれようか……」

 彼女は必死になって考えていた。

 この状況をいかにして打開するかを。

「皐月先生! もうやめてください! 先生もウツロさんも、もうボロボロです! これ以上の争いは無意味です! どうか、どうか!」

「虎太郎くん……」

 真田虎太郎はこのように提案した。

 ウツロは思い出した。

 父のときもそうだったと。

 この光のような勇気は、どこからやってくるのか?

 彼にはそれがやさしく、輝かしく、そしてまた、何よりも頼もしかった。

「申し訳ないけれど虎太郎くん、わたしはいまこの場で、その毒虫クソ野郎をぶち殺すことに決めているの。これは確定事項なのよ、ブレるわけないじゃない?」

「ならば、伯母さま――」

「死ね、ウツロおっ――!」

 真田虎太郎の駆け引きもむなしく、二人はやはり激突した。

「うっ……」

 女医の首筋に、ボールペンのような物体が突き刺さった。

「これ、は……」

 甍田美吉良いらかだ よしきらに手に、小型の銃が握られている。

「対アルトラ使い用に開発された筋肉弛緩剤。皐月、申し訳ないけれど、それでしばらく眠っていてちょうだい」

「ぐ、よし、きら……」

 星川皐月は白目をむき、その場へと倒れ込んだ――
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