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第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)
第69話 マディ・ウォー
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「アルトラ、マディ・ウォー」
ウツロと万城目日和の垂れ流した大量の血が、赤い兵隊と化して星川皐月の周りを取り囲んだ。
その風体は冠をかぶったがいこつのように見える。
「おのれ、美吉良あああああっ!」
がいこつの軍勢は、手にしている「槍」を、激高する女医のほうへとかざしている。
「ふん、こんなものっ――!」
星川皐月は回転し、片方の柳葉刀で一気にそれらを薙ぎ払った。
だが、一度は形が崩れたものの、軍勢はすぐに元の形へと戻っていく。
「皐月、あなた、よほど頭に血がのぼっているようね? 液体を自在に操るわたしの能力、あなたならよく知っているはずよ?」
「はあ、わたしとしたことが……落ち着け、落ち着け……」
「どうする? おとなしく投降すれば、ここであったことは内密にしてあげるけど?」
「てめぇに屈服するくらいなら美吉良、ボノボと所帯でも持ったほうがマシだっつーの」
「ふん、残念ね。それじゃあダメ押しと行きましょうか?」
「はあ? なんだって?」
落ちていた小さなコンクリートの破片を、甍田美吉良はパンプスの先に乗せ、上方へ高く蹴り上げた。
「っ!?」
パキっと破裂音がして、天井から勢いよく水が噴射される。
「ちいっ、スプリンクラーか!」
大量の水は地面へ落ちたそばから、もぞもぞとうごめきだす。
「わたしのマディ・ウォーは、液体であればどんな物体でも操ることができる。そしてその能力の強さは、液体の量に正比例する」
「もがっ……」
水球が女医を包み込む。
「ごがっ、ごぼ……」
たちどころに彼女は、呼吸すら満足にできない状況へと陥った。
「それなら頭も冷えるでしょう? 皐月……」
甍田美吉良は、自分の放った言葉にハッとした。
「ごがあっ――!?」
緑色の拳が、彼女の腹部へめり込んだ。
「ごふっ……」
そのまま後方の鉄扉へと叩きつけられる。
「ふう」
水球が崩れていく。
「あんたバカ? ありがとうね、わざわざわたしを冷静にしてくれて」
「ごふっ、ごふ……」
甍田美吉良は吐血し、患部を押さえている。
「ふん、親子そろって詰めが甘いわね? 閣下にはこう伝えておくわ。兵部卿は娘かわいさに乱心したため、わたしが手打ちにしました、ってね? これで一族が守ってきたポストも、取り戻せるかもしれないわねえ。ほほっ、ほほほ!」
星川皐月はワルプルギスの拳を握りしめた。
「ふう、皐月、詰めが甘いのはどっちかしら? あなたは確かに天下無敵だけれど、頭に血がのぼると何も見えなくなるのが、唯一の弱点ね」
「はあ? 何言ってんの? まさか、命乞いとか? ぷぷっ!」
「わたしとしたことが、焼きが回ったかもしれないわね。らしくないことをした」
「だからいったい、何を言って――」
強烈な殺気が、女医の脳天を貫いた。
「ごふっ――!?」
振り返ったその瞬間、甲殻の拳が腹へめり込んだ。
「ふう」
「ぐ、ぐがっ……」
ウツロだ。
再生能力を持つ虫の細胞を全身へ巡りわたらせ、いたんだ部分を治癒していたのだ。
「間に合ったようね、ウツロくん?」
甍田美吉良は安堵した顔だ。
「時間稼ぎ感謝いたします、兵部卿殿」
「ふっ」
星川皐月は髪の毛を振り乱し、怒りの形相を浮かべている。
「おのれ、ウツロ……!」
毒虫の戦士はあらためて、凛として宣言した。
「似嵐ウツロ、復活――!」
ウツロと万城目日和の垂れ流した大量の血が、赤い兵隊と化して星川皐月の周りを取り囲んだ。
その風体は冠をかぶったがいこつのように見える。
「おのれ、美吉良あああああっ!」
がいこつの軍勢は、手にしている「槍」を、激高する女医のほうへとかざしている。
「ふん、こんなものっ――!」
星川皐月は回転し、片方の柳葉刀で一気にそれらを薙ぎ払った。
だが、一度は形が崩れたものの、軍勢はすぐに元の形へと戻っていく。
「皐月、あなた、よほど頭に血がのぼっているようね? 液体を自在に操るわたしの能力、あなたならよく知っているはずよ?」
「はあ、わたしとしたことが……落ち着け、落ち着け……」
「どうする? おとなしく投降すれば、ここであったことは内密にしてあげるけど?」
「てめぇに屈服するくらいなら美吉良、ボノボと所帯でも持ったほうがマシだっつーの」
「ふん、残念ね。それじゃあダメ押しと行きましょうか?」
「はあ? なんだって?」
落ちていた小さなコンクリートの破片を、甍田美吉良はパンプスの先に乗せ、上方へ高く蹴り上げた。
「っ!?」
パキっと破裂音がして、天井から勢いよく水が噴射される。
「ちいっ、スプリンクラーか!」
大量の水は地面へ落ちたそばから、もぞもぞとうごめきだす。
「わたしのマディ・ウォーは、液体であればどんな物体でも操ることができる。そしてその能力の強さは、液体の量に正比例する」
「もがっ……」
水球が女医を包み込む。
「ごがっ、ごぼ……」
たちどころに彼女は、呼吸すら満足にできない状況へと陥った。
「それなら頭も冷えるでしょう? 皐月……」
甍田美吉良は、自分の放った言葉にハッとした。
「ごがあっ――!?」
緑色の拳が、彼女の腹部へめり込んだ。
「ごふっ……」
そのまま後方の鉄扉へと叩きつけられる。
「ふう」
水球が崩れていく。
「あんたバカ? ありがとうね、わざわざわたしを冷静にしてくれて」
「ごふっ、ごふ……」
甍田美吉良は吐血し、患部を押さえている。
「ふん、親子そろって詰めが甘いわね? 閣下にはこう伝えておくわ。兵部卿は娘かわいさに乱心したため、わたしが手打ちにしました、ってね? これで一族が守ってきたポストも、取り戻せるかもしれないわねえ。ほほっ、ほほほ!」
星川皐月はワルプルギスの拳を握りしめた。
「ふう、皐月、詰めが甘いのはどっちかしら? あなたは確かに天下無敵だけれど、頭に血がのぼると何も見えなくなるのが、唯一の弱点ね」
「はあ? 何言ってんの? まさか、命乞いとか? ぷぷっ!」
「わたしとしたことが、焼きが回ったかもしれないわね。らしくないことをした」
「だからいったい、何を言って――」
強烈な殺気が、女医の脳天を貫いた。
「ごふっ――!?」
振り返ったその瞬間、甲殻の拳が腹へめり込んだ。
「ふう」
「ぐ、ぐがっ……」
ウツロだ。
再生能力を持つ虫の細胞を全身へ巡りわたらせ、いたんだ部分を治癒していたのだ。
「間に合ったようね、ウツロくん?」
甍田美吉良は安堵した顔だ。
「時間稼ぎ感謝いたします、兵部卿殿」
「ふっ」
星川皐月は髪の毛を振り乱し、怒りの形相を浮かべている。
「おのれ、ウツロ……!」
毒虫の戦士はあらためて、凛として宣言した。
「似嵐ウツロ、復活――!」
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