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第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)
第67話 帰ってきた招かれざる客
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「イージスっ……!」
ウツロの体が、緑色の光に包まれた。
「は……?」
大刀をはじき返された星川皐月は、声のした後ろをひょっこりと振り返った。
真田虎太郎。
バリアを張るアルトラを使ったのだ。
「虎太郎くん、いけない……! 逃げるんだ……!」
ウツロは刀にすがりながら、必死になって叫んだ。
しかし少年は、実に凛然としている。
「ウツロさん! GPSアプリの動きからこの状況を知り、ここまでやってきたのです! もうすぐ湊さんたちが、特生対のメンバーを率いて応援に来る手はずになっています!」
「虎太郎くん……」
救助が来るとの知らせに、ウツロはホッとした。
しかしいっぽうで、危険な状況に変わりはない。
彼は狂気の女医に立ち向かう少年が心配でならなかった。
真田虎太郎は例によって目を丸くし、体を震わせながら、星川皐月のほうを見つめている。
「虎太郎く~ん、邪魔しちゃあダメじゃないの。それよりも何よりも、見ちゃったわね? せっかくあなたには、秘密にしてたのにさあ」
「皐月先生、こんなことは、やめてください……!」
「あらあら~、虎太郎くん。あなただけは、殺したくはないわ、ねっ――!」
「――っ!?」
そう言いながらも、彼女は片方の柳葉刀を、少年のほうへ投げつけた。
「イージス!」
刀は再び弾かれ、カランと脇のほうへ転がった。
「ふん、軽蔑したかしら? あなたの前では『いい人』を演じていたにすぎないってわけよ」
「そんなことはありません! 皐月先生はすばらしいお医者さんです! だからこそ、こんなことはもう、やめてください!」
「あら、わたしの何がわかるっていうの? 虎太郎くん、あなたも鏡月から、さんざんいびられたそうじゃない。まったく、クソだったわよ、あいつは。わが弟ながら、情けないかぎりだわ。虎太郎くん、あなたはさて、どうなのかしらねえ?」
「……」
以前から気になって思索していたこと、姉と弟の関係。
星川皐月と似嵐鏡月の姉弟、そして真田龍子と自分。
それをどうしても対比して考えてしまう。
姉さん……
真田虎太郎は遠目に、「ステージ」の上で気絶している姉を見た。
いや、自分は違う。
僕は、姉さんを守る……!」
それだけは断じて変わらない。
彼はあらためてそう決意し、目の前にいる「もうひとりの姉」を見つめた。
「は~あ、なんだか興を失ってきたわ。ま、こいつをぶち殺すってことだけは、変わらないけどねっ――!」
星川皐月はウツロのほうへ向き直り、片方だけになった大刀を勢いよく振り下ろした。
「なんの、イージスっ!」
「くっ……!」
切っ先がまた弾かれそうになるも、殺意の女医は力技で、緑色のバリアに刀を食い込ませようとする。
「皐月先生、何度でも言います! こんなことはもう、おやめください!」
決然と言い放つ真田虎太郎に、星川皐月は狂気のまなざしを送った。
「虎太郎くん、あなた、ウツロに出会ってから、ずいぶんと変わったわよね? 蚊トンボが獅子にとは、まさにこれだわよ。いいでしょう、あなたがそう来るのなら、こちらも相応の態度を取るのが礼儀よねえ?」
彼女は口角をつり上げた。
「ワルプルギスっ!」
再びおどろおどろしい「手」が姿を現す。
それはウツロを守っているバリアをつかみ上げた。
「あはは、虎太郎くん! こんなちゃちなもの、握りつぶりしてあげるわ!」
「ぬぬっ……!」
真田虎太郎はがんばって、アルトラのパワーをアップさせた。
しかし悲しいかな、これは完全に時間の問題である。
彼の精神力が尽き果て、結界が破られるのは目に見えていた。
それこそが星川皐月の狙いであり、真田虎太郎の限界でもあった。
「虎太郎くん、もういい! 君だけでも、逃げるんだ……!」
ウツロの意識はすでに遠くなってきている。
かすれるような声をかけるのが精いっぱいだった。
「あはは、ウツロお! あなたとそこのトカゲを始末したら、虎太郎くんもすぐに送ってあげるわよお! あなたの大切なものは、ぜ~んぶ粉々にしてやるんだから! それこそ、あなたのパパがそうしたようにねえ! あはっ、ははは!」
「ぐっ……」
ウツロは屈辱の極みだったが、もはや抵抗する力など残されてはいない。
真田虎太郎の能力にすがっているだけにすぎなかった。
「ウツロさん、すみません……! 僕は、もう、ダメです……!」
バリアがどんどんと薄れていく。
ウツロも真田虎太郎も、最後を迎えることを覚悟した。
「あははっ、取った! 死ねえ、ウツロおおおおおっ!」
ワルプルギスの拳が、一気に力を加える。
「そこまでよ、皐月」
また背後から声。
今度は中年の女性のようだ。
ウツロと真田虎太郎、そして星川皐月。
みなが一様に、倉庫の入口に視線を送った。
「その子の言うとおり、これ以上の無駄な行動は、わたしが許可しないわ」
すらりとした体形に、黒いスーツを身にまとった女性。
腕を組み、ナイフのようなまなざしを送っている。
ウツロと真田虎太郎は同様に思った。
テレビでよく見る顔、内閣防衛大臣・甍田美吉良、その人である。
秘密結社・龍影会の大幹部・七卿の一角・兵部卿。
そして、刀子朱利の母。
「美吉良あああああっ……!」
星川皐月の顔面が、またマグマのようにゆがんだ――
ウツロの体が、緑色の光に包まれた。
「は……?」
大刀をはじき返された星川皐月は、声のした後ろをひょっこりと振り返った。
真田虎太郎。
バリアを張るアルトラを使ったのだ。
「虎太郎くん、いけない……! 逃げるんだ……!」
ウツロは刀にすがりながら、必死になって叫んだ。
しかし少年は、実に凛然としている。
「ウツロさん! GPSアプリの動きからこの状況を知り、ここまでやってきたのです! もうすぐ湊さんたちが、特生対のメンバーを率いて応援に来る手はずになっています!」
「虎太郎くん……」
救助が来るとの知らせに、ウツロはホッとした。
しかしいっぽうで、危険な状況に変わりはない。
彼は狂気の女医に立ち向かう少年が心配でならなかった。
真田虎太郎は例によって目を丸くし、体を震わせながら、星川皐月のほうを見つめている。
「虎太郎く~ん、邪魔しちゃあダメじゃないの。それよりも何よりも、見ちゃったわね? せっかくあなたには、秘密にしてたのにさあ」
「皐月先生、こんなことは、やめてください……!」
「あらあら~、虎太郎くん。あなただけは、殺したくはないわ、ねっ――!」
「――っ!?」
そう言いながらも、彼女は片方の柳葉刀を、少年のほうへ投げつけた。
「イージス!」
刀は再び弾かれ、カランと脇のほうへ転がった。
「ふん、軽蔑したかしら? あなたの前では『いい人』を演じていたにすぎないってわけよ」
「そんなことはありません! 皐月先生はすばらしいお医者さんです! だからこそ、こんなことはもう、やめてください!」
「あら、わたしの何がわかるっていうの? 虎太郎くん、あなたも鏡月から、さんざんいびられたそうじゃない。まったく、クソだったわよ、あいつは。わが弟ながら、情けないかぎりだわ。虎太郎くん、あなたはさて、どうなのかしらねえ?」
「……」
以前から気になって思索していたこと、姉と弟の関係。
星川皐月と似嵐鏡月の姉弟、そして真田龍子と自分。
それをどうしても対比して考えてしまう。
姉さん……
真田虎太郎は遠目に、「ステージ」の上で気絶している姉を見た。
いや、自分は違う。
僕は、姉さんを守る……!」
それだけは断じて変わらない。
彼はあらためてそう決意し、目の前にいる「もうひとりの姉」を見つめた。
「は~あ、なんだか興を失ってきたわ。ま、こいつをぶち殺すってことだけは、変わらないけどねっ――!」
星川皐月はウツロのほうへ向き直り、片方だけになった大刀を勢いよく振り下ろした。
「なんの、イージスっ!」
「くっ……!」
切っ先がまた弾かれそうになるも、殺意の女医は力技で、緑色のバリアに刀を食い込ませようとする。
「皐月先生、何度でも言います! こんなことはもう、おやめください!」
決然と言い放つ真田虎太郎に、星川皐月は狂気のまなざしを送った。
「虎太郎くん、あなた、ウツロに出会ってから、ずいぶんと変わったわよね? 蚊トンボが獅子にとは、まさにこれだわよ。いいでしょう、あなたがそう来るのなら、こちらも相応の態度を取るのが礼儀よねえ?」
彼女は口角をつり上げた。
「ワルプルギスっ!」
再びおどろおどろしい「手」が姿を現す。
それはウツロを守っているバリアをつかみ上げた。
「あはは、虎太郎くん! こんなちゃちなもの、握りつぶりしてあげるわ!」
「ぬぬっ……!」
真田虎太郎はがんばって、アルトラのパワーをアップさせた。
しかし悲しいかな、これは完全に時間の問題である。
彼の精神力が尽き果て、結界が破られるのは目に見えていた。
それこそが星川皐月の狙いであり、真田虎太郎の限界でもあった。
「虎太郎くん、もういい! 君だけでも、逃げるんだ……!」
ウツロの意識はすでに遠くなってきている。
かすれるような声をかけるのが精いっぱいだった。
「あはは、ウツロお! あなたとそこのトカゲを始末したら、虎太郎くんもすぐに送ってあげるわよお! あなたの大切なものは、ぜ~んぶ粉々にしてやるんだから! それこそ、あなたのパパがそうしたようにねえ! あはっ、ははは!」
「ぐっ……」
ウツロは屈辱の極みだったが、もはや抵抗する力など残されてはいない。
真田虎太郎の能力にすがっているだけにすぎなかった。
「ウツロさん、すみません……! 僕は、もう、ダメです……!」
バリアがどんどんと薄れていく。
ウツロも真田虎太郎も、最後を迎えることを覚悟した。
「あははっ、取った! 死ねえ、ウツロおおおおおっ!」
ワルプルギスの拳が、一気に力を加える。
「そこまでよ、皐月」
また背後から声。
今度は中年の女性のようだ。
ウツロと真田虎太郎、そして星川皐月。
みなが一様に、倉庫の入口に視線を送った。
「その子の言うとおり、これ以上の無駄な行動は、わたしが許可しないわ」
すらりとした体形に、黒いスーツを身にまとった女性。
腕を組み、ナイフのようなまなざしを送っている。
ウツロと真田虎太郎は同様に思った。
テレビでよく見る顔、内閣防衛大臣・甍田美吉良、その人である。
秘密結社・龍影会の大幹部・七卿の一角・兵部卿。
そして、刀子朱利の母。
「美吉良あああああっ……!」
星川皐月の顔面が、またマグマのようにゆがんだ――
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