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第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)
第66話 それでも、人として
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「わかりましたよ……その、アルトラ……能力の、正体が……!」
星川皐月の「手」で身を引き裂かれたウツロ。
しかし彼はひかず、流れる血もしとどに言い放った。
「その、人差し指……指し示す方向の延長線上……アルトラの効力はおそらく、本体に近いほど、優先される……!」
「だから間に入ったっていうの? まあ、当たってるけど、なんで? あなたにここまでしたそのトカゲ女を、ウツロ、あなたは守るっていうこと?」
星川皐月は目を細くしてたずねた。
「万城目日和は、改心しておりますれば……平に、平に……」
ウツロは激痛に耐えながら、そう懇願した。
「だ~か~ら~、そういうことを言ってんじゃあ、ねえんだよおおおおおっ!」
「ごふっ――!」
柳葉刀のサイドで、星川皐月はウツロを殴りつけた。
「そこのトカゲがっ、わたしの大事な雅ちゃんを傷つけやがった! この代償は、命をもってつぐなってもらうしかねえ! そう言ってるんだよおおおおおっ!」
矢継ぎ早にボコられる。
毒虫の体から大量に血がほとばしった。
それでもウツロはしりぞかない。
必死に歯を食いしばり、耐えた。
「このような、暴虐……許される、ことでは、ありません……」
倒れないようにふんばり、眼前の女医をねめ上げる。
「暴虐? 暴虐だあ? 何抜かしてんだ? 薄汚い毒虫の分際で、あ?」
女医は逆に、みずからの甥をにらみ返した。
「鏡月を倒してってえいうから、どんなタマかと思えば、はっ! やっぱりあのバカと同じ、貧弱なガキじゃあねえか。くだらねえこと、ぶつくさ唱えてよお。やれ人間がどうたらだとか、クソにたかるハエ以下の存在なんだよ、てめえは!」
ぶん殴りながら罵詈雑言を浴びせかける。
ウツロは覚悟した。
ここで、死ぬことを――
「それでも、それでも……人として、人として、平に、平にっ……!」
グシャグシャになった顔で、なおもにらみつける。
星川皐月はその顔をなめるようにのぞきこみ、ニヤニヤとほほえんだ。
「けえっ、まだぬかしてんのか、この毒虫が。お似合いだな、あ? 親子ともどもよ? 毒虫の子は毒虫ってか? 鏡月のやつときたら、おとなしくわたしの人形であればよかったものを。あんなゴミ女と駆け落ちなんかしやがって。いいか、ウツロ? てめえの母親は、毒虫野郎にほれたクソ女よ。挙句にてめえみてえなゴミを生み落としやがった。ハエがウジを生み出すようにな。まさしくアクタ、ゴミだよなあ。あ、兄貴の名前もアクタなんだっけ? ゴミなんだよ、てめえの兄貴もなあっ!」
「――っ!」
父・鏡月だけではあきたらず、まぶたの母であるアクタ、そしてついには、双子の実兄・アクタまでをも侮辱される。
屈辱にはらわたが煮えくり返り、頭がどうにかなってしまいそうだった。
だが――
「平に、平にっ……!」
耐えた。
ウツロは耐えた。
星川皐月はいまいましく思った。
何よりも、そのくもりのない、晴れわたったまなざしに――
「覚悟はできてる、ってか。いいぜ? ウツロおおおおおっ!」
「――っ!」
柳葉刀が高らかに振りかざされ、剣尖が鋭く光った。
「あの世で家族と仲よくやりな、毒虫のガキがあああああっ――!」
ウツロはグッと目を閉じる。
父さん、母さん、兄さん……
ウツロはいま、そちらへまいります……
「イージスっ――!」
「……は?」
重く鈍い一撃が、ウツロの直前で、ゴムを叩いたように弾かれた――
星川皐月の「手」で身を引き裂かれたウツロ。
しかし彼はひかず、流れる血もしとどに言い放った。
「その、人差し指……指し示す方向の延長線上……アルトラの効力はおそらく、本体に近いほど、優先される……!」
「だから間に入ったっていうの? まあ、当たってるけど、なんで? あなたにここまでしたそのトカゲ女を、ウツロ、あなたは守るっていうこと?」
星川皐月は目を細くしてたずねた。
「万城目日和は、改心しておりますれば……平に、平に……」
ウツロは激痛に耐えながら、そう懇願した。
「だ~か~ら~、そういうことを言ってんじゃあ、ねえんだよおおおおおっ!」
「ごふっ――!」
柳葉刀のサイドで、星川皐月はウツロを殴りつけた。
「そこのトカゲがっ、わたしの大事な雅ちゃんを傷つけやがった! この代償は、命をもってつぐなってもらうしかねえ! そう言ってるんだよおおおおおっ!」
矢継ぎ早にボコられる。
毒虫の体から大量に血がほとばしった。
それでもウツロはしりぞかない。
必死に歯を食いしばり、耐えた。
「このような、暴虐……許される、ことでは、ありません……」
倒れないようにふんばり、眼前の女医をねめ上げる。
「暴虐? 暴虐だあ? 何抜かしてんだ? 薄汚い毒虫の分際で、あ?」
女医は逆に、みずからの甥をにらみ返した。
「鏡月を倒してってえいうから、どんなタマかと思えば、はっ! やっぱりあのバカと同じ、貧弱なガキじゃあねえか。くだらねえこと、ぶつくさ唱えてよお。やれ人間がどうたらだとか、クソにたかるハエ以下の存在なんだよ、てめえは!」
ぶん殴りながら罵詈雑言を浴びせかける。
ウツロは覚悟した。
ここで、死ぬことを――
「それでも、それでも……人として、人として、平に、平にっ……!」
グシャグシャになった顔で、なおもにらみつける。
星川皐月はその顔をなめるようにのぞきこみ、ニヤニヤとほほえんだ。
「けえっ、まだぬかしてんのか、この毒虫が。お似合いだな、あ? 親子ともどもよ? 毒虫の子は毒虫ってか? 鏡月のやつときたら、おとなしくわたしの人形であればよかったものを。あんなゴミ女と駆け落ちなんかしやがって。いいか、ウツロ? てめえの母親は、毒虫野郎にほれたクソ女よ。挙句にてめえみてえなゴミを生み落としやがった。ハエがウジを生み出すようにな。まさしくアクタ、ゴミだよなあ。あ、兄貴の名前もアクタなんだっけ? ゴミなんだよ、てめえの兄貴もなあっ!」
「――っ!」
父・鏡月だけではあきたらず、まぶたの母であるアクタ、そしてついには、双子の実兄・アクタまでをも侮辱される。
屈辱にはらわたが煮えくり返り、頭がどうにかなってしまいそうだった。
だが――
「平に、平にっ……!」
耐えた。
ウツロは耐えた。
星川皐月はいまいましく思った。
何よりも、そのくもりのない、晴れわたったまなざしに――
「覚悟はできてる、ってか。いいぜ? ウツロおおおおおっ!」
「――っ!」
柳葉刀が高らかに振りかざされ、剣尖が鋭く光った。
「あの世で家族と仲よくやりな、毒虫のガキがあああああっ――!」
ウツロはグッと目を閉じる。
父さん、母さん、兄さん……
ウツロはいま、そちらへまいります……
「イージスっ――!」
「……は?」
重く鈍い一撃が、ウツロの直前で、ゴムを叩いたように弾かれた――
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