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第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)
第39話 忸怩
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「虎太郎くん、そんなの見てて面白い?」
「僕などには難しいですが、はい、なんだか雰囲気が好きなのです」
「へえ、そうなんだね」
夕食後、真田虎太郎と武田暗学は、ロビーでテレビをかけながら談話していた。
真田虎太郎は画面に映る若い総理の答弁に夢中だが、武田暗学のほうは意に介していない。
「鬼堂総理のキリっとした受け答えが、とても興味深いと思います」
「鬼堂龍門、戦後最年少で内閣総理大臣に任命されたあんちゃんだね。幹事長からたいそう目をかけられているんだとか。すごいオーラだよね、まるでナイフみたいだ」
「ナイフですか、なるほど。確かにキレッキレですね」
「彼には昔、万城目優作っていう同期のライバルがいたんだけど、国際的なテロ組織から襲われて、命を落としちゃってるんだよ。ひとり娘の、えーと、日和ちゃんだっけか、その子まで一緒にね」
「……」
真田虎太郎は思い出した。
ウツロの父・似嵐鏡月が殺害したという政治家・万城目優作。
その娘・万城目日和は実は生きており、ウツロとアクタとは別な場所に保護され、暗殺の教えを受けたと。
その万城目日和がついに姿を現し、どうやらウツロたちをつけ狙っているらしい。
直接聞いたわけではないが、噂に戸は立てられない。
ウツロや姉たちが会話しているところを、意図せずとはいえ耳にしている。
自分を巻き込むまいと気をつかってくれている。
それはじゅうぶんに理解できるのだが、自分だってアルトラ能力を持つ特生対の一員だ。
配慮には感謝をしつつ、仲間はずれにされているようなもどかしさが、彼の心の中にはあった。
いまだって、食堂でみんなが新しい情報について議論しているようだ。
自分もその輪に加わりたいのに……
真田虎太郎は体を丸めるように、テレビに映る鬼堂総理の鋭いまなざしとにらめっこをした。
そのまなざしが、モニターの外側へ向いているとも知らずに――
(『第40話 火牛計』へ続く)
「僕などには難しいですが、はい、なんだか雰囲気が好きなのです」
「へえ、そうなんだね」
夕食後、真田虎太郎と武田暗学は、ロビーでテレビをかけながら談話していた。
真田虎太郎は画面に映る若い総理の答弁に夢中だが、武田暗学のほうは意に介していない。
「鬼堂総理のキリっとした受け答えが、とても興味深いと思います」
「鬼堂龍門、戦後最年少で内閣総理大臣に任命されたあんちゃんだね。幹事長からたいそう目をかけられているんだとか。すごいオーラだよね、まるでナイフみたいだ」
「ナイフですか、なるほど。確かにキレッキレですね」
「彼には昔、万城目優作っていう同期のライバルがいたんだけど、国際的なテロ組織から襲われて、命を落としちゃってるんだよ。ひとり娘の、えーと、日和ちゃんだっけか、その子まで一緒にね」
「……」
真田虎太郎は思い出した。
ウツロの父・似嵐鏡月が殺害したという政治家・万城目優作。
その娘・万城目日和は実は生きており、ウツロとアクタとは別な場所に保護され、暗殺の教えを受けたと。
その万城目日和がついに姿を現し、どうやらウツロたちをつけ狙っているらしい。
直接聞いたわけではないが、噂に戸は立てられない。
ウツロや姉たちが会話しているところを、意図せずとはいえ耳にしている。
自分を巻き込むまいと気をつかってくれている。
それはじゅうぶんに理解できるのだが、自分だってアルトラ能力を持つ特生対の一員だ。
配慮には感謝をしつつ、仲間はずれにされているようなもどかしさが、彼の心の中にはあった。
いまだって、食堂でみんなが新しい情報について議論しているようだ。
自分もその輪に加わりたいのに……
真田虎太郎は体を丸めるように、テレビに映る鬼堂総理の鋭いまなざしとにらめっこをした。
そのまなざしが、モニターの外側へ向いているとも知らずに――
(『第40話 火牛計』へ続く)
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