桜の朽木に虫の這うこと

朽木桜斎

文字の大きさ
上 下
115 / 218
第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)

第33話 たこぐもチャレンジドへ

しおりを挟む
 登校したウツロ、聖川清人ひじりかわ きよと柿崎景太かきざき けいたの三人は、古河登志彦ふるかわ としひこ教諭きょうゆの運転するミニバンで、職場体験の現地である特例子会社の事業所へと向かっていた。

浅倉喜代蔵あさくら きよぞう、公認会計士。有限責任監査法人たこぐも包括代表ほうかつだいひょう。妹は税理士で、税理士法人オロチ代表の浅倉卑弥呼あさくら ひみこ。秋田県の農村出身。学生時代に精神疾患に罹患りかんするも、独学で公認会計士試験に合格し、現在の地位までのぼりつめた苦労人、か。ふむ……」

 ウツロは携帯のブラウザで個人ブログをのぞきながら、記述されている情報をそらんじた。

 まさかとは思ったが、さくらかんに来訪したあの浅倉卑弥呼の実兄じっけいだったとは。

 添付てんぷしてあるイメージ画像を見ると、なるほど、顔の作りや、『やなぎえだ』のような髪型が妹にそっくりだ。

 年齢の割には、どこか幼く見えるところも印象的だった。

「日本経済の番人が障害者ってのは面白いわな」

 柿崎景太はノートPCを叩きながらつぶやいた。

「きっと想像もつかない努力をされたんだろう。つめあかせんじて飲ませてもらったらどうだ、柿崎?」

 聖川清人はのぞき込むように顔を寄せて言った。

「うっせーの、聖川。てめえは小姑こじゅうとか?」

「何をっ!?」

「ひっ――」

 聖川清人が赤本を振りかぶったので、柿崎景太は条件反射で身を守った。

「こらこら二人とも。そろそろ着くから、準備をしなさい」

 古河教諭はハンドルを握りながら二人をいさめた。

「今日は浅倉先生もお見えになると聞きましたが」

「うん、天下の黒帝の学生さんが来てくれるってんで、港区にあるたこぐもの本部から駆けつけてくれるそうだよ」

 たずねたウツロに、古川教諭はラジオのボリュームをいじりながら答えた。

「どんな人物か気になります。でも、黒帝ってそんなに有名な学校だったんですね」

「……」

 ウツロ以外の三人は口をあんぐりとけた。

「佐伯よ、おまえまさか、それ知らないで黒帝に編入したの?」

 柿崎景太は体を震わせながら問いかけた。

「どういうこと?」

「あのな、佐伯。黒帝高校とえば、日本でも最高レベルの偏差値をほこる高校であり、毎年東大の合格率で、東の青凛せいりん高校とあらそう名門進学校なんだぞ?」

「へえ、そうだったんだね」

「そうだったって、はは……」

「宇宙人だな……」

 あっけらかんと答弁するウツロに、柿崎景太と聖川清人はあきれ返った。

「さあさあ、みんな、到着したよ。あそこがたこぐもチャレンジドだ」

 古川教諭が視界に入った施設を指さしたとき、後部座席の二名はすっかりうなだれていた。

 いっぽう、ウツロは考えていた。

 浅倉喜代蔵か。

 さくら館を訪れた浅倉卑弥呼が、もし組織の放った刺客だと仮定すると、実の兄であるその人が何の関係もないという可能性は否定できない。

 それにこのタイミングで出会うことになるのも、なんだかできすぎている。

 何かがあるのかもしれない。

 決して油断はできないぞ。

 彼はそんなことを、自分自身に語りかけた――

(『第34話 浅倉喜代蔵あさくら きよぞう』へ続く)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

処理中です...