桜の朽木に虫の這うこと

朽木桜斎

文字の大きさ
上 下
101 / 218
第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)

第19話 忍び寄る影

しおりを挟む
 ありえないほどの偶然が重なることがある。
 その確率は計算上ではおよそ30兆分の1以下とされ、隕石が地球に落下して人類が滅亡するよりも低い確率とされているのである。
 そんな不思議な偶然の一致を二つほど紹介しよう。
 バミューダのある路上で、ある日バイクとタクシーが衝突事故を起こした。
 バイクの方は兄弟で2人乗りをしており、タクシーにはお客が1人乗っていたので、この事故に巻きこまれた者は合計で4人。しかし幸いなことに4人は怪我こそすれ、死者は出ずに済んだ。

 そしてその事故から1年の月日が経過した。
 それぞれ傷も癒(い)え、別々の日々を送っていた。あの時のバイクの兄弟はまた同じように2人乗りで走りを楽しんでいた。タクシーの運転手ももちろん相変わらず仕事を続けていた。

 ある日、その運転手がタクシーを走らせていると、道の先の方で手が挙がった。
 タクシーに乗ろうとしているお客である。すぐに車を寄せてお客を拾おうとしたが、運の悪いことに、自分より先にもう一台タクシーが走っており、そっちの方がお客を乗せて走り去ってしまった。

 「ちっ」と舌打ちして、再び車を走らせる。しばらく走っていると、また路上で手が挙がった。今度は自分の前にタクシーはいない。路肩に車を寄せると、今度こそお客が乗ってきた。

 「どちらまで行きましょうか?」と聞いたが返事がない。
 不審に思った運転手は「あのー、どちらまででしょうか?」と、今度は振り向いて聞いてみた。
 後ろの座席には驚いたような顔をした1人の男が座っていた。

 「あっ!お客さんは・・!」
 1年前の事故の時のお客だった。全く偶然にもあの時のお客を拾ってしまったのだ。

 双方ににがい思い出がよぎる。なんとなく嫌な感じがしながらも、ようやく行き先を告げられてタクシーは発進した。業務的な会話を一言二言したが、後は沈黙になってしまった。

 「あの場所に行くとなると、どうしてもあの道を通っていくことになるな・・。」
 運転手も心の中で厭だなと思ったが、あえて言葉には出さなかった。喜ばしくない再会をして、嫌な思い出のある道を再び通らなければならない。

 あの日あの時と同じ風景が車の外を流れていく。まもなく事故現場にさしかかった。と、その途端、後ろのお客が「あっ!」と声をあげた。

 向こうの方から、あの時のバイクにあの時の兄弟が乗って、まっすぐこっちへ突っ込んでくるのだ。

 「そんなバカな!」
 4人が4人ともそう思ったかも知れない。だがあっと思う間もなく、バイクとタクシーは再び衝突してしまった。まるで吸いよせられるかのように。

 そして同じ状況、同じ人間による全く同じ事故が再び起こってしまった。ただ一つ違ったことは、今回の事故でバイクの兄弟の方は不幸にも死亡してしまったことであった。



 A君が小5のとき、通学路の交差点を渡っていたとき、右折車が横断中のA君めがけて突っ込んできた。 

 まるで催眠術にかかったように体が動かず、突っ込んでくる車を呆然と見ていたら、(あらぬ方向を見ているドライバーの顔まではっきり見えた) 後ろから突き飛ばされ、危機一髪A君は難を逃れた。 

 が、A君を突き飛ばしてくれた大学生は、車に跳ね飛ばされたらしい。 

 泣きながらA君は近所の家に駆け込んで、救急車と警察を呼んでもらい、その後警察の事故処理係に、出来る限り状況説明をした。 

 後日、家に警察から電話があり、大学生の入院先を教えられ、A君は母親と見舞いに行って御礼を言った。 
 
 幸い大学生は元気そうですぐに退院できそうだった。

 中学1年のとき、父親の仕事の都合で同県内の市外(というか、山の中)へと引っ越したA君は、そこで先生となっていた、件の大学生と再会した。 

 お互いに驚き再会を喜びつつ、3年間面倒を見てもらって、(なんせ田舎の分校なので、先生はずっと同じなのだ)A君は中学を卒業し、高校進学と供に市内に戻った。 

 地元の教育大学に進学したA君は、教育実習先の小学校へ向かう途中の交差点で、自分の前を渡っている小学生の女の子に、右折車が今まさに突っ込もうとしているのをみた。 

 次に、ドライバーが携帯電話で喋りながら運転しているのが見えた。 
 
 スローモーションみたいに流れる情景に、ウソだろ・・・と思いつつ、とっさに女の子を突き飛ばしたら、案の定自分が跳ね飛ばされた。 

 コンクリートの地面に横たわって、泣いてる女の子を見ながら、もしかしたらあのとき先生もこんな景色を見たのかな・・・とか考えつつA君は意識を失った。 

 翌日入院先に、A君が助けた女の子の親が見舞いにやって来た。 

 すると驚いたことに彼女の親は中学時代の恩師であり、俺の命の恩人そのヒトだった。 

 「これで借りは返せましたね」とA君が言うと、「バカ・・・最初から、借りも貸しも無いよ」と先生は言った。 

 ベットの周りのカーテンを閉めて、A君と先生は無言で抱き合って泣いたという。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

武神少女R 陰キャなクラスメイトが地下闘技場のチャンピオンだった

朽木桜斎
ライト文芸
高校生の鬼神柊夜(おにがみ しゅうや)は、クラスメイトで陰キャのレッテルを貼られている鈴木理子(すずき りこ)に告ろうとするが、路地裏で不良をフルボッコにする彼女を目撃してしまう。 理子は地下格闘技のチャンピオンで、その正体を知ってしまった柊夜は、彼女から始末されかけるも、なんとか事なきを得る。 だがこれをきっかけとして、彼は地下闘技場に渦巻く数々の陰謀に、巻き込まれていくことになるのだった。 ほかのサイトにも投稿しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...