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第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)
第11話 体育倉庫の危機
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「さあ、その女、メチャクチャにしちゃって」
刀子朱利は「揚げパン買ってきて」とでも命じるイントネーションで言った。
「んん、んんっ!」
真田龍子は必死で抵抗を試みるが、後ろから羽交締めにされたうえ、口も塞がれていて、助けを呼ぶことすらできない。
「へへっ、いいにおいだあ」
「ヤバくね、こんなことして?」
「知るかよ。刀子がぜんぶ、あと始末はしてくれるってさ。あいつの母ちゃん、政治家だし。そういうのは大丈夫なんじゃね?」
「じゃあ……」
「おうよ、たっぷり慰めてもらおうぜ」
とりまきの男子生徒たちは、制服ごしに彼女の体をベタベタと触りつづけている。
爬虫類とでも接触しているような感覚と、口や体から出る汚物のような悪臭に、真田龍子は激しいめまいを覚えた。
「このポニーテール、さらさらしてたまんねえ」
「胸もけっこうデカいじゃん。着やせってゆーの?」
「とっととむいちまおうぜ」
男たちは下劣な言葉を並べ立てながら、彼女のボディラインをまさぐっている。
真田龍子は彼らの頭の中を想像した。
そしてそのあまりのおぞましさに、恐怖あまって肉体が弛緩していった。
わたしはこれから、こんなやつらに乱暴されるんだ。
いやだ、いやだ……
助けて、ウツロ……
「う……」
かすかなうめき声とともに、真田龍子を圧迫する力が消えた。
「な、なにっ……!?」
刀子朱利はとび箱に両手をついた。
男子たちの体が、繰り糸の消えたように崩れ落ちる。
たちまちに彼らは、体育倉庫の冷たいコンクリートの上へ山積みになった。
「わたしの大事な『ペット』に、手え出してんじゃないよ、朱~利?」
真田龍子の背後から、別な女子がぬうっと姿を現した。
「み、雅いいいっ……!」
星川雅だ。
刀子朱利は怒りの形相に豹変し、彼女をねめ下ろした。
「雅、わたし、わたし……」
真田龍子は一気に安心感がこみあげ、体を震わせて星川雅に抱きついた。
「もう大丈夫だからね、龍子。心配しないで」
「う、ううっ」
しがみついたまま号泣する。
面白くないのは刀子朱利だ。
「雅い、あんたなにわたしの楽しみを邪魔してくれてんのさ?」
「こんなことが趣味だなんて、ほんと、下品だよね、朱利? 龍子はわたしのかわいい『ペット1号』なの。この落とし前、どうつけてくれるの?」
火花を散らして二人は言いあった。
「ふん、ごめんねえ雅。あんたの大切な『ペット』に手えつけちゃってさ。よく人のことが言えるよね。星川典薬頭のご息女様?」
「あなたこそ、そのねじ曲がった性格、治らないよね。甍田兵部卿のご息女様?」
真田龍子は二人の話していることの意味がわからなかった。
「雅、いったいどういう……」
さっきのウツロの情報といい、自分にわからないことを二人は知っている。
それに胸騒ぎがしてならなかった。
「龍子、あとでちゃんと説明する。とりあえずいまは、ちょっと隠れてて。もしかしたらこの倉庫が、吹き飛ぶかもしれないから」
「え、え……?」
真田龍子を入り口の脇に休ませると、星川雅は戦闘態勢を取った。
「へえ、やる気まんまんってわけだね。大事な『ペット』を守りたいんだ? あは、泣かせるう」
「あなたこそそうなんでしょ? わたしを殺す気まんまんのくせに」
「あたりまえじゃん。でも雅、まさか二竪なしで勝負する気? 体術勝負でわたしに勝てるとでも思ってんの?」
「バーカ」
星川雅はニヤリと笑った。
「……っ!?」
彼女の髪の毛がざわざわと蠢いたかと思うと、頭頂部がぱっくりと二つに裂け、その大口が対の大刀を吐き出した。
星川雅の愛刀・二竪だ。
彼女はそれをキャッチすると、前方へ突き出すように構えを取った。
開いた口はすぐに元へ戻った。
柳葉刀の光沢は鋭さを増し、血を求めるように爛々と輝いている。
「きゃはっ! ゴーゴン・ヘッドのお口の中に隠してたんだ! ほんっと、抜け目ないよね雅は!」
真田龍子は思った。
刀子朱利……
この女、アルトラの存在を知っている……
まさか、こいつも……
「ほら、わたしを殺すんじゃないの、朱利?」
「上等だよ、雅い……」
顔をゆがませて笑うと、刀子朱利は10段のとび箱の上からスッとジャンプした。
音もなく着地し、低い姿勢で両の拳を前方へ構える。
「刀子流体術と似嵐流兵法、どっちが最強か、教えてやるよ!」
「きな、朱利っ!」
体育倉庫内の空間がぐにゃりとゆがんだように、真田龍子は錯覚した――
(『第12話 星川雅 VS 刀子朱利』へ続く)
刀子朱利は「揚げパン買ってきて」とでも命じるイントネーションで言った。
「んん、んんっ!」
真田龍子は必死で抵抗を試みるが、後ろから羽交締めにされたうえ、口も塞がれていて、助けを呼ぶことすらできない。
「へへっ、いいにおいだあ」
「ヤバくね、こんなことして?」
「知るかよ。刀子がぜんぶ、あと始末はしてくれるってさ。あいつの母ちゃん、政治家だし。そういうのは大丈夫なんじゃね?」
「じゃあ……」
「おうよ、たっぷり慰めてもらおうぜ」
とりまきの男子生徒たちは、制服ごしに彼女の体をベタベタと触りつづけている。
爬虫類とでも接触しているような感覚と、口や体から出る汚物のような悪臭に、真田龍子は激しいめまいを覚えた。
「このポニーテール、さらさらしてたまんねえ」
「胸もけっこうデカいじゃん。着やせってゆーの?」
「とっととむいちまおうぜ」
男たちは下劣な言葉を並べ立てながら、彼女のボディラインをまさぐっている。
真田龍子は彼らの頭の中を想像した。
そしてそのあまりのおぞましさに、恐怖あまって肉体が弛緩していった。
わたしはこれから、こんなやつらに乱暴されるんだ。
いやだ、いやだ……
助けて、ウツロ……
「う……」
かすかなうめき声とともに、真田龍子を圧迫する力が消えた。
「な、なにっ……!?」
刀子朱利はとび箱に両手をついた。
男子たちの体が、繰り糸の消えたように崩れ落ちる。
たちまちに彼らは、体育倉庫の冷たいコンクリートの上へ山積みになった。
「わたしの大事な『ペット』に、手え出してんじゃないよ、朱~利?」
真田龍子の背後から、別な女子がぬうっと姿を現した。
「み、雅いいいっ……!」
星川雅だ。
刀子朱利は怒りの形相に豹変し、彼女をねめ下ろした。
「雅、わたし、わたし……」
真田龍子は一気に安心感がこみあげ、体を震わせて星川雅に抱きついた。
「もう大丈夫だからね、龍子。心配しないで」
「う、ううっ」
しがみついたまま号泣する。
面白くないのは刀子朱利だ。
「雅い、あんたなにわたしの楽しみを邪魔してくれてんのさ?」
「こんなことが趣味だなんて、ほんと、下品だよね、朱利? 龍子はわたしのかわいい『ペット1号』なの。この落とし前、どうつけてくれるの?」
火花を散らして二人は言いあった。
「ふん、ごめんねえ雅。あんたの大切な『ペット』に手えつけちゃってさ。よく人のことが言えるよね。星川典薬頭のご息女様?」
「あなたこそ、そのねじ曲がった性格、治らないよね。甍田兵部卿のご息女様?」
真田龍子は二人の話していることの意味がわからなかった。
「雅、いったいどういう……」
さっきのウツロの情報といい、自分にわからないことを二人は知っている。
それに胸騒ぎがしてならなかった。
「龍子、あとでちゃんと説明する。とりあえずいまは、ちょっと隠れてて。もしかしたらこの倉庫が、吹き飛ぶかもしれないから」
「え、え……?」
真田龍子を入り口の脇に休ませると、星川雅は戦闘態勢を取った。
「へえ、やる気まんまんってわけだね。大事な『ペット』を守りたいんだ? あは、泣かせるう」
「あなたこそそうなんでしょ? わたしを殺す気まんまんのくせに」
「あたりまえじゃん。でも雅、まさか二竪なしで勝負する気? 体術勝負でわたしに勝てるとでも思ってんの?」
「バーカ」
星川雅はニヤリと笑った。
「……っ!?」
彼女の髪の毛がざわざわと蠢いたかと思うと、頭頂部がぱっくりと二つに裂け、その大口が対の大刀を吐き出した。
星川雅の愛刀・二竪だ。
彼女はそれをキャッチすると、前方へ突き出すように構えを取った。
開いた口はすぐに元へ戻った。
柳葉刀の光沢は鋭さを増し、血を求めるように爛々と輝いている。
「きゃはっ! ゴーゴン・ヘッドのお口の中に隠してたんだ! ほんっと、抜け目ないよね雅は!」
真田龍子は思った。
刀子朱利……
この女、アルトラの存在を知っている……
まさか、こいつも……
「ほら、わたしを殺すんじゃないの、朱利?」
「上等だよ、雅い……」
顔をゆがませて笑うと、刀子朱利は10段のとび箱の上からスッとジャンプした。
音もなく着地し、低い姿勢で両の拳を前方へ構える。
「刀子流体術と似嵐流兵法、どっちが最強か、教えてやるよ!」
「きな、朱利っ!」
体育倉庫内の空間がぐにゃりとゆがんだように、真田龍子は錯覚した――
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