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第2作 アオハル・イン・チェインズ 桜の朽木に虫の這うこと(二)
第10話 放課後に差す闇
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「で、お話の内容は?」
体育倉庫へ入った刀子朱利は、とび箱の上にひょいと腰かけ、入り口付近に立つ真田龍子に、会話の趣旨をたずねた。
「その……今朝、音楽室で、あんなことして……どういうことなのかなって……」
「どういうこと? 言ったじゃん、佐伯くんが好きなんだよ、わたし? だからわたしのものにする、それだけだよ?」
まったく悪びれない態度に、真田龍子はカチンときた。
「ふざけないで! 悠亮は、わたしと……わたしの、大切な人なんだから……!」
ほえた彼女であったが、刀子朱利はいたって冷静だ。
少し間を置いてから、スッと口を開く。
「真田さん、あなたいま、かなり無理したでしょ?」
「……っ!」
図星だった。
真田龍子はいま、感情に任せて言葉を吐いている。
容易にそれは悟ることができた。
刀子朱利はへらへらしながらしゃべりを続ける。
「あなたと佐伯くんが相思相愛、そんなことくらい、見てればわかるよ?」
「じゃあ、なんで……」
「好きだからね」
「え……」
「わたしは人のものを奪うのが好き。人が大事にしているものをかっさらって、たっぷり遊んで、そのあとは捨てる。それが大好きなんだ。だからわたしは彼が欲しい。真田さんがそんなに大切だっていう佐伯くんを、自分のものにしたいんだよ。それだけだね」
異常だ。
真田龍子は率直にそう思った。
そしてだんだん腹が立ってきた。
「刀子さん、あなた、いいかげんに……」
「あーあ、逆上しちゃって。そんなに愛してるの? あんな『毒虫野郎』のこと?」
「……」
頭が真っ白になった。
毒虫野郎……
毒虫……
ちょっと待って、どうして彼女が『それ』を……
刀子朱利は、いよいよ気味の悪い笑みを浮かべた。
「あは、なんで知ってるのって顔だね。そう、なんでも知ってるよ、あなたたちのことはね」
背筋が寒くなってくる。
なに、これ……
なにか、おそろしいことが、起こってるんじゃ……
「佐伯悠亮、本名はウツロ。似嵐鏡月の双子の息子の弟。兄の名はアクタ。父と兄は故人。ついこの間まで、自分を毒虫のように醜い存在だと呪っていたのに、短期間でずいぶん成長したみたいじゃん? そこには真田さん、あなたとの『愛』が大きなキーポイントとなった。どう、当たってるでしょう?」
刀子朱利は得意げな顔で『情報』をそらんじた。
真田龍子の体が震えてきている。
「うふふ、どうしたの真田さん? 顔が青くなってきてるよ? もちろん、あなたのことも言えるんだよ? なんでもね。弟の虎太郎くんに何をしたかとかさ……」
もはや声を出すことすらままならない。
どうして?
どうしてこの女が知っている?
どうして、どうして……
すでに彼女の思考はこんがらがっていた。
「あはは! その顔、たまんない! すっかりおびえちゃって。おしっことか漏らしそうになってきた? まあ、これからもっと恥ずかしい目にあうんだけどね……」
「――っ!?」
真田龍子は自分の体が岩のように固まったのを感じた。
5~6人の男子生徒たちが、背後からよってたかって、彼女を羽交締めにしたのだ。
口もふさがれ、身動きどころか、声を出すこともかなわない。
「さあ、その女、メチャクチャにしちゃって」
刀子朱利の顔面が下品にゆがんだ――
(『第11話 体育倉庫の危機』へ続く』)
体育倉庫へ入った刀子朱利は、とび箱の上にひょいと腰かけ、入り口付近に立つ真田龍子に、会話の趣旨をたずねた。
「その……今朝、音楽室で、あんなことして……どういうことなのかなって……」
「どういうこと? 言ったじゃん、佐伯くんが好きなんだよ、わたし? だからわたしのものにする、それだけだよ?」
まったく悪びれない態度に、真田龍子はカチンときた。
「ふざけないで! 悠亮は、わたしと……わたしの、大切な人なんだから……!」
ほえた彼女であったが、刀子朱利はいたって冷静だ。
少し間を置いてから、スッと口を開く。
「真田さん、あなたいま、かなり無理したでしょ?」
「……っ!」
図星だった。
真田龍子はいま、感情に任せて言葉を吐いている。
容易にそれは悟ることができた。
刀子朱利はへらへらしながらしゃべりを続ける。
「あなたと佐伯くんが相思相愛、そんなことくらい、見てればわかるよ?」
「じゃあ、なんで……」
「好きだからね」
「え……」
「わたしは人のものを奪うのが好き。人が大事にしているものをかっさらって、たっぷり遊んで、そのあとは捨てる。それが大好きなんだ。だからわたしは彼が欲しい。真田さんがそんなに大切だっていう佐伯くんを、自分のものにしたいんだよ。それだけだね」
異常だ。
真田龍子は率直にそう思った。
そしてだんだん腹が立ってきた。
「刀子さん、あなた、いいかげんに……」
「あーあ、逆上しちゃって。そんなに愛してるの? あんな『毒虫野郎』のこと?」
「……」
頭が真っ白になった。
毒虫野郎……
毒虫……
ちょっと待って、どうして彼女が『それ』を……
刀子朱利は、いよいよ気味の悪い笑みを浮かべた。
「あは、なんで知ってるのって顔だね。そう、なんでも知ってるよ、あなたたちのことはね」
背筋が寒くなってくる。
なに、これ……
なにか、おそろしいことが、起こってるんじゃ……
「佐伯悠亮、本名はウツロ。似嵐鏡月の双子の息子の弟。兄の名はアクタ。父と兄は故人。ついこの間まで、自分を毒虫のように醜い存在だと呪っていたのに、短期間でずいぶん成長したみたいじゃん? そこには真田さん、あなたとの『愛』が大きなキーポイントとなった。どう、当たってるでしょう?」
刀子朱利は得意げな顔で『情報』をそらんじた。
真田龍子の体が震えてきている。
「うふふ、どうしたの真田さん? 顔が青くなってきてるよ? もちろん、あなたのことも言えるんだよ? なんでもね。弟の虎太郎くんに何をしたかとかさ……」
もはや声を出すことすらままならない。
どうして?
どうしてこの女が知っている?
どうして、どうして……
すでに彼女の思考はこんがらがっていた。
「あはは! その顔、たまんない! すっかりおびえちゃって。おしっことか漏らしそうになってきた? まあ、これからもっと恥ずかしい目にあうんだけどね……」
「――っ!?」
真田龍子は自分の体が岩のように固まったのを感じた。
5~6人の男子生徒たちが、背後からよってたかって、彼女を羽交締めにしたのだ。
口もふさがれ、身動きどころか、声を出すこともかなわない。
「さあ、その女、メチャクチャにしちゃって」
刀子朱利の顔面が下品にゆがんだ――
(『第11話 体育倉庫の危機』へ続く』)
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