34 / 218
第1作 桜の朽木に虫の這うこと
第33話 奴隷道徳
しおりを挟む ディーナリアスは、国王陛下の元に行っている。
私室には、ジョゼフィーネとサビナの2人。
「こ、国王陛下、だ、大丈夫、かな?」
ディーナリアスがいない時、ジョゼフィーネはテーブルセット側のイスに座る。
日本風かどうかはさておき、小さめの、ワッフルに似たお菓子と紅茶がテーブルには、置かれていた。
けれど、今は手を伸ばす気になれずにいる。
「殿下が仰られておりましたが、危篤の報せがあれば王宮内が乱れます。今はそこまで病状は悪化されておられないと思われます」
「そ、そう……」
少しだけ、ホッとした。
ジョゼフィーネには、身内らしい身内がいない、と言える。
実母は他界しているし、父や姉とは「身内」的なつきあいをしてきていない。
むしろ、今ではディーナリアスやサビナのほうが距離感は近くなっていた。
「サ、ザヒナの……旦……こ、婚姻してる、人に、会ったよ?」
「パッとしない人でしたでしょう?」
「え、え……そ、そんなことない、と思う、けど……」
「近衛騎士隊長などやっておりますけれど、言い寄ってくる女性の1人もいないのですから、パッとしないのですよ」
ジョゼフィーネは、ちょっぴり笑ってしまいそうになる。
サビナのこれは、明らかに「ツンデレ」だ。
ディーナリアスはわからなかったらしいが、ジョゼフィーネからすれば明らか。
女性の1人も言い寄って来ないことに、サビナは安心している。
オーウェンに言い寄る女性がいたらどうしようと、気にかけている証拠だ。
いつも喧嘩をしていたというのも、素直になれなかったせいだろう。
オーウェンのことを話題に出したので思い出す。
ディーナリアスから「今は2人の子を育てている」と聞いていた。
自分の侍女になったせいで、サビナは子供と一緒にいる時間が減っている。
幸せな家庭を崩してしまってはいないかと、心配になった。
「こ、子育ては……?」
ジョゼフィーネの心情が、顔に出ていたらしい。
サビナが、にっこりと微笑んでくれる。
「元々、エヴァンが近衛騎士隊長をしているものですから、私たちは、王宮内の別宅で暮らしております。彼はともかく、私は転移ができますし、それほど離れているわけではありませんわ」
「さ、寂しく、ない、かな?」
「2人とも、今年で9歳になりました。親にベッタリする歳は過ぎましたね」
「ふ、2人、とも??」
「ええ、双子でしたの」
ジョゼフィーネは引きこもりでやってきたし、人とのつきあいも避けてきた。
さりとて、サビナの子供は、ちょっと見てみたい気がする。
双子なんて見たことはなかったし、サビナとオーウェンの子供ならば、可愛いのではないかと思えた。
「落ち着かれましたら、殿下と2人で、いらっしゃいませんか?」
「い、いいの?」
「我が家は狭く、子供もうるさくしておりますが、それでも、よろしければ」
こくこくと、うなずく。
今までのジョゼフィーネからすると、考えられないことだが、彼女に、その自覚はなかった。
ジョゼフィーネは、自分から「外」に出ようとしているのだ。
「た、楽しみ……ふ、双子、似てる……?」
「男の子なのですが、見分けがつきにくいほど、似ております。妃殿下は、双子をご覧になったことはございませんか?」
「な、ないよ。そんなに、似てるんだ」
「エヴァンは、時々、からかわれていますね」
ということは、サビナは、ちゃんと見分けられているのだろう。
やはり母親なんだなぁと思う。
今世での母親が生きていたら、どんなふうだったかを考えた。
とはいえ、生まれた時には、すでにいなかったので、わからない。
ジョゼフィーネの母は、当時、26歳。
子供を産むのに命の危険が伴う年齢と言われている。
前世の記憶では、それほどの危険などない歳だと思われるが、この世界では違うのだ。
いろいろ照らし合わせれば、体質自体が違うとわかる。
「わ、私……ちゃんとした、お母さんになれる自信、ないな……」
「私も、ちゃんとした母になれているかは、未だにわかりません」
「え……? そ、そうなの?」
「親になったのは、初めてですもの。なにが正しいか、判断がつきかねます」
サビナが、ちょっぴりいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「妃殿下は、殿下との、お子を成すことを考えておいでなのですね」
「えっ? あ、あの……そ、そういう……」
言われて、気づく。
自分の子供ということは、彼との子供であるということなのだ。
かあっと、頬が熱くなる。
具体的に考えていたわけではないが、恥ずかしくなった。
「ですが、当面、殿下には黙っておかれたほうがよろしいかと」
「よ、喜ばない、から?」
「いいえ、逆です。喜び過ぎて、ぶっ倒れます。あんな図体で倒れられても、面倒ですからね」
ジョゼフィーネは、瞬き数回。
サビナが笑ったので、つられてジョゼフィーネも笑う。
気持ちが楽になり、お菓子に手を伸ばした時だ。
扉の叩かれる音がした。
サビナの表情が、わずかに硬くなっている。
それを察して、ジョゼフィーネも緊張につつまれた。
立ち上がり、サビナは身構えている。
が、ジョゼフィーネの傍から離れようとはしなかった。
「急ぎの用件でなければ、のちほど出直してくださいませ」
扉の向こうが静かになる。
それでも、サビナは動かない。
目に険しさが漂っていた。
その意味が、すぐにわかる。
室内に、パッと3人の魔術師が現れたのだ。
いずれもローブ姿だったので、魔術師で間違いない。
動いたのはサビナが先だった。
3人の足元から火柱が上がる。
驚いて、ジョゼフィーネも立ち上がった。
サビナに任せるのがいいのだろう、とは思う。
ジョゼフィーネは魔術も使えないし、なにもできないのだ。
火柱につつまれても、3人の魔術師は平気らしい。
炎が消され、なにもなかったかのように魔術師が近づいてくる。
3人から同時に、何かが飛んできた。
手を振ったサビナの前で、氷の矢や黒い球、石のようなものが動きを止める。
ジョゼフィーネには前世の記憶があったため、それが「属性」だとわかった。
サビナは炎を使っていたので、そちら系統なのかもしれない。
だとすると、水や氷系統は、苦手とする属性となるはずだ。
その上、3人には炎に対する耐性がある。
サビナのほうが不利に思えたのだけれども。
ぶわっ!!
強い風が3人に向かって吹き上げた。
ローブに裂け目が入るのが、見てとれる。
そこから血が滲んでいるのに気づいたのか、3人がサビナと距離を取った。
その下がった先に、針のようなものが大量に飛んで行く。
(サ、ザビナ、すごい……強い……)
3人が、一斉に飛んで逃げた。
さりとて、避けきれず、体に多くの針が突き刺さっている。
さらに、3人の体から血が流れ出していた。
私室には、ジョゼフィーネとサビナの2人。
「こ、国王陛下、だ、大丈夫、かな?」
ディーナリアスがいない時、ジョゼフィーネはテーブルセット側のイスに座る。
日本風かどうかはさておき、小さめの、ワッフルに似たお菓子と紅茶がテーブルには、置かれていた。
けれど、今は手を伸ばす気になれずにいる。
「殿下が仰られておりましたが、危篤の報せがあれば王宮内が乱れます。今はそこまで病状は悪化されておられないと思われます」
「そ、そう……」
少しだけ、ホッとした。
ジョゼフィーネには、身内らしい身内がいない、と言える。
実母は他界しているし、父や姉とは「身内」的なつきあいをしてきていない。
むしろ、今ではディーナリアスやサビナのほうが距離感は近くなっていた。
「サ、ザヒナの……旦……こ、婚姻してる、人に、会ったよ?」
「パッとしない人でしたでしょう?」
「え、え……そ、そんなことない、と思う、けど……」
「近衛騎士隊長などやっておりますけれど、言い寄ってくる女性の1人もいないのですから、パッとしないのですよ」
ジョゼフィーネは、ちょっぴり笑ってしまいそうになる。
サビナのこれは、明らかに「ツンデレ」だ。
ディーナリアスはわからなかったらしいが、ジョゼフィーネからすれば明らか。
女性の1人も言い寄って来ないことに、サビナは安心している。
オーウェンに言い寄る女性がいたらどうしようと、気にかけている証拠だ。
いつも喧嘩をしていたというのも、素直になれなかったせいだろう。
オーウェンのことを話題に出したので思い出す。
ディーナリアスから「今は2人の子を育てている」と聞いていた。
自分の侍女になったせいで、サビナは子供と一緒にいる時間が減っている。
幸せな家庭を崩してしまってはいないかと、心配になった。
「こ、子育ては……?」
ジョゼフィーネの心情が、顔に出ていたらしい。
サビナが、にっこりと微笑んでくれる。
「元々、エヴァンが近衛騎士隊長をしているものですから、私たちは、王宮内の別宅で暮らしております。彼はともかく、私は転移ができますし、それほど離れているわけではありませんわ」
「さ、寂しく、ない、かな?」
「2人とも、今年で9歳になりました。親にベッタリする歳は過ぎましたね」
「ふ、2人、とも??」
「ええ、双子でしたの」
ジョゼフィーネは引きこもりでやってきたし、人とのつきあいも避けてきた。
さりとて、サビナの子供は、ちょっと見てみたい気がする。
双子なんて見たことはなかったし、サビナとオーウェンの子供ならば、可愛いのではないかと思えた。
「落ち着かれましたら、殿下と2人で、いらっしゃいませんか?」
「い、いいの?」
「我が家は狭く、子供もうるさくしておりますが、それでも、よろしければ」
こくこくと、うなずく。
今までのジョゼフィーネからすると、考えられないことだが、彼女に、その自覚はなかった。
ジョゼフィーネは、自分から「外」に出ようとしているのだ。
「た、楽しみ……ふ、双子、似てる……?」
「男の子なのですが、見分けがつきにくいほど、似ております。妃殿下は、双子をご覧になったことはございませんか?」
「な、ないよ。そんなに、似てるんだ」
「エヴァンは、時々、からかわれていますね」
ということは、サビナは、ちゃんと見分けられているのだろう。
やはり母親なんだなぁと思う。
今世での母親が生きていたら、どんなふうだったかを考えた。
とはいえ、生まれた時には、すでにいなかったので、わからない。
ジョゼフィーネの母は、当時、26歳。
子供を産むのに命の危険が伴う年齢と言われている。
前世の記憶では、それほどの危険などない歳だと思われるが、この世界では違うのだ。
いろいろ照らし合わせれば、体質自体が違うとわかる。
「わ、私……ちゃんとした、お母さんになれる自信、ないな……」
「私も、ちゃんとした母になれているかは、未だにわかりません」
「え……? そ、そうなの?」
「親になったのは、初めてですもの。なにが正しいか、判断がつきかねます」
サビナが、ちょっぴりいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「妃殿下は、殿下との、お子を成すことを考えておいでなのですね」
「えっ? あ、あの……そ、そういう……」
言われて、気づく。
自分の子供ということは、彼との子供であるということなのだ。
かあっと、頬が熱くなる。
具体的に考えていたわけではないが、恥ずかしくなった。
「ですが、当面、殿下には黙っておかれたほうがよろしいかと」
「よ、喜ばない、から?」
「いいえ、逆です。喜び過ぎて、ぶっ倒れます。あんな図体で倒れられても、面倒ですからね」
ジョゼフィーネは、瞬き数回。
サビナが笑ったので、つられてジョゼフィーネも笑う。
気持ちが楽になり、お菓子に手を伸ばした時だ。
扉の叩かれる音がした。
サビナの表情が、わずかに硬くなっている。
それを察して、ジョゼフィーネも緊張につつまれた。
立ち上がり、サビナは身構えている。
が、ジョゼフィーネの傍から離れようとはしなかった。
「急ぎの用件でなければ、のちほど出直してくださいませ」
扉の向こうが静かになる。
それでも、サビナは動かない。
目に険しさが漂っていた。
その意味が、すぐにわかる。
室内に、パッと3人の魔術師が現れたのだ。
いずれもローブ姿だったので、魔術師で間違いない。
動いたのはサビナが先だった。
3人の足元から火柱が上がる。
驚いて、ジョゼフィーネも立ち上がった。
サビナに任せるのがいいのだろう、とは思う。
ジョゼフィーネは魔術も使えないし、なにもできないのだ。
火柱につつまれても、3人の魔術師は平気らしい。
炎が消され、なにもなかったかのように魔術師が近づいてくる。
3人から同時に、何かが飛んできた。
手を振ったサビナの前で、氷の矢や黒い球、石のようなものが動きを止める。
ジョゼフィーネには前世の記憶があったため、それが「属性」だとわかった。
サビナは炎を使っていたので、そちら系統なのかもしれない。
だとすると、水や氷系統は、苦手とする属性となるはずだ。
その上、3人には炎に対する耐性がある。
サビナのほうが不利に思えたのだけれども。
ぶわっ!!
強い風が3人に向かって吹き上げた。
ローブに裂け目が入るのが、見てとれる。
そこから血が滲んでいるのに気づいたのか、3人がサビナと距離を取った。
その下がった先に、針のようなものが大量に飛んで行く。
(サ、ザビナ、すごい……強い……)
3人が、一斉に飛んで逃げた。
さりとて、避けきれず、体に多くの針が突き刺さっている。
さらに、3人の体から血が流れ出していた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
武神少女R 陰キャなクラスメイトが地下闘技場のチャンピオンだった
朽木桜斎
ライト文芸
高校生の鬼神柊夜(おにがみ しゅうや)は、クラスメイトで陰キャのレッテルを貼られている鈴木理子(すずき りこ)に告ろうとするが、路地裏で不良をフルボッコにする彼女を目撃してしまう。
理子は地下格闘技のチャンピオンで、その正体を知ってしまった柊夜は、彼女から始末されかけるも、なんとか事なきを得る。
だがこれをきっかけとして、彼は地下闘技場に渦巻く数々の陰謀に、巻き込まれていくことになるのだった。
ほかのサイトにも投稿しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる