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第1作 桜の朽木に虫の這うこと
第24話 思索の時間
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俺はいま、夢を見ているんじゃないだろうか?
あのとき、あのおそろしい魔王桜に出会ったとき、俺はすでに死んでいて、いま体験していることは、彼岸での出来事なのではないだろうか?
お師匠様、アクタ……
早く、会いたい……
二人とも無事なのだろうか?
いや、無事でなければダメなのだ。
あの二人に何か起こるだなんて、俺にはとうてい耐えられない。
どうか、無事でいてくれ……
いや、待てよ。
俺がもし本当に死んでいて、二人が存命であるのなら、俺たちは永遠に会えないことになる。
いっそ、そのほうがよいのか?
でも、会いたい……
くそっ、なんなんだ、このトンチ問答は?
循環論法にはまってしまいそうだ。
落ちつけ、違うことを考えよう。
ふう……
真田虎太郎くん。
俺は心のどこかで、彼を見下していたのではないのか?
こんな子どもに、何がわかるのかと。
しかし、あの子は確かに答えた。
問いかけるという形で。
蝶になることにではなく、這うことに意味があるのではないか、と。
這うこと、這いつづけること、か。
それが人間という、存在なのではないか?
蝶になれたら、そのあとには何があるというのか?
這うことに意味があるという命題は、真なのではないか?
俺は耐えられるのだろうか?
「毒虫」として這いつづけることに……
南柾樹。
俺はなぜ、あの男にアクタを重ねたのか?
あんなうさんくさい、いけ好かないやつに。
気に入らない、あの男のすべてが、その存在が。
待て、落ちつけ。
存在を否定してはいけない、それだけはダメだ。
どんな存在にも、他の存在を否定する権利などないはずだ。
いまの俺は冷静ではない、とりあえず落ちつくんだ。
彼にはどこか、「影」のようなものがあった。
確かにそれを感じた。
そこに何か、アクタが重なった秘密があるのかもしれない。
星川雅。
彼女は魔物だ。
おそらく内面は、あの表面以上に。
決して立ち入ってはならない領域が、彼女の中にはある。
立ち入れば、あるいは……
あの女からは、聴きださねばならないことが山のようにある。
魔王桜、アルトラ、そしていま俺を閉じこめるこの空間。
その元締めである「組織」の正体とは、いったい?
ただでさえ混乱しているのに、さらに情報を集める必要があるのか。
くそっ、もどかしい……
そして、真田さん
真田、龍子さん。
真田さん、真田さん……
ん、なんなんだ……この感覚は?
頭の中が、真田さんでいっぱいになる。
彼女の容姿が、そのやさしさが、俺の心を埋め尽くす。
なんだか……変だ、俺。
なんなんだ、これ……
体がほてってくる……熱い……
心が、満たされてくる……ああ……
わからない、わからない、が……これは……
真田さん、真田さん……
真田――
わけがわからない……
人間は、難しい……
はあ……
こんなふうにして、ウツロはしばし、思索にふけった。
(『第25話 昼食への勧誘』へ続く)
あのとき、あのおそろしい魔王桜に出会ったとき、俺はすでに死んでいて、いま体験していることは、彼岸での出来事なのではないだろうか?
お師匠様、アクタ……
早く、会いたい……
二人とも無事なのだろうか?
いや、無事でなければダメなのだ。
あの二人に何か起こるだなんて、俺にはとうてい耐えられない。
どうか、無事でいてくれ……
いや、待てよ。
俺がもし本当に死んでいて、二人が存命であるのなら、俺たちは永遠に会えないことになる。
いっそ、そのほうがよいのか?
でも、会いたい……
くそっ、なんなんだ、このトンチ問答は?
循環論法にはまってしまいそうだ。
落ちつけ、違うことを考えよう。
ふう……
真田虎太郎くん。
俺は心のどこかで、彼を見下していたのではないのか?
こんな子どもに、何がわかるのかと。
しかし、あの子は確かに答えた。
問いかけるという形で。
蝶になることにではなく、這うことに意味があるのではないか、と。
這うこと、這いつづけること、か。
それが人間という、存在なのではないか?
蝶になれたら、そのあとには何があるというのか?
這うことに意味があるという命題は、真なのではないか?
俺は耐えられるのだろうか?
「毒虫」として這いつづけることに……
南柾樹。
俺はなぜ、あの男にアクタを重ねたのか?
あんなうさんくさい、いけ好かないやつに。
気に入らない、あの男のすべてが、その存在が。
待て、落ちつけ。
存在を否定してはいけない、それだけはダメだ。
どんな存在にも、他の存在を否定する権利などないはずだ。
いまの俺は冷静ではない、とりあえず落ちつくんだ。
彼にはどこか、「影」のようなものがあった。
確かにそれを感じた。
そこに何か、アクタが重なった秘密があるのかもしれない。
星川雅。
彼女は魔物だ。
おそらく内面は、あの表面以上に。
決して立ち入ってはならない領域が、彼女の中にはある。
立ち入れば、あるいは……
あの女からは、聴きださねばならないことが山のようにある。
魔王桜、アルトラ、そしていま俺を閉じこめるこの空間。
その元締めである「組織」の正体とは、いったい?
ただでさえ混乱しているのに、さらに情報を集める必要があるのか。
くそっ、もどかしい……
そして、真田さん
真田、龍子さん。
真田さん、真田さん……
ん、なんなんだ……この感覚は?
頭の中が、真田さんでいっぱいになる。
彼女の容姿が、そのやさしさが、俺の心を埋め尽くす。
なんだか……変だ、俺。
なんなんだ、これ……
体がほてってくる……熱い……
心が、満たされてくる……ああ……
わからない、わからない、が……これは……
真田さん、真田さん……
真田――
わけがわからない……
人間は、難しい……
はあ……
こんなふうにして、ウツロはしばし、思索にふけった。
(『第25話 昼食への勧誘』へ続く)
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