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第三章 同居開始で溺愛されてます

四十八話

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「あっ、有栖川さん、お疲れ様です~」


 新入社員の女子が甘え声で返す。


「兎山先輩もいたんですね!俺もコーヒー飲みたくなっちゃって」

「お、おう、お疲れ」


 そう言ってラックから自身のマグカップを取り出す麗音の後ろで、ヒソヒソ声が聞こえた。

(ほら、せっかくだから聞きなよ)

(え~、でも~)


 俺は逃げ出したいのと聞きたいのとで迷っていたが、それより早く新入社員が口を開いた。

「あの、有栖川さんって、彼女とかいるんですか?」

「えっ?」


 麗音は一瞬だけ動きを止めたあと、マグカップを落とさないように抱えてから返した。


「えっと……彼女?」

「はい!有栖川さんイケメンですし、彼女とかいるのかな~って、あ、純粋な興味ですよ!別に彼女になりたいとか……」


 ゴニョゴニョと新入社員が続ける。

 同僚の方はニヤニヤと二人を眺めている。

 麗音は一呼吸置いたあと、二人の方に向き直った。


「俺、心に決めた人がいるんです」


 麗音のしっかりとした、芯のある声がした。


「小さい時からお世話になって、恩返しがしたくて……いつかその人と、幸せになりたいなって、だから今すごく頑張ってるんです!」

「あっ……そうなんですね、すみません……」


 新入社員のほうが消え入りそうな声で謝る。

 俺は泣きそうだった。

 麗音、好きな人がいるんだ。

 俺に構わなくても、その子の方に行けばいいじゃん。

 良い事のはずなのに、なぜか胸の奥が苦しかった。
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